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My own Sword  作者: ツツジ
本編
168/187

第168話 武蔵の戦場

 



 一つの小さな村。普段はのどかな暮らしをしているだろうそこから、煙が轟轟と広がっている。



 それを目視した瞬間、武蔵は部隊員に一言告げて駆け出した。

 ただの火事な訳が無い。間違いなく、フェーゴと魔物の群れの仕業だ。


「強化薬使うけどいいよな!?」


 念の為に声をかければ、三人から許可が出る。最も、許可されなくても使うつもりだったが。

 それぞれに薬をかければ、白銀の色合いが若干明るくなる。シミュレーションで使ってきたので、効果は分かっている。

 一番効果的に群れを排除するには、村の中央に行かなければならない。強化されたブーツで更に加速し、村に近づく。





「殺戮☆ 虐殺☆ アメェェェジング☆ さぁさぁ、楽しいショーの始まりデス! お代は命でゴザイマァス!」




 楽しそうなフェーゴの口上に混じり、多数の悲鳴が木霊する。村に入った武蔵は顔を顰めた。

 破壊された建物に転がる遺体。その周りで暴れ回る魔物は、見た事が無い特徴を持っていた。


 二つに分かれた鼻を振り回して建物を破壊する象、燃えた鬣を靡かせるライオン、三匹で車輪となって人を轢く猿。

 全ての魔物の口の端が縫われ、無理矢理笑顔にされている所が不気味だ。


 そこに紛れて破裂音が響き渡る。フェーゴの手によるものだろう。

 王夢の指示を受け、急いで中央を目指す。たどり着く寸前で、武蔵は目を見開いた。

 驚異から隠れる様、瓦礫の影で小さな兄弟が抱き合って震えていた。だが、それを嘲笑うかのように上からフェーゴが覗き込む。


「コレはコレは、何とも無力で可愛らしい姿デスネェ? 悲しまないヨウ、二人まとめて花火にしてアゲマショウ」

 厭らしく笑うフェーゴに震えを強くする兄弟。







 これ以上、好き勝手させてたまるか。






「そこまでだクソッタレ共ぉ!」


 武蔵は心から叫び、素早くライフルを構えて引き金を引いた。真上に発射された銃弾は、途中でピタリと静止する。

 バチバチと音を立てて放電する珠となり、そこから無数の雷が降り注いだ。落雷は魔物だけを貫き、黒く焦がしていく。

 通常の魔物ならこれで十分だが、フェーゴには足りない。武蔵は再び駆け出し、フェーゴに接近する。


 武蔵の出現に唖然としている顔へ、同じく『雷』を纏った小手を全力で突き出した。


 手に肉や骨の嫌な感触を受けたのも束の間。フェーゴは殴った勢いのまま吹き飛び、家だった物の残骸へ突っ込んで行った。

 追撃したい所だが、それよりも優先する事がある。


「大丈夫かガキンチョ達!? 立って走れるか!?」

「え、あ……」

「う、うん」

「なら向こうへ走れ! 他の生き残りにも声掛けて行け! 水無月部隊がそっちから来る!」


 水無月の名は知っているようで、兄弟の顔に生気が戻 る。戸惑いながらも返事をして、二人は武蔵が示した方へ走って行った。 

 その背を見送っていると、場違いな拍手が聞こえてきた。その行動に不快さを全開にして、そちらへ顔を向ける。


「……ナメてんのか、てめぇ?」

「イエイエ! 心からの感動の拍手デス! 何とアメージングでファンタスティックなパフォーマンスなのデショウ! 流石、ワタクシ様愛しの『戦艦様』!」

 ベラベラとよく回る口だ。属性をつけて殴ったというのに、フェーゴは傷一つなく立ち上がっている。

「アア! 愛おしさが溢れてキテイマス! 愛おしい! ワタクシ様、貴女が欲しくてタマリマセン!」

「あっそ。ほざいてろ。あたいはアンタを倒すだけだ」

「ソウソレ!」


 急に武蔵へビシッと指を付き指すフェーゴ。

 意味が分からず首をひねる武蔵の前で、フェーゴは自身の身体を抱きしめた。


「弱者を見捨てず、守り抜くと決意したそのお顔……まさに『戦艦様』の二つ名に相応しい勇マシサ! それこそが、ワタクシ様が最も焦がれるオ姿デス! 言い換えれば、貴女をこちらに引き込んでしまったら? エエ、ワカッテシマイマシタ! ワタクシ様の愛する貴女でなくなってしまうデショウ! 何という悲劇! トラジェディ! 気づかなければヨカッタ事実!」


 頬を紅潮させ長々とフェーゴは語る。

 武蔵はイマイチ理解することができない。魔族への勧誘を諦めたというのは何となくわかる。それ以外は王夢か一弘が耳打ちしてくれるだろう。

 そう考えていた武蔵だったが、笑みを浮かべたフェーゴと目が合う。途端、殺気を全身に感じた。

 反射でライフルを構え、全てに『雷』をまとわせる。その様を見てもフェーゴは余裕を崩さず、唐突に背から羽を生やした。


「てめっ」

「逃げるのではアリマセン! 『戦艦様』へ招待の申し出でゴザイマァス!」

「招待だぁ!?」

「ハイ! ワタクシ様が貴女の最後を彩る特別ショー! 一般観客などお断り! 役者が互いの観客のアメージングショータイム☆ サァ、着いてきてクダサイマシ!」


 言うや否や、フェーゴの姿が上空へと消えた。慌てて視線を追えば、かなりの速さで移動をしている。

 迷うことなく、武蔵はブーツで加速し後を追いだす。



 時間にすれば一分もかかっていないが、速さからすればだいぶ離れた場所だ。


 魔物の群れが通ってきた道でもある。荒らされた形跡のある草原に、大岩や凹凸が人工的に作られている。

 明らかに戦争場を意識した作りだ。そう考える武蔵の前で、フェーゴが下降してくる。その姿は、ここに来る前よりも変わっていた。

 手足の爪が、ギザギザした歯から八重歯だけが鋭く伸びている。愉快さを隠す様子をもなく、サングラスの奥で目を輝かせているような気がした。


「サァサァ、ここがワタクシ様と『戦艦様』だけの舞台でゴザイマス! 二人で高め合いマショウ! 激しくぶつかり合いマショウ! 愉しい愉しいショーの開幕デェス☆」

「ハッ! だったらあたいから目を逸らすんじゃねぇぞ!?」


 挑発すれば、フェーゴが感極まって笑みを深めた。王夢が小言を言っているが、最大の目的は引き留め。向こうがお膳立てしてくれたのだ。乗らない手はない。

 考える必要がなくて良かった。武蔵はそこだけ感謝をし、目の前の敵に集中するのだった。

各魔族の引き留め成功。

次回、本命の七音視点へ

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