第18話 戦闘の裏側
高校というより大学のイメージな学園
ガイダンス会場は、大学の教室棟の形をしていた。看板で示された部屋の入口になぜか陳列しているエチケット袋を取り、中へと入る。
開始時間ギリギリということでほとんどの生徒が各々自由に座っていた。 緩く、すり鉢状になっている部屋のようで、後ろの席からでも十分に教壇が見える。
生徒達の奇異の目を避ける為、七音は入ってすぐの最後列に座った。その隣に、先程知り合った勇人、零、ヴィンの三人も座る。
数人ほど後から入ってきたが、七音を一目見るや否や、そそくさと前の方の空席へと向かっていく。目の前に開いている席があるにもかかわらずだ。
どうやら、七音を取り巻く噂はデメリットの方が勝ったらしい。
「……つらぁ」
「自分的には、避けられている原因の一端は勇人君とヴィン君だと思いますが……」
本音を漏らす七音に、零は何か言いた気に二人を見る。当の二人はわかっていないようで、互いに顔を見合わせて首をひねっていた。
移動中に零から聞いた話では、先程のやり取りは二度目らしい。入学式の会場に着いて早々、勇人がすでに着席していたくろえにわざわざ近づいて告げたようだ。
聞けば、三人は同じ中学の出身で、毎日一緒にいるほど仲がいいらしい。だから、正義感の強い勇人がくろえに対して嫌悪感を露わにしていたのは零もわかってはいた。
だが、初日からその相手に食って掛かるのはさすがに予想できなかったとのことだ。
その時は近くにいた教員にも止められ、不満ながらも勇人はその場を引いた。その時、くろえは同じような塩対応でまともに相手をしなかったらしい。
それが何故かヴィンの心に火をつけたようで、気が付けばくろえに対しての特殊な感情を大っぴらに表していた。
特待生に敵意丸出しな勇人と被虐心丸出しなヴィン。そんな存在が噂にならないはずはなく、結果として三人まとめて避けられていたようだ。
現在、七音も混じって四人とも避けられているということが、周りに一列分の空席があることで物語っている。その分、前列はぎゅうぎゅう詰めかと思えばそうではない。
一番前の席に、見覚えのある紫の髪が存在感を放っている。その隣には群青色の髪をした、見知らぬ少年がいる。青の学ランを羽織っており、そこからちらっと別の色のインナーが見える。
座っている状態でくろえより若干低く、くろえを見る横顔は、鋭い目つきが特徴的なものの幼さが残る顔立ちだ。
くろえとそのパートナーだろう。話では、二人は恋人同士らしい。仲良さげに話している姿は、周りの空席の広さもあって二人だけの空間のように見えた。
前列も後列もダメということで、代わりに中列あたりが一席の余裕もなく埋まっている。申し訳ないような、そうでもないような。中途半端な気持ちで眺めていると、前のドアが開いて誰かが中に入って来た。
遠くから見たからよくわからないが、二十代後半から三十代前半ほどの男性だ。暗めの金髪を整えてモノクルを付けた姿は、先生という名称から想像するイメージに近い。
教壇に立った男性は姿勢を真っすぐに、全員を見渡しながらマイクに口を近づけた。
『えー、入学おめでとう。俺はシルヴァン・フーリエ。今回、この学年の主任にめでたくなく選ばれた。なので、このガイダンスの進行をさせてもらう』
そう言ったシルヴァンは一度咳払いをすると、真剣な表情ではっきりと言った。
『ここにいる生徒達の多くは、魔物を倒す隊員に憧れて来たに違いない。だが、言葉を濁さず言う。それは単なる一部分、光が差す表部分だ。魔物との戦いは常に真剣勝負。殺すか、殺されるか。戦いに出れば、それしかない。四肢欠損による引退者、戦死者。毎年何人出ているか、知っているか?』
生徒達が動揺する。ほんの少し、栄誉の裏に隠れていた闇の部分。隠していたそれをはっきり指摘されれば、誰もが臆する。無論、七音たちも例外ではなく、顔を見合わせた。
微動だにしていないのは、くろえと隣の少年くらいだ。
『正直、俺はこの学園を好きではない。何が悲しくて、俺の半分も生きていない子供達を戦場に出さないといけない? 訳が分からない。……いや、理解しているが、感情が追い付かないってのが現実だ。そこで、これの出番だ』
そう言って取り出したのは、CDケースだった。ぶっちゃけた内容についていけてない生徒達に構わず、シルヴァンはひらひらとケースを見せつけてくる。
『これは、各部隊に配置された映像班から集められた戦闘映像なりまーす。それも、去年一年の中で最も被害が大きかった戦闘映像でーす。先に言う、かなりグロテスクな映像だ。これを今から流しまーす』
おちゃらけて言うシルヴァンに、再び生徒達がざわめき始めた。それを拍手の音で押さえ、シルヴァンは続ける。
『具合が悪くなったら遠慮なく部屋を出ろ。間に合わない場合は、入口にあった袋を使え。そして、改めて覚悟を決めてほしい。無理だと思ったら誰でもいい、教職員に言ってくれ。当校と連携している高校をピックアップして、選んだところに編入させる。中等部で流した際、四分の一程が辞退を申し入れた。なので、意固地にならなくていい。では、流すぞ』
シルヴァンが言い切ると同時に、全ての窓が遮光カーテンで覆われた。真っ暗になった部屋の前方に、巨大な四方の光が映し出される。
ストック含めて20話を越しました!
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