第15話 車内会話
学園目指してGoな七音達
「違うんだよ七音……黙ってたわけじゃないってか、知らないなら教えたくなかったってか……七音には『戦艦様』じゃなくてあたいとして見ててほしかったんだよ……」
「わかりましたから、もういいですって」
ワンボックスカーが舗装された道を進んでいく。響が運転席、樹が助手席に座る中、女子四人が後ろに並んで座っている。
後列に座った武蔵は、隣に座った七音に懺悔するかのようにぽつぽつと胸の内を話している。
武蔵が『戦艦様』だという事には驚いたものの、そもそも知らない人の方が少ない事実だ。その上、わざわざ自分の功績を伝えるなど、こそばゆくて無理だったのだろう。
だからもう、この話題は終わりなのだ。それなのに、武蔵は気に留め続けて話が変わらない。
少し残念に思っていることが、伝わっているのだろうか。そんな気さえもする。
確かに、隣に立てたと思った人が実際は遥か先の人だったという事実は、盛り上がった気分を垂直に降下させるに十分だ。だが、それでもスタートラインにはいるのだから、一生懸命追いかければいい。
それに、武蔵には笑顔が似合うのだ。いつまでも気落ちさせておきたくない。
前列の流華と静葉も心配そうにこちらを見ている。
その雰囲気を読み取ったのか、運転席から新たに声が飛んできた。
「七音ちゃんがいいって言うんだから、その辺にしときなよ?」
「う゛~」
「それよりも、この後のことを心配したら? 課題中に、他二人の制止を振り切って港まで来たんでしょ?」
「何で知ってんの!?」
「SEINが来てたからね。戻ったら説教コースだよ。あ、僕からも言う事たくさんあるからね」
響の宣告に、嫌な未来が手招いていることを自覚した武蔵はその場でゆっくりと頭を抱えた。あまりの落ち込み様に、思わず七音はその背中を摩る。
しかし、その余裕も次の言葉でなくなった。
「そうそう。この後、入学式の後に七音ちゃんはガイダンス、香月さんたちはフリーだったよね?」
「そう」
「はい、そうです」
「…………え゛?」
七音の発した声に、前列二人がさも当然のように答えた。
「資料、見てない? このガイダンス、内部進学者が卒業式に見た内容と一緒」
「私たちはもう傾聴したので、入学式後は自由行動なんです。最も、殆どの人は校内を見て回るらしいですので、私たちもその予定です」
「それもあって、中等部が上だとつけ上がる馬鹿が多い。明日からはみんな同じなのに」
「……つまり、二人とは別行動……?」
こくりと頷く二人に、七音は武蔵と同じポーズとなった。
かなり親密になった二人と、まさかの別行動というのは辛い。
ガイダンスの事は確かに記憶があるが、二人が中等部出身という事は抜けていた。それ程までに、例の三人組を筆頭とした中等部出身者の傲慢さが印象強く、二人と結びつかなかった。
だが、同じ外部進学者なら、十数人と船内で面識を済ませている。逆にガイダンスで友人を増やす機会ではないだろうか。
そういう希望を見つけた七音だが、響は少し考えながらそれを口にする。
「問題は、七音ちゃんが馬鹿武蔵と仲がいいってことがわかっていることかな……」
「そうですね……港の出来事、すでにSEINで噂になっているでしょうし」
「……一人の七音、確実に囲まれる」
三人の会話に、七音はようやく事態の大きさを理解した。みんなの憧れ、『戦艦様』と仲がいい新入生。
武蔵に少しでも近づきたいと思う生徒たちが、七音との縁を結びに集まるのは明白だ。
先程の静葉のようになるかもしれない。ゾッとして身体を抱く七音に、静葉がにこりとほほ笑みかける。
「大丈夫です。私に考えがあります」
「え……自分の信者も捌けないのに?」
「そ、それとこれとは話が違います!」
ポロっと出た言葉を反射的に返す静葉。今までもそういう風にからかわれていたのだろうか。しかし、七音には何の策もない。
「わかった! その考えをお願い!」
静葉に頭を下げる七音。静葉は笑顔のまま頷くのだった。
静葉の思いついた策とは?