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第五話 忍者、手と口でさせる(未遂)

 眠りに落ちてからきっかり三時間。

 俺は目を覚ました。


「ようやくお目覚め?」


 フリージアが呆れ顔で見下ろしてくる。


「牛か象みたいに食事を掻き込んだかと思ったら、すぐさまその場で寝るなんて……あなた野生動物か何かなの?」


「忍者は寝る場所を選ばない」


 伸びをしながら俺は答える。


「木の上だろうと、たとえ水の中だろうと、必要なら休息を取る。洞窟からここまで休みなしだったからな。さすがに疲れた」


「そりゃ疲れるでしょうけど、それにしたってこんなところで……休めるところぐらい、言ってくれればちゃんと用意するのに……あと服ぐらい着なさいよ……」


「この場で、この格好で寝るのがいちばん効率がいい」


「誰かに襲われたらどうする気?」


「どうもしない。殺気に気づいて目を覚ますだけだ」


「大した自信ね……」


「それに俺はお前を信用している」


「わたしを?」


 当然だ。

 

 俺をこの世界に呼んだのはフリージアである。


 俺に何かあったら彼女は大損だ。嫌でも俺を守る必要があるだろう。どんな場所で寝ていようと、俺の安全は保証されている。


「信用ね……まあそう言ってくれるのは、うれしくなくもないですが……」


 俺の言葉をどう受け取ったものか。

 フリージアはまんざらでもなさそうな顔で、ぶつぶつ言っている。


 ま、勘違いしてくれてるならそれでいい。


 あらゆる状況を利用するのが忍者ってもんだからな。


「おかげさまで体力は回復した。今の俺は絶好調だ。さっきまでいた洞窟までひとっ飛びで戻ることもできるぞ」


「やめてお願いだから。あんな命がけの場所、もう二度と行くもんですか……あなたはいとも簡単に戻ってきたけど……」


「そうか。じゃあ出発しよう」


「え? どこに?」


「俺が役に立つ場所へだ。この世界は破滅の危機に瀕しているんだろ? さっそくそいつを救いに行く」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 集落を出て都へ向かうことにした。


 フリージアが以前言っていた『パリーズの都』が目的地である。


「パリーズはわたしにとって故郷であり、本拠地でもあります」


 馬車に揺られながらフリージアは言う。


 山岳をひとっ飛びで下りたのは、あくまでもクライアントに向けてのデモンストレーション。特に急ぎでもないのなら、移動手段は別のものを採用するのがよい。


 何より俺には情報が足りない。


 情報収集こそ忍者の基本。


 この旅路で、異世界の情報を蓄えるとしよう。


「地図を見せてくれ」


 最初に俺はそう言った。


 地図は情報の塊だ。

 見る者が見れば、宝石の山より高い価値を持つ。


「この世界の地図をありったけ頼む」


「いま用意できるのはこれだけですが……」


 フリージアが取り出してくれた地図を広げる。


 幸いにして文字は読める。こればかりは神様に感謝だな。言語に不自由すると、さすがの忍者もお手上げだ。


 ……どれどれ……ふむふむ……


 地図を読み込むことしばし。


「なあフリージア」


「なんです」


「これはこの世界の地図、でいいんだよな?」


「ええ」


「ヨーロッパ大陸じゃないかこれ、どうみても」


「よーろっぱ? ここはユーロプ大陸ですが」


 ははあユーロプ。


 こっちじゃそんな名前で呼ばれてるのか。


 川の位置、山の位置、海の位置――どれをどう取っても、俺の知っているヨーロッパの地図にしか見えない。


 おまけに都市の名前まで、俺の知っているヨーロッパの街を連想させるものとなっていたりする。


 つまりこの世界はなんだ?


 俺が知っていた世界の”if”ということになるんだろうか?


 それなら話は早い。


 ごく短い時間で、俺はこの世界の地図を頭に入れることができた。


「よし、大体のことはわかった。次にいろいろ質問をしたい」


「ええどうぞ、いくらでも」


 しばし質疑応答が続いた。


 その内容をまとめると、おおむね以下のようになる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


・この世界の文明度は、中世ヨーロッパ程度


・科学技術の代わりに魔法が発達


・文明度に比して豊かな経済


・人種と文化の交流も盛ん


・人種は主に『人間』と『亜人』に大別される


・エルフ、ドワーフ、ホビット、ヒューム――このあたりはまとめて人間


・ゴブリン、オーク、コボルト――などはまとめて亜人


・その他、ドラゴンを始めとする幻想種も、少ないながら存在


・大陸共通語あり


・戦争は絶えなかったが、それでもおおむね大陸は平和だった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「――ほんの数年前までは、ね」


「お前の言ってた『やつら』って連中のせいか」


どうやらそこが話のポイントになりそうだな。


 だがその前に。


「ところでフリージア」


「次の質問は何かしら? ええどんどん聞いてちょうだいね、幸いにしてあなたにはやる気があるようだから、わたしも教え甲斐が――」


「契約の話だ」


「うぐっ」


 ばつの悪そうな顔をするフリージア。


「本題に入る前に済ませておこうか」


「す、済ませるって何を……?」


「洞窟の続きを」


「はうっ……!」


「状況が状況だったから先送りにしたが。今は悪くない頃合いだ」


「悪くないというと、どのあたりがでしょう……?」


「まず、食事も昼寝も済ませて体力がある」


「な、なるほど」


「そしてこの馬車の中はふたりきりだ」


「た、確かにその通りです」


「さてやろうか」


「まままま待って待って!」


「なぜだ? 条件は揃っているぞ? むしろこの機を逃すと、かえってやり時を失ってしまうと思うんだが」


「そ、それはそうですが……そもそもわたし、まだあなたの名前さえ聞いてない……」


「望月半蔵だ。さてやろうか」


「ちょ、早っ!? 待って待ってまだ順序が!」


「まだ何かあるのか」


 俺は渋い顔で待機する。


 こほんこほん! しきりにせき払いしながらフリージアは体勢を整える。


「いいですかハンゾー」


「おう」


「これでもわたしは王族の末席に身を連ねる者。しかるべき時まで純潔を守る義務があります」


「なるほど」


 ちなみにフリージアは着替えている。


 薄い青の衣。ふくらはぎまであるマーメイド型。太もも近くまである深いスリット。チャイナドレスを洋風にアレンジしたような。


 とてもよい。異世界らしくエロい。


 さらにちなみに。聞けばフリージアは王族であり、神官であり、外交官であり、戦士でもあるらしい。絵に描いたようなノーブレスだ。


 じつによい。花は高嶺に咲くほどよい。


 一応ちなみに。俺も着替えている。こちらの世界ではごく普通のシャツとパンツ。


 別にいいんだけどな、服なんて着なくても。忍者だし。


「わかった。提案がある」


「提案? ええ、そう言ってもらえて正直ホッとします……ええそうですよね、いくらなんでもここでは無理ですよね。馬車の中はふたりきりとはいえ、すぐそこに御者もいるわけですし、他にも馬車を囲む隊商がずらりと並んでいますし、いくらなんでもはしたない――」


「純潔を守るために手と口でする、というのはどうだろう?」


「さ、最低! ちょっとでも期待したわたしが馬鹿でした!」


「なぜだ。ここまで妥協してるのに」


「妥協する場所がおかしくないですか!?」


「前にも言ったが、あんたを頂くことはもう決まっている。契約だからな」


「ぬぐっ」


「むしろ俺は温情に温情を重ねている。力づくで奪ってもいいところを、わずかな手付け金だけで済ませてもいる」


「わ、わかったわよ! やるわよ、やればいいんでしょう!?」


 やけくそ気味のフリージア。


 顔が真っ赤だ。


「それはわたしだって王族の一員ですから、たしなみとして夜伽の技は一通り……知識ぐらいは専属の家庭教師が……とはいえいきなりこんな実践を……うう、精霊教会で騎士の叙勲を受けた時より何倍も緊張する……」


「早いとこ頼む。こっちもせっかくその気になってるんだ」


「うう……まずは穿いてるものを? 下ろせばいいのかしら? ええとそれから、手でそっと包み込んで、赤子を扱うようにやさしく、それから強く握ったり弱く握ったりして……そ、そのあとはくちびると舌で、ゆっくりあめ玉を舐めるように刺激を与え――って、そんなのできるかー!?」


 キレやがったこの女。


 やれやれ仕方ない……俺はふたたび温情を掛ける。


「わかった今日のところはいい。だがこの貸しはいずれ、利子を付けて返してもらうぞ」


「り、利子と言いますと……?」


「とても口では言えない、もっとすごいことをする」


「そんな!?」


「文句があるならいま払うことだ。……さて、それじゃ話の続きをするぞ。忍者に必要な情報はまだそろってないんだからな」


「うう……なぜか上から目線で言われるこの仕打ち……理不尽だわ……」


 憐れっぽく肩を落とすフリージアだった。


 妙な話である。

 

 理不尽というなら、何の断りもなく召喚された俺の方がよっぽど理不尽なはずだが。


 異世界って恐いな――


 しみじみそう思う俺なのだった。


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連載再スタートのお知らせ


いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

ここまで読んで頂いた『ニンジャ無双』ですが、
・タイトル
・あらすじ
・第一話
これらにどうも違和感があって、書き直すことにしました。

今後は変更タイトル『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』として、4月27日より連載を再スタートさせます。
『ニンジャ無双』の15話目以降は、そちらの連載の15話目としてアップします。 連載の中止ではありませんので、ご安心ください。

引き続き『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』の方をブックマークして頂ければ幸いです。

※感想、評価、レビューなど頂けますと、小躍りして喜びます。よろしくお願い致しますm(_ _)m
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