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My own Sword  作者: ツツジ
本編
118/187

第118話 情報整理に秘密兵器

遅くなりましたすみません!!

 

「私は今の状況を、『大佐』の個人的な暴走だと見ているのだけど……皆は?」

「俺も同じ意見だ」

「え!?」

「分かるのか!?」


 勇人の問いに、くろえと璃久斗は一瞬間を置いた後、頷いた。

 この短時間で断定できる材料はあっただろうか。七音にはわからない。

 驚く七音達に、くろえは少し考えてから話を続けた。


「そうねぇ……なら、時系列で不審点を挙げるわ。そもそも、水無月部隊をわざわざ呼んで捕らえる時点で変よね?」

「確かに……」

「魔物に脅された……ってのもないか」

「ねーよ。魔物を使ってんのはジェール。この情報は裏付けもしてっから、間違いねー」


 さらりと補足を入れる璃久斗。絶対的な自信を持っているようだ。

 七音達よりも修羅場をくぐっている二人が言うなら、信用できる。


「次。先程から、軍部の人間しか見ないわ。空港なら、職員や他の入国者がいるはずでしょ?」

「そうだけど、それは国の指示とも考えられるんじゃないの?」

「『他の国から来た奴は全員捕まえろー!』って軍人と職員をそっくり入れ替えたとか?」

「アホ共が。飛行機のメンテや受け入れのオペレーターとかもにも軍人置くか? ただでさえ、ジェールから魔物押し寄せてきてんだぞ? 切れ者だっつー総族長なら、そこら辺は職員に任せんだろ」

「誰がアホだぁ!? あああああああ!」

「発言もしてねー野郎は黙ってろ」


 璃久斗の暴言にヴィンが文句を言うや否や、璃久斗の掌が顔面を捉え、指先に力が入っていく。

 ヴィンが痛みで悲鳴を上げ、必死に逃れようと暴れる。ヴィンの手足がテーブルに当たって、ガンガンと振動が伝わってきた。


「璃久斗。それが耳障りなのはわかるけど、話し合いの邪魔よ」

「じゃあ、どーする?」

「そこの。最低限の呼吸だけしてなさい」

「はい!!」

「ヴィン……」


 生き生きと命令を受ける友人の姿に、勇人が遠い目になっている。その肩にポンと手を置き、首を横に振った。

 七音はこの状態のヴィンしか知らないが、勇人は恐らくまともだった中学校時代を知っている。だからこそ、度が行き過ぎるヴィンの姿を直視したくないのだろう。

 静かになったヴィンを他所に、くろえと璃久斗は話を戻す。


「決定的なのは、この部屋ね。ここ、普通の部屋よ? 監視カメラの一つも見当たらないわ」

「まぁ、ベッドとか後付け感すげぇしな」

「そっか! 国が指示してるなら、普通は刑務所に輸送されるもんね!」

「おお!」

「そういう事よ」

「満点馬鹿よか物分かり良くて助かる」

「うぐぅ」


 璃久斗の皮肉が勇人に刺さる。胸を押さえる勇人を見つつ、七音は貰った情報を自分なりに整理する。



 捕らえられたのは、軍の独断によるもの。原因は不明。国の方ではこの事実を知らない。



 簡単に纏めると、いくつかの疑問点が浮かぶ。


「じゃあ、ここで働いてた人とかはどこに……?」

「同じ様に軟禁されているみたいね。周りに人の気配が多いもの」

「ひでぇ! 国を守るって言ってたくせに!」

「そりゃ単なる大義名分で、『大佐』のホントの目的は違うんだろーな。恐らく、権力あたりだろ」

「でも、そこに隙がある」


 クスっと、くろえが棘のある笑みを浮かべた。妖艶さも混じり、思わず心臓が跳ね上がる。


「軍の中に、現状の命令を疑問視している人は何人いるかしら。そこをつけば、あっという間に状況は逆転するわよ?」

「具体的には?」

「『大佐』の首を捉えるわよ。情報を得て扉を開けてもらって占領。幸い、軽く色を出したくらいで行動するほど、女に飢えているみたいだもの。簡単にいくわ」

「え? 軽く? 嘘はやめてよくろえ」

「あれが軽いとか、全セクシー女優が土下座で謝るレベルだぜ?」

「え、そうかしら?」

「一般的な感覚からすればそうなんだよ。見ていてムカつくからできるだけしねーでくれ」

「璃久斗がそういうなら気を付けるわ!」


 作戦会議が一気に甘い雰囲気に包まれた。直視していた七音は、胸の中が甘くなるような錯覚を覚えた。

 隣で、勇人が手で口を押えている。心情としては同じ様だ。

 気分を変えようと視線を動かせば、歯ぎしりをして二人を凝視しているヴィンの姿が映る。甘さが引いた。

 七音は空気を戻す為、シルヴァンがよく使っている空咳をしてから話す。


「とりあえず、次にするのはくろえの誘惑で情報を手に入れるってことでいい?」

「そうなるわね」

「樫城の誘惑で情報を搾り取るのか」

「くろえ様まじサキュバス、搾られたい」

「てめーら黙ってろ。ってかそこのは呼吸だけって言われてんだろ」

「ここは譲れん! 俺が用意した秘密兵器の出番だからな!」


 ヴィンが大威張りで自慢げな顔をする。そういえば、軍人達が小型ジェット機をこじ開けようとしていた時、わざわざ用意していたものがある。

 それを持つくろえへ顔を向ければ、いつの間にか革袋を取り出していてテーブルに置く。


「く、く、く、くろえ様!? それをどこから!? まさか本当に谷間で程よい体温にぃあああああああああああああ!」

「さっきも見たぞ、この光景」

「顔の鷲掴み、痛そう」

「それはそうと、これは何なのかしら? 違法薬物の類なら、それを国に突き出して便宜を図れるのだけれど」


 悲鳴を無視し、物騒な事を呟きながらくろえが袋を開ける。

 中から軽い音を立てて出てきた物に、くろえや勇人は目を丸くした。逆に、七音は出てきたそれに顔を明るくする。



「金平糖! 一つ食べてもいい?」

「いいんじゃね? 問題ないよな?」

「ええ。どうぞ、七音」

「やった!」


 許可を得た七音は、テーブルに転がった金平糖を拾い上げて頬張る。優しい甘さに表情が緩む。

 その様子を見つつ、勇人とくろえが金平糖しか入っていない革袋へ意識を向ける。


「これ、日ノ国で有名な砂糖菓子、よね?」

「だな。見た目綺麗だし、結構美味いしで利ノ国でも結構人気あったぞ」

「種ノ国でも人気あるわ。でも、秘密兵器なんて言える程の代物かしら?」


 くろえは胡散臭いとありありと表情に浮かべ、ヴィンの方を見る。

 それに対し、一瞬頬を赤らめ悦に浸った後、ヴィンは自信満々なまま答える。


「勿論です! プェドゥにおいて砂糖は人気高なエネルギー源! この見た目と流通量の少なさから、金平糖は超貴重品! 俺の記憶だから知識古いけど、砂糖がたくさん入ったとかそういうニュースは知らねぇって零が言ってたから賄賂として使える! はず!」

「はず」

「曖昧だね」

「……まぁ、試してみないと分からないわね。使ってみるわ」

「有難き幸せ!」


 くろえの役に立つ。そう考えているだろうヴィンの顔は、軟禁されているとは思えないほど晴れ晴れしていた。



方針決まって待て次回

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