第22話 テストとか無理
新クラスに慣れるには1ヶ月くらいだと思ってます
波乱の入学式から早いもので、もう月が変わろうとしている。
七音は初日に仲良くなった六人で行動することが多くなった。特に出会いが暴走の阻止というよくない出来事だった勇人とは、特撮ヒーロー関係と共通の趣味で一気に仲良くなった。互いの呼び方も下の名前で、良好なグループ関係と言える。
衝撃の初日から数日、三分の一弱にあたる人数が転校を申し込み、学園から去っていった。
夢と憧れに隠れていた絶望を目の当たりにしたのだ。七音達には転校者を攻める権利はない。それなのに、例の三人組を中心とした内部進学者はここぞとばかりに嘲笑し、馬鹿にした。
何がおかしいのか、本気で意味が分からなかった。
身体の隅々までプライドで出来ており、誰かを見下していないといられない哀れな人種。
流華に言われてそうだと考えていても、やはり悪口などは効いていて気持ちがいいものではない。
最も、三人組は遠巻きに七音達を馬鹿にはしてきたが、近づくことはなかった。理由は出回った噂と、零の存在だろう。
前者は言わずもがな、七音、勇人、ヴィンの三人の事である。初日に出回った噂は消えることなく、学園中に浸透している。ヴィンに至っては本人が噂を増長させている節があり、話しかけられることは少ない。
最初はなんとかしようとしたものの、一日一回くろえに愛を叫びに行っては無視されて悦に浸るという奇行を止める術など、知っているはずがない。
しかし、七音と勇人の生活ぶりに危険はないと思われたのか、同級生たちから話しかけられる確率が増えつつある。外部からの生徒ばかりだが、このまま仲良くなれればいい。
二人に加え、静葉や流華も外部進学者から好意的に接してもらっている。これも、零が自分から行動しているからなのだろう。
最初の授業に簡単な自己紹介という流れで、七音は下の名前しか知らなかった三人のフルネームを聞いた。
結城勇人、ヴィン・コーラル。そして、水無月零。
『名字からわかってしまうと思うのですが……水無月始は曾祖父です。とはいっても、自分的には権力とかないんで、普通の生徒です!』
それを横で聞いていた七音は開いた口が塞がらなかった。初対面から下の名前で呼んでいたので、名字をスルーしていた。まさかこんな爆弾があるとは、予想外である。
水無月始はこの学園の創立者だ。つまり、零は創立者の曾孫ということになる。権力がないと言っても、一般生徒に比べれば意見は通りやすいだろう。
下手な事をすれば、教師陣の方に筒抜けになる。その認識があるからこそ、内部進学者達は積極的に見下しには来ない上、そんな零と普通に行動している七音達が安全だと判断できる。七音にとってはありがたいことだった。
そうした事がいろいろとあった、四月の最終金曜日。
七音、勇人、ヴィンの三人は教室のテーブルに突っ伏していた。
「……終わったぁ……」
「ヒーローに必要なのはな、勇気と強さなんだぞ? 頭脳はな? 博士に任せればいいんだぞ?」
「くろえ様の激励があったらよかったなぁ……」
各々、生気と共に言葉を吐き出している。それを見た流華は七音の背を摩り、零と静葉は互いに肩を竦めた。
「七音、しっかり。テストは終わり」
「どっちの意味で終わったんだろぉ……わかんにゃぁい……」
「七音なら大丈夫。自信をもって」
「ムリィ……」
流華の言葉も、七音を元に戻すまではいかないようだ。
今日までの一か月。授業はひたすら座学だった。
基本の五教科を一日五十分一コマずつ。人数が多い為、三教室でわかれて進行する。昼食を間に挟んで終了したら、この学園の目玉でもある魔物退治の授業だ。
通常は適合相手探し、適合率の訓練、戦闘訓練と体を動かすものだが、それより先に知識を詰め込むのだ。五教科の後、再び魔物退治に関する座学。興味深い内容だったが、頭脳より行動の七音達三人にとっては辛い日々だった。
そして、一か月の知識が身についているか確認するという名目で小テストが行われたのだ。あまりにも低い点数の場合、補習が追加されるらしい。そこで力を出し切った結果が今の脱力しきった姿である。
「あはははははは……」
「うぇひっひっひっ」
「勇人君もヴィン君もしっかりしてください!」
「あたし、今なら飛んでいけるわどこまでも」
「七音、七音!」
「重症ですねぇ……きつけ薬、使います?」
「あるんですか!? お願いします!」
零の言葉を聞いて、静葉が鞄から小瓶を取り出す。それを見た瞬間、流華が青ざめて後ろに下がった。
静葉は小瓶を三人に近づけ、自分はできるだけ遠くにいながら蓋を開けた。毒々しい色の煙が、三人の鼻先に漂う。
「「「ぐはぁっ」」」
途端、背をのけぞり起きた。鼻を摘まんで悶える三人を怯えと憐みの目で見る流華と零。静葉はすぐに小瓶の蓋を閉めなおして鞄に投げ入れた。
「落ち着きましたか?」
「は、鼻が……!」
「敵襲……!?」
「目の前が……暗くなりかけた……!」
「小テストといっても、今まで習った基礎知識がわかっていれば大丈夫ですよ。三人共、この授業は一生懸命でしたもの」
「静葉はわかっていない!」
「頭がいい奴はみんなそう言う! オレ達からしたら、テスト、補習、その存在が嫌なんだよ!」
「それなオブザそれ」
ガシィッと強く握手し合う三人に、静葉は頬を掻く。零と流華とも顔を見合わせ、話題を変えることにした。
「ほら、来週からは実技ですよ?」
「実技!」
「「イエア!」」
実技と聞いて七音は目を輝かせ、勇人とヴィンはハイタッチで喜んだ。似た部分が多い三人だ。先程のテストはもう忘れ、実技の楽しみでワクワクしている。補習は追加されるだけであって、実技に参加不可などではないのだ。
気力を取り戻した七音達は、当初の目的通りカフェで一休みする為に荷物を纏める。
ふと、目に入ってしまったスマホの画面に、七音は思いっきり顔をしかめた。
「七音、どうした?」
「ごめん、ちょっと電話が……」
笑顔を繕って答える。その間にも、スマホは振動で着信を伝えている。表情の変化に引っかかったものの、邪魔にならないようにと先に行くと言ってから部屋を出る流華達。
皆の姿が見えなくなってから、七音は作り笑顔を落とした。何回見直しても、画面の電話相手は変わらない。大きく息を吐き、電話に出た。
『七音ぇぇぇ! お兄ちゃんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!』
「知ってる」
『七音の声ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
今すぐ切りたい。だが、毎日のようにSEINを送ってくるマサルが電話を使う程の理由があるはずだ。
「おにい。約束の十二個目、覚えている?」
『勿論! 小学五年生の十月十九日の午後八時三十二分五十六秒に指切り拳万をしたもんね! 【電話をかけるのは、それに見合うくらい大事な要件の時だけ】!』
あまりにも具体的な日時に思わずゾッとしたが、マサルは元からこういう人間だった。しばらく離れていたからか、鈍っていた感覚が戻ったのだろう。とりあえず、用件について尋ねた。
「それで? 用件は?」
『そうだよ七音! 今すぐお家に戻ってきて!』
「またそれを繰り返すの? 切るよ」
『違う違う! 五千歩くらい譲って水無月入ってもいいけど、今だけは戻ってきてほしいんだ!』
話の意味が分からず、首をひねる。考えが追い付かない七音の耳に、マサルの必死に訴える。
『この一か月、七音が心配過ぎて戻ってくる口実を探していたんだよ! そしたらとんでもないデータが見つかったんだ!』
「とんでもないデーター? 魔物のデーターとか?」
『違う! 樫城くろえっていう今年の一年生に関してだよ!』
「くろえの!?」
「くろえ様と聞いて!」
七音が叫んだ途端、ヴィンの声と共に勢いよくドアが開いた。見れば、ドアを開けて狩人の目つきのヴィンと、その後ろに他四人が茫然と立っていた。どうやら、ドアの外で七音を待っていたようだ。
ぽかんと口を開ける五人をよそに、くろえの話題が気になってじっと七音を見るヴィン。そもそも、ハンズフリーですら聞き取れるか微妙な距離で、正確にくろえの単語を聞き取れるヴィンが少し怖い。
『七音!? 何の音!? 七音、七音ぇぇぇぇぇ!!』
スマホの向こうから聞こえるマサルの声が、静まり返った部屋でやけに大きく聞こえた。
一夜漬けタイプと基本的に頭いい組の差が残酷




