第20話 深まる謎
ついに20話目!
静まり返った室内に、カーテンの収容で再び明かりが差し込む。起動音と共に、天井の換気扇が一斉に動き始めた。ほんの小さな音だったが、やけに響いた。
最後列だからこそ見渡せる室内は、暗くなる前よりも空席が目立っていた。
再生中、七音の後ろの扉へ駆け上げる音が何度も耳に届いた。シルヴァンが閉じた前方の扉も半開きになっている。小走りでこの部屋から逃げたのだろう。
悲惨なのは、逃げたくても逃げられなかった生徒達だ。度を越した恐怖は、頭を真っ白にさせて選択肢を消す。
結果、見たくないのに、聞きたくないのに、座っているしかできない状態が出来上がる。それを見越した上でのエチケット袋の配布だったようだ。
七音は気持ち悪くなったものの、吐くまでには至らなかった。被害はここまで大規模ではなかったが、実際にその場にいて五感で恐怖を感じた幼少期の経験が免疫のように働いたようだ。
横を見れば、勇人、零、ヴァンの三人も、エチケット袋は未使用だった。
七音と同じように経験があるのか、度胸があるのか、理由はいろいろ考えられる。それよりも、この後の話の方が気になる。七音は改めて前方へ視線を戻した。
丁度、モノクルの位置を直したシルヴァンがマイクに語り掛けるところだった。
『この戦闘において、生還者はギリギリ一桁。倍以上の人数が一気に亡くなった。原因の解析、映像内の詳しい解説や後程、授業で行う。転入の申し込みについては各所に掲示するが、三日後の午後五時を締め切り時間とさせてもらう。映像については以上だ。次に』
「ちょっといいかしら」
マイクを使うシルヴァンの話を遮る声が響く。至って普通の声量だったのに、七音の耳にもはっきりと声が聞こえた。三つ隣でガタっと椅子が動く音がしたが、見向きもせずに前だけを見る。
シルヴァンが声をかけてきたくろえを、険しい顔つきで見つめていた。中断されたからという理由では弱い程、くろえに対して悪感情を抱いているようだ。
そんな視線にも関わらず、くろえは平然としながら言葉を発した。
「『去年一年で最も被害が大きかった戦闘映像』って言っていたわよね? 私の思っていたものと違うみたいだから、説明してほしいの」
『……言っている意味が分からん。戯言は』
「『学校規模の犠牲者』が出たものと、『部隊丸ごと戦死』したものがあるでしょう?」
部屋全体に衝撃が走る。一拍置いた後、動揺の声が次々に上がっていき、一気に騒々しくなる。
シルヴァンは眉間の皺を濃くしながら、くろえを睨みつけた。七音からくろえの表情は見えないが、シルヴァンの威圧にもどこ吹く風のようだ。
驚きを逃しきれずに隣を見れば、同じく隣を見た零、勇人と見つめ合う形になった。
前者はわからないが、後者は明らかにわかる。くろえを畏怖の対象へと持ち上げた、噂の部隊のことだ。
その噂をくろえは気にしていないようだったが、ここで話題に出すことでもないはずだ。それとも、『魔物との戦闘による闇の部分』にくろえの行動が該当するのだろうか。
誰もが固唾を飲み込む中、シルヴァンが忌々し気に吐き捨てた。
『今回の選考基準はあくまで、【水無月の隊員が魔物との戦闘においての被害】の大きさだ。【民間人への犠牲者数】及び【魔物を理由に殺された隊員数】は含まれていない』
「あら、そうなの」
くろえの返事は素っ気なかった。聞いてはみたが、そこまで気になっていたことではない。そんなニュアンスが含まれていた。代わりに、他の生徒達の反応が大きい。
魔物が理由。くろえがただの殺人者ではないという事が全員に知れ渡った。生徒の中に、噂に疑問を抱く声が出てくる。だが、シルヴァンが冷ややかに言い放った言葉は再び衝撃を与えた。
『樫城くろえ。お前のとった行動は、結果だけ見れば正しいのかもしれん。実際、上の何人かはお前を称賛した。だが、俺はお前の行動を許すわけにはいかない』
はっきりとした侮蔑の言葉。それさえも、くろえは悠然として聞いている。動揺する生徒達の会話が重なり、雑音となって七音の耳まで届く。
くろえの謎がわかるかと思いきや逆に謎が複雑になった。そう思いながら、七音はくろえの後姿を見る。周りの空席が、他の生徒達が避けたものではなく、くろえ達から他人への境界線のように見えてきた。
沈黙し合うシルヴァンとくろえ。段々と生徒たちの声が少なくなっていき、気が付けば全員沈黙していた。シルヴァンの本音で重くなった雰囲気が、どこか居心地を悪く感じさせる。
それを読み取ったのだろうか。シルヴァンが大きく咳払いをすると、くろえを視界からずらして話し始めた。
『あー、すまん。続きを話していく』
そう言ってから、資料を用いて本格的に進めていく。七音はペンを持って傾聴するも、くろえが気になってしまう。
いろいろと疑問があるが、今はどうしようもできない。そう自分に言い聞かせるしかなかった。
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