表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
My own Sword  作者: ツツジ
本編
16/187

第16話 特待生と男子三人組

一気に登場人物増えます!


 入学式は代わり映えのない、退屈な時間だった。流華たちと席が離れていて残念だったが、こういった場では友人と話せないので別に問題はなかった。

 校長が難しい話をし始め、多くの人に眠気が訪れる。七音も例外ではなく、次に意識が覚醒した時には、すでに閉会の挨拶になっていた。

 中学校の入学式も同じだったなとぼんやり思いながら会場を出、流華たちに会いたい気持ちを抑えてガイダンス会場へと向かう。


 入学式を行った会場は一般的なホールのようなもので、大勢の人がいっぺんに収容できた。次のガイダンスでは新入生が半数ほどになるからか、ホールより少し離れた別の建物で開催すると資料に書かれている。

 移動時間を含め、建物まではトイレ休憩を挟んでぎりぎり間に合うくらいだ。流華たちに会って話す時間はない。



 同じ方向に進む人の流れに身を任せながら、七音は頭を触る。帽子はきちんと、七音の頭頂部を隠していた。



『人は親しくない相手に対し、特徴を見つけて記憶することがほとんどです。今回っている噂も、名前や顔ではなく特徴が伝えられているみたいです。七音さんの場合、その可愛らしい双葉ですね。それを隠すことで、今日一日は乗り切れると思います』



 そう言いながら、静葉は七音に帽子をセットしてくれた。すっぽりと双葉に覆いかぶさったベレー帽は、激しく動かなければ落ちそうにない。

 静葉の思惑通り、入学式前後に武蔵関係で話しかけてくる人はいなかった。ただ、噂はすでに広まったようで、船内の顔見知りが興奮気味にそのことを語っていた。


 ガイダンスさえ終われば、流華たちと合流できる。慣れない帽子を触りながら、会場を目指す七音。


 不意に、ざわめきが聞こえた。自分の事かとビクッと肩を震わす七音だったが、周りの視線は七音の後ろを指している。くるりと後ろを振り返り、思わず息を飲んだ。




 明らかに異彩を放った少女が一人、涼しい顔で歩いている。



 黒を基調としたゴシックと呼ばれる服を着こなし、紫色の波打った美しい髪を風に遊ばせている。真白の肌、端麗な顔立ち。人形のように美しい姿からは少女らしさよりも大人びた妖艶さを放っていた。

 七音は目が離せなくなった。近づきがたい雰囲気が、どこか恐ろしかった。周りの生徒も同じなのか、どちらかというと恐れて遠巻きにしているようだった。

 だが、少女は気にする様もなく軽やかに進んでいく。コツコツとブーツが音を鳴らす。



 その状況を打破したのは、一際響く声だった。



「止まれ!そこの人殺し!!」


 同時に、少女の前に三人の少年が立ちはだかった。周りのざわめきが大きくなる。七音はその場に立ち止まってその様子を眺めていた。完全な野次馬だが、叫ばれた内容が気になってしまったのだ。

 嘘だとしても真実だとしても質が悪い。しかし、少女は直接言われたにもかかわらず、平然と目の前に来た三人を眺めている。

 その態度が癪に障ったのだろう。赤髪の少年がさらに少女を睨みつける。先程、叫んだのもこの少年のようで、今にも飛び掛かりそうなほど少女に敵意を示している。

 残りの二人も同じ態度かと思いきや、全然違った。隣にいる銀髪の少年は端正な顔を歪ませ興奮した様子で少女を見ており、もう一人の小柄な橙の髪色をした童顔の少年は二人に抱き着いている。

 どうやら二人を止めようとしたものの、簡単に負けたようだ。

 そんな三人の様子を一瞥し、少女は唇に弧を描く。


「あら、また貴方たちなの?」


 少し呆れを見せつつ余裕綽々な態度から、妖艶さが溢れ出す。

 周りの男子生徒が頬を染め、生唾を飲む様が見受けられる。顕著にそれを表したのは、銀髪の少年だった。


「ありがとうございます! ありがとうございます! ご褒美です! できればもっと冷たくゴミでも見るような視線でお願いします!!」

「落ち着けヴィン! お前はあの女に騙されてるんだ!」

勇人(ゆうと)君も落ち着いてくださいよ~!」

(れい)まで……くっそ! よくも二人を洗脳したな!」


 ビシッと勢いよく少女を指差す、勇人と呼ばれた赤茶髪の少年。それを止めようとする、小柄な零と呼ばれた少年。目の前の茶番に茫然と眺める少女に、興奮しすぎて鼻を抑える銀髪のヴィンと呼ばれた少年。

 第三者の七音から見ると、状況はただただカオスだった。

 やがて、少女がため息を一つつき、三人を避けて進もうとする。それを勇人は見逃さずに再び叫んだ。



「この先に行かせねぇ!」

「どうして? ガイダンスに間に合わなくなってしまうわ」

「お前の悪評を聞いて行かせるわけないだろ! 樫城(かしぎ)くろえ! 水無月の部隊を一つ壊した、人殺しの特待生め!」



 その言葉に、七音は船内の会話を思い出した。新入生たちが言い淀んだ、今年の特待生。それがあの少女で、話題を避けたのは殺人を犯したから。それも、相手は自分たちの先輩にあたる、水無月の戦闘部隊である。

 魔物退治がメインとはいえ、対人戦でも引けを取らないメンバーなはずだ。それが少なくとも二桁は所属している。

 それを丸々殺した。周りの生徒達が近づかなかったのも納得の理由だ。

 

妖艶美少女っていいですよね

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ