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第六話 忍者、膝枕をさせる

『パリーズの都』へ向かう馬車。


 フリージアから教えてもらって、異世界の事情を勉強中。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「この世界のあらましは大体わかった」


 俺はうなずく。


「問題は『やつら』とやらだな。そいつについて教えてくれ」


 俺がこちら側に呼ばれたそもそもの理由。


 どうやら俺の『敵』となるらしい存在。


「ええそうね。そのことについて話さなければね」


 フリージアの表情が硬い。

 まあこちらの世界の危機、その元凶なのだから、それも当然か。


「どう話したものかしらね……実際にその目で見てもらうのが、いちばん早いと思うのだけど……」


「ヒトなのかそいつらは?」


「まさか。あれがヒトであってたまるものですか」


 その正体はまったくの不明。


 ある日、忽然と現れて世界を浸食し始めた、ヒト以外の何かである――とフリージアは言う。


「見た目や言語、生活習慣その他もろもろ、わたしたちとそっくり。でも中身はまったくの別物。混じりっけなしの異形、真の邪悪。それが『やつら』よ。東方の国々は、ほんの数年で『やつら』に呑まれた」


 おぞましげにフリージアは語る。


「やつらの勢力圏内に、一度だけ潜入したことがあるのだけど……」


「怖気が走ったわ。笑っていても、怒っていても、心が見えない。血の気すら通ってないようにみえる。まるで人形劇でできているみたいなの、やつらのすべてが」


「潜入したのがバレたらどうなるか? もちろん生きては帰れない。たちまちやつらはヒトではない本性を露わにする。実際、いくつもの国が使者を出しましたが、彼らはひとりとして帰ってきていません」


「やつらは戦争で侵略しない。やつらはじわじわと侵食する。ヒトの領域を、ある種の菌類のように――きっと、気づいた時には取り返しのつかない事になっているのでしょうね。あるいはもう、手遅れになっているのかも」


 ……なるほどな。


 俺はゾンビの集団を連想する。


 あんなのがうろついていたら、確かに世界の危機だろう。国まで乗っ取られたらなおさらだ。


「西方連盟の学者たちは、『おそらく別の世界から来た敵対的侵略生物ではないか』としているけど。あながち間違いではないかもしれません。何せあまりにも得体が知れないから」


「同じく別の世界から来た俺も、さぞかし得体の知れない存在だろうな」


「そ、それとこれとは話が別です。確かにあなたはニンジャ? とかいうよくわからない何かだけど、『こちら側』だとはっきりわかるもの。実際に『やつら』を見てみれば、それは肌で感じられるはず」


「そうか。まあ大体のことはわかった」


 俺はしばし考えて、


「とりあえず細かい話はいい。いま聞きたいことがふたつある」


「何かしら」


「そいつらは殺せるのか?」


「殺せるわ。ヒトに化けているのだから」


「殺していいのか?」


「殺していいわ。ヒトではないのだから」


「――了解。それがわかれば十分だ」


 であれば俺の技術は役に立つ。ホッと一安心だ。


 そして世界の危機とはいえ、今日明日にもどうこう、って状況じゃなさそうだ。


 これ以上はこの先追々、ということになるだろう。


「さて。それじゃ寝るか」


「ま、また寝るのですか? 話の続きは?」


「根を詰めすぎると元も子もないぞ。あんた、自分が疲れ切ってることに気づいてるか? 目元にくまが浮かんでる」


「うっ……」


「俺を召喚してからこっち、ろくに休んじゃいないんだろう? パリーズの都まで十日かかるという話だったし、必要な情報を学ぶ時間は十分にある」


「それはそうですが……」


「急ぎたいのはわかるが、焦るな。焦れば事を仕損じる。あんたほどの使い手なら理解はしてもらえるだろうが」


「……わたしを認めてくれるのですか? あなたと戦って手も足も出なかったのに?」


「俺が『縮歩』の奥義を使ったんだぞ? あちらの世界じゃまずあり得なかったことだ。あんたを認めているからこそだよ」


「そ、そうなの?」


 きょとんとするフリージア。


「よかった、安心しました。実のところ自信を失いかけていましたから……こう見えてもわたし、こちらの世界ではちょっとしたものだったし……」


「安心ついでに休んでくれるなら、俺も助かる」


「わかりました休みましょう。あいにく馬車の中は揺れますが、それでも貸切ですから十分にくつろげるはずです」


「揺れるのは気にしない。代わりと言っちゃなんだが頼みたいことがある」


「なんでしょう」


「膝枕してくれ」


「…………」


 フリージアの顔が固まった。


「あの。膝枕というのは、いわゆる膝枕のことでしょうか?」


「あんたの膝を枕に見立てて、俺が寝転がる。おそらくあんたの解釈で間違ってない」


「なぜ? 脈絡もなく?」


「脈絡はある。疲れを癒やすには、女の力を借りるのが手っ取り早い。こんなのは忍者の常識だぞ?」


「だからニンジャって何なの!? 何度も言いますけど!」


「じゃ、借りる」


「ひゃっ!?」


 問答無用。

 俺はフリージアの膝に寝転がる。


「ちょ、ちょっとあなた!? 断りもなく!」


「ちゃんと断ったじゃないか」


「あなたの世界ではあれを断ったというの!? それもあなたがニンジャだから!?」


「いや忍者は関係ないな」


「そこは関係ないの!? この流れなら関係ありなさいよ!」


「俺を召喚して戦わせようとしているのはあんただ。あんたには、俺の体調を管理する義務があるだろう。この程度で済ませてるんだ、四の五の言わずに膝ぐらい貸しておけ」


「なんという言いぐさ! ニンジャってこんな上から目線の男ばかりなのですか!?」


「ついでに頭も撫でてくれ。やさしくな」


「あげくにふてぶてしさ極まる要求まで!」


「ぐう」


「そしてあっさりと寝るなああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 やれやれうるさい女だ。

 こっちの女はみんなこんな感じなんだろうか? 異世界って恐いな。


「ぐぬぬこの男、本当に眠ってしまったわ……覚えてなさいよハンゾー! こんな無礼を働いたこと、いつか絶対に後悔させてやりますから!」


 そろそろ聞き飽きたフリージアの叫びを子守歌にして。

 

 俺は安らかな眠りに落ちていくのだった……

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連載再スタートのお知らせ


いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

ここまで読んで頂いた『ニンジャ無双』ですが、
・タイトル
・あらすじ
・第一話
これらにどうも違和感があって、書き直すことにしました。

今後は変更タイトル『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』として、4月27日より連載を再スタートさせます。
『ニンジャ無双』の15話目以降は、そちらの連載の15話目としてアップします。 連載の中止ではありませんので、ご安心ください。

引き続き『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』の方をブックマークして頂ければ幸いです。

※感想、評価、レビューなど頂けますと、小躍りして喜びます。よろしくお願い致しますm(_ _)m
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