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My own Sword  作者: ツツジ
本編
10/187

第10話 界語とキラキラネーム

世界観の説明回

 

 一言断り、自販機で飲み物を購入して惹かれた椅子に座る。

 しっかりとした蓋がついたカップの飲み物は珍しいと思っていたが、この揺れに対応した形のようだ。

 一つの疑問が解決した七音は、何を話そうかと流華の方へ顔を向ける。

 流華の雰囲気は先程と変わらないが、口の端が僅かに上がっている。微笑んでいるのだろう。その奥に置かれた本の表紙がちらっと見えて、七音は思わずぎょっとした。

 それに気づいたのか、流華が本を七音の方へと差し出す。


「この本が気になる?」

「本っていうか……それ、ヨーロ語……?」

「うん。イーユーで出たミステリ小説。この作者、好き」

「読めるのすごっ!」


 七音は素直に感心した。



 共通言語である口語、『界語』は、元は国ごとに異なる言語だったものを、水無月学園を中心に意思疎通しやすくする為に奮闘した結果である。




 文語も共通言語にという動きもあるが、今のところは目立った話はない。

 七音にとって幸いなことだったことは、日ノ国と水無月学園は文語も『界語』であるということだ。

 『ヨーロ語』は文語として使う国が多く、地域によっては口語としても使用されている。

 文献の多くは『ヨーロ語』で書かれるからと、日ノ国には授業として『ヨーロ語』を学ぶ外国語のコマがある。


 『界語』で通じるのに『ヨーロ語』を習う必要はあるのか。

 返却された赤点のテストを見ながら、七音は毎回思っていた。だからこそ、今目の前で悠々と読書をしていた流華に尊敬の念が浮かぶ。

 あまりにもキラキラとした目で見つめられて一瞬目を丸くする流華だったが、すぐに元の表情に戻った。


「七音はヨーロ語、苦手そう。そもそも、読書より運動が好きそう」

「何でわかるの!?」

「七音がわかりやすすぎ。多分、誰でもわかる」

「……友達みーんな言ってたよ、それ……」


 昔を思い出して遠い目になる七音。それをじっと見ていた流華は、不意に違う話題を口にした。


「七音は水無月学園、高等部から?」

「え、そうだけど……まさかっ!」


 急な話題だったが、それが何を意味するかは七音の頭でもすぐに察することができた。

 今の言い方から、流華は中等部からの進学者なのだろう。同時に思い浮かぶ、他の内部進学者たちの横暴。

 表情が引きつる七音に対し、流華はなぜか悲しげに俯いた。


「……もう、あいつらに会ったんだ。ごめん……」

「え、え、流華?」


 謝罪の言葉に混乱する七音。流華はそのまま言葉を続ける。


「中等部の奴ら、自分たちが特別だと勘違いしている人が多い。特に、この船のグループは、もうダメ。リーダー格の典型的なプライドバカ三匹が増長している」

「匹って……流華、匹ってさすがに……」

「自尊心の塊を同じ分類に扱いたくない。視界にも入れたくない」


 ピシャリと言い切る流華に、七音は何も言えなくなった。中等部出身者ということで、同じタイプの人間だと勘違いされたことがあったのだろう。ポーカーフェイスの裏から怒気が漏れ出している。

 乾いた笑いをしながら、七音は何とか話の方向性をずらそうと考える。


「る、流華は全然違うよ……ほら、あたしとこうして話せてるし? スーちゃんって呼ばれてた人達とは明らかに態度違うし?」

「当たり前。向こうはDQNと呼ばれている、元から合わない奴ら。向こうも私を嫌っている癖に、わざわざ嫌味を言いに近づいてくる面倒な存在」

「あたしもやられたなぁ……って、ドキュン? 何それ?」

「ネットの言葉で、素行の悪い人たちって意味らしい。同じ学校で一つ上の、近所のお兄さんから聞いた。『DQN要素てんこ盛りだから近づくな』って」

「あー確かにねー」

「そう。あと、自分の名前が可愛いと思っていて、人の名前を馬鹿にするのも許せない」

「名前?」


 七音の疑問も、流華は予想できたのだろう。置いていたバッグからメモ帳とペンを取り出すと、そこにさらさらと文字を書いていく。

 書き終えて見せられた紙には、難しい漢字が三列に並んでいた。


「読める?」

「え゛? えっと…………『すきにっか』、『つきひめ』、『あいわ』?」

「正解は、『好日花(すぴか)』、『月姫(かぐや)』、『愛和(らぶぴ)』。あの三人の名前」

「ん゛ん゛!?」


 咄嗟に文字から目を話したが、七音の閉じた口から変な声が漏れる。衝撃と一笑を無理矢理噛み締めたからだ。さすがに、人の名前に馬鹿にしてはいけないという良心が働いた。

 これがテレビで聞く『キラキラネーム』というものなのだろう。七音の名前も『ドレミ』と読ませる場合があるようで、何度か読み方を聞かれた記憶が蘇る。

 プルプルと笑いを耐える七音をよそに、流華はメモ帳からそのページを破り取る。そのまま手の中で丸め、ゴミ箱へと投げ捨てた。


「はい、この話はこれで終わり。どうせなら、明るい話をしよう?」

「その三人に脱臭スプレー浴びせた話は?」

「すごく気になる!」


 目を輝かせる流華に、先程の出来事を話す。結果、流華は腹を抱えて机に沈んだ。


「七音……! 最高…………!」

「むかついたから、つい」

「島に着いたら、脱臭スプレー買おう」

「あ、あたしも買い直そう」


 自然な流れで話の方向が変わった。そのまま、明るい話題で話が続いた。

 

転生特有の言語変換が話し言葉は問題ないという感じです

一部地域の書き文字が別言語という解釈です

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