第11話 上陸
タイトル変更して最初の投稿です!
やっと船から場面変わります!
流華との会話は楽しい。その一言に尽きた。
七音が一つ話題を振れば、二にも三にもなって返ってくる。それが知らないことばかりで、興味深い内容に七音がさらに食いつく。
本で得た知識だからと流華は遠慮がちにしているが、そもそも本を読むことが苦手な七音にとっては知る機会ができてありがたいことだ。
だが、楽しい時間は船内放送で終わりを告げられた。
『そろそろ島に着きます。降りる準備をできる人はしていてください。できない人、そろそろ揺れが弱くなります。気分が治ってからで結構です。これ以上、胃袋から魚の餌をまかれても困りますので』
響の淡々とした声が流れる。最後の文章にクスリと笑う流華に対し、七音はよく分からず首を傾げる。だが、そんな些細な事よりも島に着くという方が重要だ。
ワクワクと期待を持ち、くるりと流華の方を見る。
「双葉の揺れ方……犬のしっぽみたい」
「それよりも! 島! 学校! 着く!!」
「分かってる。荷物を持ってこないと。一緒に降りよう?」
「うん!」
元気よく返事をする七音。流華と一緒に談話室を出て、個室へと向かう。幸い、七音と流華の個室は近く、二人揃って移動しても問題ない。
互いに手荷物を持って階段が下ろされる場所へと行けば、外への扉が開いており、その前で何人かのスタッフが上陸の準備をしていた。その中には、響の姿もあった。
「あ、響さんだ!」
「え」
「響さーん!」
流華の驚きにも気づかず、七音は声をかけながら小走りに近づく。それに気づいた響は、柔らかな笑顔で迎えた。
「やあ、七音ちゃん。君は無事だったのかい?」
「なんとか!」
「そうか。一緒に来た子は?」
「友達です! 流華って言うんです! ヨーロ語の本も読めるくらいすごくて、いろいろ知っているんですよ!ね!?」
そう言って振りかえった七音の目には、唖然としている流華が映った。
変だと思った瞬間、向こうもハッと硬直が溶けたようで、七音の腕を引っぱり耳打ちしてきた。
「青龍先生と仲いい?」
「え、そうだよ?」
「いつ知り合った? あの人、研究ばっかりで外に出ない。女子生徒たちのアプローチもお断りで、知り合う機会がほぼない人って聞いた」
どうやら流華は、響と七音の仲がいいことが不思議なようだ。
改めて考えれば、七音自身も直接やり取りしたのは今日が初めてだ。間に武蔵が入っているからこそ、成り立つ関係である。
そう答えようとする七音の口を、響が背後から手で塞いだ。
「ふごー!?」
「仲よくなった子でも、まだ言わない方がいいよ。場所を考えないと、パニックになるからね。えっと、そこの君は……」
「香月流華、です」
「僕のこと知ってるなら、中等部からの子かな?そういう事だから、後でいいかな?」
「……まさか!」
何かを察した流華が、今度は響に近づき耳打ちする。聞きやすいように屈んだ響は流華の言葉に、正面を向き合ってこくりと頷いた。
途端、驚愕の表情で七音に振り替える流華。未知の生物でも見たかのような目に、七音はすくみ上り、立っているしかできない。
「本当に、知らない……?」
「だと思う。向こうも、七音ちゃんに特別扱いされたくないって、伝えてないようだよ」
「…………お兄さんの情報規制…………よっぽど酷かったんだ………………」
どうして自分は今、親しい二人に憐みの目で見られているのだろうか。
何とも言えず、お互いに無言になる。その空気を変えるかのように、スタッフの大声が響く。
「階段、降ろしまーす!」
その声の後、重たい音が鳴りだした。数秒後、一際大きな音に代わって振動と共に訪れ、消えた。
階段の設置に成功したのだと、上陸できるのだと、頬が緩む。
「流華!行こ!」
「七音、待って」
「転ばないようにねー」
スキップに見えそうな足取りで外に出る七音。そして、視界に広がる光景に目を奪われた。
澄んだ青空に眩しい太陽。ほどほどに浮かぶ雲が、直射日光の強さを丁度よくしている。
船から見下ろす海は、あれだけ激しく揺らした海流に近いとは思えないほど穏やかに見える。
コンクリートで舗装された船着き場のようで、他にも同じ大きさの船が何隻も並んで停泊している。すでに着いた船から重い足取りで降りる生徒の姿も見える。
島の奥に行くための植物が飾る広い道の前には、送迎用だろうバスが複数台並んでいた。
同じような港から来たというのに、ここが水無月学園高等部の島というだけで何倍も輝いて見えた。
文字通り、飛び跳ねてステップを降りた七音は正面の道にくぎ付けになった。
ここを抜ければ、ついに憧れていた高等部校舎、寮、その他さまざまな設備が七海を待っているのである。
今にも駆け出したい気持ちを抑え、後ろの流華へ声をかける。
「すごいよ流華!すごい!」
「少し落ち着いて。双葉が千切れそうな程高速回転している」
「それでなくなればいいんだけどね~このアホ毛」
天村家の双葉アホ毛は感情と連動します