第14話 衝撃の事実
武蔵の突撃!七音は海へドーン!
「有藤さんもお久しぶりです」
挨拶をする七音に、樹はぺこりと会釈する。相変わらず無口な人だ。そう思っていた七音はふと、周りの雰囲気が変だと気が付いた。
武蔵に詰め寄り怒る響はまだいい。困ったように眉をへの字にしている流華もまだマシだ。
だが、他の人は目を白黒させたり、口をぽかんと開けたりと多種多様な反応をして七音を見ている。正確には、七音と武蔵の二人だ。可笑しいと首を傾げる七音に、ヒステリックな叫び声が詰め寄ってくる。
「どういう事だよてめぇぇぇぇぇ!」
「外部如きが『戦艦様』近づいてんじゃねぇよ!!」
「響さんだけじゃなく『戦艦様』まで奪うのかクソッタレ!!」
喉が潰れそうな程叫び、上がり目で近づいてくる三人組。正直うんざりだったが、それ以上に聞き取れた内容に七音は耳を疑った。
『戦艦様』。船内で他の新入生が話していた、特待生のあだ名だ。ちらりと隣の武蔵を見れば、わざと七音と三人組から目を逸らしている。
考えてみれば、なぜ気づかなかったのかと思うほど合点が行き過ぎた。男三人の適合者、幼少期に成功させその場で一体撃破、日ノ国出身。地元の中学校に通っていたという『戦艦様』に、七音と遊ぶ為に中等部への進学を止めた武蔵。
「…………武蔵さんが、『戦艦様』なの?」
「……………………オゥ」
無理矢理引き出した声色で、武蔵は肯定した。今度は七音の顎が外れるほど口を開く番だった。きゃんきゃん五月蠅い三人組も気にならず、ただただ顔を逸らす武蔵を凝視し続ける。
「聞いてんのかあっ!?」
「あ、有藤さん!? なに、ちょ、まっ」
「あ……吐きそ」
三人組の勢いが徐々になくなり、最後には声が聞こえなくなった。気にはなるが、それ以上に武蔵のことだ。目線を外さない七音の視界に、ふわっとした白いものが覆いかぶさってくる。
「ふぉっ!?」
「気持ちはわかるけど、先に身体拭く。風邪になる」
「せ、『戦艦様』も、ぜひ!」
「んお? サンキュー」
ゴシゴシと流華によって動く柔らかいタオル生地が、頭や肌の海水を吸い取っていく。隣では、緊張気味の静葉が武蔵にタオルを差し出していた。同じように畳まれたタオルをまだ持っていることから、静葉の持ち物なのだろう。
しかし、拭いただけで乾かしたかのように水気が取れるなんて、これも彼女が作ったものなのだろうか。
すっかり乾いた服に、二人にお礼を言いながら七音は視線を下にずらす。三人組がぐったりと地に伏している。七音たちと三人の間に立っている樹の手には、彼が肌身離さず持ち歩いているスケッチブックがあった。それを見ながら、響が頭に手を当てている。
「樹君……確かに、黙らせるにはそれが一番の手だけど…………」
そう言う響は、動かなくなった三人組を見てため息をつく。
樹は絵画、彫刻、陶芸などの芸術系分野でも注目を集めている。主な活動は絵で、コミュニケーションツールとしてもスケッチブックに描く絵を利用している。
その中に、しつこいファンやマスコミ対策用のグロテスクな絵のみ収めたスケッチブックも携帯している。今回、三人組にそれを見せたのだろう。
七音は一度、好奇心から見せてもらったことがある。数秒見ただけで、暫く夢にうなされる程リアルで気持ち悪かった。どれだけ見せられたか知らないが、船酔いの名残も相まって三人組はしばらく動けないだろう。
「………………この子たちは他の人に任せてくる。武蔵がいると騒ぎになるから、とりあえず、全員、僕の車乗って」
一言ずつ言い聞かせるように区切る響。これ以上迷惑かけるなという強い圧を感じる。大人しく従った。
多分ほとんどの人が気づいていたと思います。