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My own Sword  作者: ツツジ
本編
162/187

第162話 兄の想い

マサルの説得:難易度A

 

 七音が叫べば、マサルの意識はこちらに向く。話の流れから、マサルが自分を想う気持ちの暴走だと分かる。

 ならば、七音自身が説得しなければ、マサルは絶対に納得しない。マサルを睨みながら、大きく息を吸い込んだ。


「これはあたしとおにいだけの問題じゃない! 世界中の人の命がかかってるの! あたしがやらないと」

「七音がやる必要はないよ。そこの奴の悪影響かな? 使命感に酔っているみたいだ」

「そうだとしても、それ位強い想いがなければ出来ないことなんだよ! 絶対にやり遂げるって考えてなきゃ、この作戦は上手くいかない! 分かってよおにい!」

「分かりたくない!」


 マサルの怒声に、一瞬身体が震えた。

 声を荒らげるマサルなど、初めて見る。マサルは七音に対して、どんな時でも優しい口調と声色だった。



 それが今、死の危険に向かうことを止めて怒鳴る。





「大勢の他人より七音の方が大切だ! そんな大切な妹を死地に見送れとか、どんな拷問だ!? だから、水無月に行くなんて反対だったんだ!

 俺に適合の素質はないから、七音の傍にいられない! 特別部隊なんかで七音が出て戻ってくるまで、ずっと心臓が抉られる様に苦しかった!

 なのに、今回は七音が死ぬ可能性しかない! 行かせる訳にはいかないんだ!」

「おにい……」





 マサルの隠していた本音に、七音は胸が締め付けられるように痛んだ。


 昔、助けてくれた武蔵の様になりたい。自分も、人を助けたい。

 その想いからずっと水無月へ憧れて、マサルの反対を押し切り進学した。

 危険だと分かっているのに、邪魔をするマサルに腹を立てるばかりだった。



 しかし、残される家族の想いまでは想像していなかった。



 誰よりも七音を優先するマサル。その七音が戦っている間、マサルがどれ程までに辛いか。

 吐き出された感情が、マサルの苦痛を物語っている。

 言い切ったマサルは黙り込んでしまった。怒っていた顔がぐしゃりと、今にも泣き出しそうな顔へと歪んだ。

 それを見て、七音はマサルに向かって歩き出す。

 七音が近づく度に、マサルは堪えようと震えた。だが、耐えきれず走り出し、七音を腕の中に収めた。


 久しぶりに兄に抱きつかれた。中学に上がったあたりから、七音が避けるようになったからだ。

 七音を強く抱き締めて震えるマサルは、記憶よりも大きい姿なのに小さく見えた。


「……嫌だ……七音、行かないで……!」

「でも、行かなきゃ死んじゃう。おにいもあたしも、他の皆も」

「分かってるよ……! 引き止めても、七音は死んでしまう……それでも、死にに行くような七音を、見送りたくないんだよ……」


 嗚咽混じりで矛盾した事を話すマサル。七音は無言で、肩に縋り付く頭を撫でる。

 理性と感情が噛み合わない。それだけ、マサルが七音を大切にしているのだと伝わってくる。



 いつもなら重いとうんざりする心が、とても嬉しい。



 少しして、マサルが離れる。泣き腫らしながらも決意した顔に、七音はほっとした。


「分かってくれてありがと、おにい」

「……七音なら、成功して無事に戻ってくる。お兄ちゃんは、そう信じてるからね」

「うん!」


 落ち着きを取り戻したマサルに、七音は微笑む。マサルは頭を撫で返した後、扉の向こうから何か持ってきた。

 蓋のついた箱で、そこそこの大きさがある。七音が受け取ろうと手を出すが、マサルは首を横に振った。

 そのまま通り過ぎ、勇人の前で足を止める。同時に、箱を思いっきり勇人に押し付けた。


「うおっ!?」

「死ぬ気で七音を守れ、赤茶髪。一人ヘラヘラ帰ってきたら、俺がお前を殺す」


 箱を落とさないように受け止める勇人に、マサルは冷たく言い放つ。

 七音が慌ててフォローしようとする前に、勇人はマサルを見据えてニヤッと笑った。


「言われなくとも。オレより先には絶対死なせないぜ」


 言い切った内容は静かな部屋で響き、誰かが揶揄うように口笛を吹いた。

 七音は一瞬固まり、見る見るうちに頬を紅潮させた。不意打ちの直球好意は、心臓に悪い。

 ただ、マサルは気に入らないのか舌打ちをして、踵を返す。


「七音。お兄ちゃんは信じてるよ? もしダメなら、お兄ちゃんも直ぐに逝くから待っててね?」

「え゛」


 とんでもない発言に、七音は呆気に取られた。後味が悪いから止めてほしい。そういう前に、マサルはそのまま部屋を出てしまった。

 もう見えない後ろ姿に、教師陣がため息をついた。


「なんて言うか……………………どこまでいっても、天村君はブレないね」

「運搬をアイツに任せたお前が悪い」

「いや、ほら、これ作るのに天村君大活躍だったから……」

「んで、くろえ様の気配漂うこれは何なんだ?」

「「「え」」」


 脈略のない言葉にギョッとして振り向いた。発言をしたヴィンは、向けられた視線の数々に首を傾げている。その隣で、勇人は抱えた箱を青ざめた目で見ていた。

 少し離れた七音は皆の顔が一望できる。流華や零などはヴィンの言葉に驚愕しているようだ。普通の反応だと思う。実際、七音も驚きの方が強い。

 代わりに響や璃久斗といった教師陣と特待生組は、ヴィンに対してかなり引いている。なんで分かるのかと、その顔が物語っていた。


 つまり、例の物というのはくろえも関わっている事は事実。


 それを初見で、それも中身の見えない箱に入った状態で感じ取るヴィン。

 くろえの視線が、ドブ川に流れる水死体でも見たかのように冷たい。当然の反応だろう。


説得に成功。会議パートはあと一話です

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