第118話 情報整理に秘密兵器
遅くなりましたすみません!!
「私は今の状況を、『大佐』の個人的な暴走だと見ているのだけど……皆は?」
「俺も同じ意見だ」
「え!?」
「分かるのか!?」
勇人の問いに、くろえと璃久斗は一瞬間を置いた後、頷いた。
この短時間で断定できる材料はあっただろうか。七音にはわからない。
驚く七音達に、くろえは少し考えてから話を続けた。
「そうねぇ……なら、時系列で不審点を挙げるわ。そもそも、水無月部隊をわざわざ呼んで捕らえる時点で変よね?」
「確かに……」
「魔物に脅された……ってのもないか」
「ねーよ。魔物を使ってんのはジェール。この情報は裏付けもしてっから、間違いねー」
さらりと補足を入れる璃久斗。絶対的な自信を持っているようだ。
七音達よりも修羅場をくぐっている二人が言うなら、信用できる。
「次。先程から、軍部の人間しか見ないわ。空港なら、職員や他の入国者がいるはずでしょ?」
「そうだけど、それは国の指示とも考えられるんじゃないの?」
「『他の国から来た奴は全員捕まえろー!』って軍人と職員をそっくり入れ替えたとか?」
「アホ共が。飛行機のメンテや受け入れのオペレーターとかもにも軍人置くか? ただでさえ、ジェールから魔物押し寄せてきてんだぞ? 切れ者だっつー総族長なら、そこら辺は職員に任せんだろ」
「誰がアホだぁ!? あああああああ!」
「発言もしてねー野郎は黙ってろ」
璃久斗の暴言にヴィンが文句を言うや否や、璃久斗の掌が顔面を捉え、指先に力が入っていく。
ヴィンが痛みで悲鳴を上げ、必死に逃れようと暴れる。ヴィンの手足がテーブルに当たって、ガンガンと振動が伝わってきた。
「璃久斗。それが耳障りなのはわかるけど、話し合いの邪魔よ」
「じゃあ、どーする?」
「そこの。最低限の呼吸だけしてなさい」
「はい!!」
「ヴィン……」
生き生きと命令を受ける友人の姿に、勇人が遠い目になっている。その肩にポンと手を置き、首を横に振った。
七音はこの状態のヴィンしか知らないが、勇人は恐らくまともだった中学校時代を知っている。だからこそ、度が行き過ぎるヴィンの姿を直視したくないのだろう。
静かになったヴィンを他所に、くろえと璃久斗は話を戻す。
「決定的なのは、この部屋ね。ここ、普通の部屋よ? 監視カメラの一つも見当たらないわ」
「まぁ、ベッドとか後付け感すげぇしな」
「そっか! 国が指示してるなら、普通は刑務所に輸送されるもんね!」
「おお!」
「そういう事よ」
「満点馬鹿よか物分かり良くて助かる」
「うぐぅ」
璃久斗の皮肉が勇人に刺さる。胸を押さえる勇人を見つつ、七音は貰った情報を自分なりに整理する。
捕らえられたのは、軍の独断によるもの。原因は不明。国の方ではこの事実を知らない。
簡単に纏めると、いくつかの疑問点が浮かぶ。
「じゃあ、ここで働いてた人とかはどこに……?」
「同じ様に軟禁されているみたいね。周りに人の気配が多いもの」
「ひでぇ! 国を守るって言ってたくせに!」
「そりゃ単なる大義名分で、『大佐』のホントの目的は違うんだろーな。恐らく、権力あたりだろ」
「でも、そこに隙がある」
クスっと、くろえが棘のある笑みを浮かべた。妖艶さも混じり、思わず心臓が跳ね上がる。
「軍の中に、現状の命令を疑問視している人は何人いるかしら。そこをつけば、あっという間に状況は逆転するわよ?」
「具体的には?」
「『大佐』の首を捉えるわよ。情報を得て扉を開けてもらって占領。幸い、軽く色を出したくらいで行動するほど、女に飢えているみたいだもの。簡単にいくわ」
「え? 軽く? 嘘はやめてよくろえ」
「あれが軽いとか、全セクシー女優が土下座で謝るレベルだぜ?」
「え、そうかしら?」
「一般的な感覚からすればそうなんだよ。見ていてムカつくからできるだけしねーでくれ」
「璃久斗がそういうなら気を付けるわ!」
作戦会議が一気に甘い雰囲気に包まれた。直視していた七音は、胸の中が甘くなるような錯覚を覚えた。
隣で、勇人が手で口を押えている。心情としては同じ様だ。
気分を変えようと視線を動かせば、歯ぎしりをして二人を凝視しているヴィンの姿が映る。甘さが引いた。
七音は空気を戻す為、シルヴァンがよく使っている空咳をしてから話す。
「とりあえず、次にするのはくろえの誘惑で情報を手に入れるってことでいい?」
「そうなるわね」
「樫城の誘惑で情報を搾り取るのか」
「くろえ様まじサキュバス、搾られたい」
「てめーら黙ってろ。ってかそこのは呼吸だけって言われてんだろ」
「ここは譲れん! 俺が用意した秘密兵器の出番だからな!」
ヴィンが大威張りで自慢げな顔をする。そういえば、軍人達が小型ジェット機をこじ開けようとしていた時、わざわざ用意していたものがある。
それを持つくろえへ顔を向ければ、いつの間にか革袋を取り出していてテーブルに置く。
「く、く、く、くろえ様!? それをどこから!? まさか本当に谷間で程よい体温にぃあああああああああああああ!」
「さっきも見たぞ、この光景」
「顔の鷲掴み、痛そう」
「それはそうと、これは何なのかしら? 違法薬物の類なら、それを国に突き出して便宜を図れるのだけれど」
悲鳴を無視し、物騒な事を呟きながらくろえが袋を開ける。
中から軽い音を立てて出てきた物に、くろえや勇人は目を丸くした。逆に、七音は出てきたそれに顔を明るくする。
「金平糖! 一つ食べてもいい?」
「いいんじゃね? 問題ないよな?」
「ええ。どうぞ、七音」
「やった!」
許可を得た七音は、テーブルに転がった金平糖を拾い上げて頬張る。優しい甘さに表情が緩む。
その様子を見つつ、勇人とくろえが金平糖しか入っていない革袋へ意識を向ける。
「これ、日ノ国で有名な砂糖菓子、よね?」
「だな。見た目綺麗だし、結構美味いしで利ノ国でも結構人気あったぞ」
「種ノ国でも人気あるわ。でも、秘密兵器なんて言える程の代物かしら?」
くろえは胡散臭いとありありと表情に浮かべ、ヴィンの方を見る。
それに対し、一瞬頬を赤らめ悦に浸った後、ヴィンは自信満々なまま答える。
「勿論です! プェドゥにおいて砂糖は人気高なエネルギー源! この見た目と流通量の少なさから、金平糖は超貴重品! 俺の記憶だから知識古いけど、砂糖がたくさん入ったとかそういうニュースは知らねぇって零が言ってたから賄賂として使える! はず!」
「はず」
「曖昧だね」
「……まぁ、試してみないと分からないわね。使ってみるわ」
「有難き幸せ!」
くろえの役に立つ。そう考えているだろうヴィンの顔は、軟禁されているとは思えないほど晴れ晴れしていた。
方針決まって待て次回




