ぽっちょぴてろ
生まれて初めて、私の小説が賞を取った。それも、とある大規模な小説コンテストでの大賞だ。
そのまま書籍化される運びとなったことで、ついに私も作家デビュー。色々な雑誌からインタビューのオファーを受け、勢いに任せて素顔も晒してしまったけれど、後悔なんてちっともしてない。
これで私も、世界的な有名人の仲間入りってことね!
うふふ、今街中を歩いたら、「あの小説の作者さんですよね結婚してください!」って、完膚なきまでに究極のイケメン俳優から求婚されちゃうんだろうな!
きゃー‼︎‼︎
そんな妄想を割と本気でしながら、私は地元の商店街をふらふら歩いていた。さぁ、あの有名作家の登場ですよ! 私の隣、空いてますよー! 誰か気づいて!
そんな心の叫びを放った、その時。
「あの……」
かけられた声に振り向くと、イケメン……とは程遠い顔のおっさんがいた。現実は厳しい。
「は……はい」
「もしかしてあなた……」
……まぁいっか、おっさんでも。できればイケメン皇太子が良かったんだけど、私に気づいてくれただけありがたいと思うことにしようこの際。ん? なんか涙出てきたんだけど何でかな?
「あの有名な……ぽっちょぴてろのプレイヤーですよね⁉︎」
……おぉ?
あれ? なんか私の欲しかった言葉と違うんだけど。ぽっちょぴてろ……? ……なにそれ。私は天才美人作家なんですが。
「あの、えっと……」
「ですよね⁉︎ ぽっちょぴてろの人ですよね⁉︎ うわぁー、マジで会いたかった! 近くに仲間がいるんで連れてきます!」
いや、ちょっと待って‼︎ お願いだからちょっと待って‼︎ 何⁉︎ ぽっちょぴてろって、何⁉︎
やばい、連れてこられるっ‼︎ 仲間を、連れてこられる‼︎
彼がいなくなった隙に逃げれば良かったのに、私は気になりすぎて「ぽっちょぴてろ」をスマホで検索してしまった。ちなみに、ノーヒット。
はっと気がつくと、さっきのおっさんが仲間を10人ほど連れて戻ってきた。誰か助けてください。
「やべぇ本物だ!」
「どうすれば4日連続でつぁれっぽできるのか教えてください!」
「ってか、写真撮りましょう写真!」
あれよあれよという間に取り囲まれ、写真は撮られるわ訳わからない相談はされるわ……。ちなみに、私のことを「小説家」と言ってくれた人は一人もいなかった。なんか、死にたくなった。
そして、そのまま数年の月日が流れ……。
私は、ぽっちょぴてろの世界的なプレイヤーへと変貌していた。今や、ぽっちょぴてろについて私の右に出るものは誰もいない。
当初の希望通り、私はついに世界的な有名人となったんだ。街に出れば、あっという間に人だかりができるほどのね。
……だけど、ぽっちょぴてろが何なのか、私は未だに分からない。