第17話 気に入られた
ストック貯めるのはいいけど、未だに更新頻度に迷ってます
零の言葉も聞かずに殴りかかろうとする勇人を、七音は駆け寄って前から止めた。体が反射的に動いのだ。
急に現れた相手に勇人は驚きつつ、引き剥がそうとする。だが、見知らぬ少女ということで理性が働いているのだろう。そこまで強い力ではなかった。
「何だ!? お前も悪か!?」
「違うけど! 喧嘩はよくないよ!」
「はっ、なっ、せっ!」
聞く耳を持たない勇人を抑えながら、必死に七音は考える。そして、ある可能性を思いついた。
「げ、芸術戦隊ツクルンジャー第20話ぁ!」
「敵側を抜けて仲間になったショドーブラックが皆に認められようと先走って幹部に一人立ち向かうけど重傷を負ってそこにガカレッド達が合流して敵を退けて改めてショドーブラックが仲間になる感動話!……ハッ」
勇人が何かに気付いたようで、動きが止まる。もう大丈夫だと七音が抑えを解くと、その場で一人頷く。
「そうか……今のオレはショドーブラックだった……巨悪を倒すには、一人で突撃してもダメなんだよな、うん」
落ち着いた勇人に、七音はほっとした。勇人がヒーローに拘っているのはくろえとの会話からわかった。ならば、戦隊シリーズを例に持ち出せば通じてくれると考えたのだ。
七音も戦隊シリーズは好んで観ていた為、今の状況に似た話を思い返すことができた。
冷静になった勇人に、零の顔が明るくなる。これ以上大ごとにならなくてよかった。ありありと顔に浮かぶその内容に七音も納得していた、その時だった。
「ねぇ」
「ひょわっ!?」
背後から囁かれて、心臓が飛び跳ねた。ばっと振り返れば、くろえが先程とは違う、にこやかな笑みを浮かべて立っていた。
考えてみれば、勇人とくろえは向かい合っており、七音はその間に飛び込んだ形になる。くろえとて、急に現れた生徒が気にならないはずがない。
人殺し。一部隊全滅。
先程まで飛び変わっていた内容が脳裏をよぎる。しかし、詳しく知らないので糾弾も援護もすることはできない。今の七音にできるのは、他の人同様に普通に接することだけだ。
「あたっ、あたしに何か……?」
「貴女、止めてくれたのよね? 友人でもないのにどうして?」
「どうしてって……目の前で暴力沙汰になりそうだったから、咄嗟に……」
「……私が怖くないの?」
じっと見つめてくるくろえ。人を見定める目つきに、七音は目線を逸らしながら正直に告白する。
「…………ちょっと怖い、けど……事情も、あなたのことも、詳しく知らないから……」
くろえの態度は、限りなく噂が真実だと物語っている。しかし、そうせざるを得ない理由があったのでは、事情があったのでは。七音はそう考えてしまう。
その考えをくみ取ったのだろう。くろえは花のような笑顔を浮かべると、そのまま七音を抱きしめた。
大きなどよめきが聞こえる。良い匂いと大きく柔らかなふくらみが、七音の頭を包み込む。混乱する七音の頭上から、優しい声が降り注いだ。
「名前、聞かせてくれる?」
「えっと……天村七音、です」
「七音……いい名前ね。きちんと人を見定めようとする姿勢、嫌いじゃないわ」
「あの……樫城さん?」
「くろえよ、七音」
「…………くろえ?」
おずおずと名前を呼べば、くろえは満足げに頷いた。七音の頭を撫でた後、身体を解放する。そのまま歩き出し、勇人たちの横を通り過ぎていく。
「あぁ! くろえ様! お待ち下さ」
「七音。早く行かないと、遅刻してしまうわよ」
ヴィンの言葉を遮り、七音に振り返ってほほ笑むくろえ。それだけ言うと、ヴィンは無視して進んでいった。
嵐が過ぎ去ったような感覚が七音に訪れた。茫然と去っていった方向を眺める七音の耳には、先程同様に周りのひそひそ話が聞こえる。
不意に両手をガシッと掴まれた。驚く間もなく、目の前で手を包み込んだ零が笑顔で口を開く。
「ありがとうございます! 自分的には、一人だと勇人君もヴィン君も止められなかっと思います……!」
「……うん、暴走の方向性が違ったもんね……」
視線をずらして下りの二人を見てば、ヴィンは無視されたという事実を噛み締めて恍惚としていた。
勇人の方は落ち着いたものの、真面目な顔でメモを取っていた。ノートにはでかでかと『対悪人用特別ノート!』と手書きで表紙がついている。
随分と個性的な二人の間に入る苦労というのがありありと思い浮かぶ。
「それにしても! 勇人君の趣向を把握して即座に落ち着かせるとは……! 自分的には、素晴らしい観察眼だと思います! やはり、『戦艦様』に教わったのですか!?」
「いや、武蔵さんは関係な……………………ナンデスト?」
七音の問いに、きょとん首を傾げる零。くろえがいなくなっても止まないひそひそ話。嫌な予感しかしない。
先程まで立っていた位置へ勢いよく視線を向ければ、地面の上に見たことがある色合いの帽子が落ちていた。恐る恐る、頭に手を伸ばす。触り慣れた跳ね毛の感触がした。
いつ落ちたのか、答えは簡単だ。勇人を止めたあの時だ。噂の人物だと、一瞬でバレたのだろう。
だが、恐れていたような、生徒たちによる囲みがない。その疑問は、身体に移った残り香ですぐに気が付いた。くろえの抱擁は、周りに印象付けたに違いない。
憧れの『戦艦様』に近づくメリットと、慄く特待生に近づくデメリット。その二つが相反して、安易に七音に近づく生徒がいないようだ。
ただ、七音としては望んでいない状況だ。描いていた理想の生活が崩れる音に、乾いた笑いしか出なかった。
ミステリアス美少女っていいですよね?




