第十八話 忍者、新たな旅に立つ
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『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』
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「……うそでしょう? 『バーセイルの凶獣』を手懐けたのですか?」
大図書館から戻った俺。
迎えてくれたフリージアは、驚くやら呆れるやら。
「かわいい女だったぞ」
「かわいい? リースが? そりゃホビットですから、見た目はそうでしょうけど……」
「あなたはまだハンゾー様のことがわかっていませんね、フリージア」
失笑しながらオルレアナが指摘する。
「ハンゾー様のすることなら驚くに値しないでしょう。わたくしはこうなることを確信していましたよ。さすがハンゾー様、お見事です」
「ですが『あの』リースですよ? 序列三位の精霊騎士であるわたしが戦っても、身を守るのが精一杯だった相手ですよ? 忘れもしません、二年前の『王都動乱』事件の際。急報を受けて駆けつけたわたしは、見境なく暴れ回るリースを相手に回して勇敢に立ち回り――」
「そして負けましたね、あなたは」
「負けてません! 直接ぶつかるのを避けて、戦略的に立ち回っていただけです! 失言を取り消してくださいオルレアナ叔母様!」
「あなたこそ失言を取り消しなさいフリージア。わたくしは叔母様ではないと一億回ぐらい言ってるでしょう」
言い争いをする二人。
俺はしばし考えてから言う。
「前から思ってたんだが」
「何ですハンゾー!? いま忙しいから後に――」
「序列三位の精霊騎士って、実は大したことなくないか?」
「……ふらっ」
貧血を起こしたように倒れ込むフリージア。
「大丈夫か? 血が足りてないなら、剣角鹿の肝焼きでも食いに行くか? いい店を知ってるんだが」
「……言いましたね!? ハンゾーあなた言いましたね!? 決して言ってはならないことを言いましたね!」
「そんなに怒られてもな。お前が俺に歯が立たないのは事実だし」
「それはそうですが! ええまったくその通りでございますが! それでも言っていいことと悪いことがあるんです!」
「そうか。そいつは気づかなかった」
「精霊教会のしもべたるわたしに向かってよくも! きぃ悔しい! わたしを馬鹿にするのは許しても、精霊教会を軽く見るような発言は許しませんよ!」
「ふむ」
地団駄を踏むフリージアを見ながら、俺は考える。
「だったらいい機会だ。せっかくパリーズに来たのに、まだ国王に会えてないのが残念だが――それより先に行ってみるか」
「行く!? 行くってどこへ!?」
「精霊教会の総本山。シェルーブルの都に」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シェルーブルの都はパリーズの西、およそ二日の距離にある。
大河の河口にある港町で、古くから交易の拠点として栄えているそうだ。
ちなみに、フリージアにとっては修業時代を過ごした第二の故郷、ということになる。
「海産物が美味いことで有名らしいな。楽しみだ」
「マミール貝に、鎧エビ……名物の食材がたくさんありますよ」
シェルーブルに向かう馬車の中。
フリージアは機嫌よさそうに言う。
「わたしのお勧めは、だんぜん塩茹でですね。とれたてを屋台でさっとお湯にくぐらせて、スパイスを軽ぅくふりかけて……修行時代、教会の寮を抜け出してこっそり食べたものです」
「へえ。意外だな」
「そうですか?」
「お前はもっと堅物かと思ってた」
「わたしだってたまには羽目を外します。精霊騎士の修行は集団生活。堅苦しいばかりではかえって和を乱しますから」
「いよいよ意外だな。お前の口からそんなセリフが出るとは」
「ところで羽目を外すと言えば」
こほんこほん。
フリージアのせき払い。
「ハンゾー。あなたは王宮の大図書館で、リース・カレルノ・ストラルブーンと仲良くなりましたね。とてもしっぽりと」
「ああ。いい女だぞあいつは」
「わたしの叔母のオルレアナ宰相とも、ただならぬ仲である様子」
「そうだな。あいつもいい女だ」
「別にとやかく言うつもりはありません。お互いが同意の上であれば、何も問題はないでしょう。ええ、とやかく言うつもりはありませんよ、ありませんが――」
こほんこほん。
フリージアはしきりにせき払いをしている。
ちなみに俺は本を読んでいる。
こちらの世界の地誌に関する書物だ。早駆けすれば数時間で済むところを、わざわざ馬車を使う理由――こういう機会でないと、腰をすえて学ぶことができないからな。
日々是学問也。
リースという異世界版のグー○ルを手に入れたとしても、忍者に怠慢は許されない。
「ハンゾー。何か忘れていることがありませんか?」
「はて。記憶力には自信あるんだが」
「宰相やリースに手を出す前に、他にやるべきことがありますよね?」
「この世界を救う件か? それについては時間をくれ。すぐにどうこうできる話じゃない」
「そうではなくて! わたしと! 契約を! しましたよね!? こちらの世界に来てからいちばん最初に!」
「ああ」
本のページをめくりながら俺。
「そういえばあったな、そんなことも」
「そういえばじゃありません! その件について、わたしがどれだけ気を揉んだか! いつ手を出されてもいいように、毎日念入りにお風呂に入って、着替えもちゃんとして、髪の手入れとか爪の手入れとかもちゃんとして――はっ!?」
「ん? どうした?」
「なんでもありません! 今の発言は聞き流しなさい!」
そうか。じゃあそうしよう。
本を読むのに夢中で、いまいち何をわめいてるのか聞き取れなかったが。
「ああ――なるほど。そういうことか」
「そういうことか、って何がです!?」
「フリージアお前、パリーズを出発してからこっち、ずっと機嫌が良さそうだったじゃないか。久しぶりに誰の邪魔も入らず二人きりだったから、それで機嫌が良かったのか。ああなるほどそういうことか、へーえ。ふーん」
「ち、違、そういうわけじゃ……!」
「せっかくの機会だ、ずっと貸し付けたままになってるモノを取り立てるとするか。なあに、純潔とやらは守ったままでいい。手と口でささっとやってくれればそれで――」
「さ、最低! 最低ですハンゾー!」
「そうか。ならいい」
言い捨てて、俺は読書に戻る。
スバルトラントと魔の森の成り立ちと、そこに生息する魔物たちの来し方行く末について記述した、中々の名著だ。
「ぐぬぬハンゾー……またしてもわたしを軽くあつかって……」
フリージアは悔しがっている。
「その余裕な態度に腹が立ちます……ちょっといい関係の女性ができたからといって調子に乗ってますよね……元々はわたしが一番だったはずなのに……ああ……というかわたし、また素直じゃない態度を取ってしまって……」
「フリージア」
「ひゃいっ!? もしかして聞いてました今のひとりごとを!?」
「腹が減った。肉団子の揚げパンを持ってきたはずだ、そいつを取ってくれ」
「……そんなの自分で取りなさいよ……わたしはあなたの小間使いじゃないっての……ぶつぶつ」
「フリージア」
「あーもう今度は何!?」
「愚痴ばっか口にしてると、歳を取るのが早くなるぞ」
「いったい誰のせいだと!?」
地団駄を踏むフリージアだった。
「おのれハンゾー、覚えてなさいよ……シェルーブルはわたしにとっていわば地元。必ず後悔させてあげます……あ、でも鎧エビの屋台にはふたりで行きたいですね……」
なおも何かをぶつぶつ言っている。
やれやれ。
世話の焼ける女ではあるが、敵対しない限りは俺の女。地元の案内ぐらいは出来るだろうから、しばらくは面倒を見ることになりそうだ。
素直じゃない女にまで気をつかう――異世界の忍者はやっぱり、楽じゃない。




