第十六話 忍者、人材を手に入れる
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『SSSランクのおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生大逆転で余裕でした』
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前回のつづき。
「人材がほしい」
俺、フリージア、オルレアナ、三人の会食の中で。
俺は提案する。
「俺ひとりでも大抵のことは何とかなるが、効率の悪い仕事を忍者は好まない。俺の助けになってくれる、優秀な人材がもっと必要だ」
「ごもっともです」
オルレアナがうなずく。
「ですが簡単ではありませんよハンゾー様」
「というと?」
「世界に危機が迫っていること、『やつら』の脅威が迫っていること――いずれもまだ、ごく少数の者にしか知らせてない事実です。無用の混乱を招きかねませんから」
「ふむ」
「そしてハンゾー様のことは表向き、『遠い他国からの客人』ということにしています。大っぴらに事情を話して人材を求めるのは、難しいかと」
「なるほど」
「もちろん、わたくしたちに力を貸してくれる方たちもおられますので、その中からハンゾー様に見合った人材を見繕うことはできますが」
「いや。できればもっと別のがいい」
「どのような人材をお望みで?」
「そうだな――」
考える。
「……物知りなやつがいいな。俺はまだこちらに来て日が浅い。知識はいくらでもほしい」
「承知しました。物知りな人物ですね」
「物知りでも頭の悪いやつは困る。才気煥発で知恵の回るやつがいい」
「なるほど。頭のいい人物、と」
「ついでに腕っ節も強ければ文句なしだ。大体は俺ひとりで足りるし、フリージアもいるが、強いやつは多いに越したことはない」
「えっ、そこでわたし? ……そ、そうよね、わたしだって腕に自信はありますからね。なにしろ序列三位の精霊騎士ですから。そう、ハンゾーもわたしのことは認めてくれているのですよ、えへへ」
「……ちょっと持ち上げただけで喜んでる、そこの単純女はおいといて、オルレアナ。俺に必要な人材に心当たりはありそうか?」
「あります」
即答だった。
そういう返事、嫌いじゃない。
「ありますが、おすすめはできません。わが国を代表する才能ではあるのですが――」
「……ちょっと叔母様! まさか『彼女』とハンゾーを会わせるつもりですか!?」
「叔母様はやめなさいフリージア。温厚なわたくしもそのうち怒りますよ?」
「ですけど――」
「ハンゾー様のご要望にお応えできる人材がひとりしかいないのだから、仕方ないでしょう」
「そうはおっしゃいますが――」
つとめて冷静に語るオルレアナと、あわてふためくフリージア。
ふむ。
どうやら面白いことになりそうだな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
……二人から聞いた話を以下にまとめる。
・その人物の名は、リース・カレルノ・ストラルブーンという
・精霊魔法と対を成す、神獣魔法の使い手
・速読と記憶力に定評がある。バーゼイル国内のあらゆる書物を読破し、『生ける百科事典』の別名で呼ばれることも
・とにかく気むずかしく、偏屈な変わり者として有名。その才能を誰もが欲しがったが、彼女は誰にもなびかなかった
・現在は諸事情により、王宮の地下にある大図書館で謹慎している
・しかし謹慎はあくまで建前の話。彼女がその気になれば、警備兵はおろか、縛めの結界を簡単に破り、自由に出入りできるだろうとのこと
・単に本をたくさん読みたいから地下にこもっているだけ、ともっぱらのウワサ
「……法的な問題、その他もろもろは、わたくしが上手くやっておきます」
と、オルレアナは言う。
「ですが彼女との会話や交渉などは、ハンゾー様みずからやっていただくことになります。わたくしやフリージアが間に入っても、おそらく逆効果でしょうから」
「仲が悪いのか? そいつとお前たち二人は」
「はい。彼女は賢者ではありますが、秩序よりも無頼を好む性質です。わたくしやフリージアとは、いささか」
「なるほど。それでもなお王宮の地下に住まわせている、ということは――」
「はい。切り捨てるのはあまりに惜しい人材です。……とはいえお気を付けくださいハンゾー様。彼女が本気になれば、この王宮ごとがれきの山にすることもできるでしょう」
「へえ。そいつはすごい」
「幻想種の長たる竜を相手にしてさえ、彼女は互角に渡り合えるやも」
「おどろいたな。大したもんだ」
「いかにあなた様といえど、これはひどく危険な賭け……それでもリース・カレルノ・ストラルブーンとお会いになりますか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
当然だ。
……そんなわけで俺は今、王宮の地下深くにある大図書館にいる。
巨大な洞窟――というのが最初の印象だ。
広い。
高い。
野球ができそうな空間に、びっしりと書棚が林立している。
こりゃ大したもんだ。
異世界の文化と技術も捨てたもんじゃない。
「――ボクらが作ったんじゃないよ」
上から声が降ってくる。
「古代を生きた神人たちの遺産さ。こんな大層なものを生み出せるなら、バーゼイル王国はもう少しマシな国になってるはずだ」
見上げると、書架にのぼって本を読んでいる少女がひとり。
「お客さんが来るのは久しぶりだよ。食事を持ってくる使用人さえ、ボクに会いたがらないからね」
「俺はモチヅキ・ハンゾーだ」
「話は聞いてる。はるばるようこそ異世界の客人。ボクはリース・カレルノ・ストラルブーン。よろしくね」
「降りてきて話せないか? 本棚の上にいられちゃ話しづらい」
「そうしたいのは山々なんだけど、今すぐには無理かな」
「なぜ?」
「じつはボク、身体があまりにもひ弱でね。キミのいるところまで素早く降りていけるような体力がない」
「そうか。ではこちらから出向こう」
俺は跳んだ。
三階建てほどの高さをひとっ飛び。
「わあ」
リースが目を丸くする。
「キミは飛び猿か何かかい? この高さを何の詠唱もなしに跳んでくるなんて、常識外れもいいところだ」
「猿じゃない。忍者だ」
ちびっこい女だ。
見た目は十二歳ほど。ほんのり青みを帯びた髪。
おそらくホビット族だろう――彼らの外見年齢は、十代の始めごろで止まるという。
「あんたに話がある」
「何かな?」
「世界の危機だそうだ。力を貸してくれ」
「了解。力を貸すよ」
…………。
「どうも聞いてた話とちがうな」
「というと?」
「あんたは偏屈の変わり者だ、と聞いていた」
「偏屈の変わり者で合ってるよ、ハンゾーくん」
「それにしては俺の頼みを素直に聞いてくれる」
「そりゃあね」
リースは肩をすくめて、
「キミほどの男を前にしては、嫌でも素直になろうというものだよ。だって、キミがその気になれば、この瞬間にもボクの首をはねることができるだろうし」
「ふむ。わかるのか」
「わかるとも。ボクは素行が悪くて階位こそ受けてないが、大陸でも一、二を争う賢者だ。キミがどういう人種なのか、一目で分析できる」
「その分析の結果は?」
「逆らう気にもなれないほどの実力者。頭のてっぺんからつま先まで、ボクはキミに従うしかない。『恭順』のひとことに尽きるよ。むしろひざまづいて靴をなめたいくらいさ。命が惜しいからね」
「ふむ……」
「フリージアあたりなら、無謀にも突っかかっていくかもしれないが。ボクは身の程を知っている。キミが望むなら、ボクをここで無理やり犯すこともできるだろう」
だいぶ誤解があるようだ。
確かにその気になれば、このホビットの生殺与奪を握れるだろうが……。
まあ俺の力量を測れるということは、そのままリースの力量の高さを示している。つまり、俺が欲している人材の水準を十分に満たして――
(……む?)
そこで気づいた。
完璧な冷静さを保ち、微笑みさえ浮かべているリースだが。
その手足が、かすかに震えている。
……そうか。恐れさせてしまったか。
英雄は英雄を知るというが……自然と俺を恐れてしまうのは、彼女の優秀さの証。
俺はリースをそっと抱き寄せた。
「――っ!? な、なにを――」
「すまない。あんたをそういう気持ちにさせるつもりはなかった。俺に敵意はない。わかってくれるか?」
「ああ――」
俺の腕の中で、リースは力を抜く。
「もっと抱いて。キミはとても温かい……」
「こうか?」
「うん、そう、そんな感じ。ああ……なんて心地よいんだろう」
「この程度はお安いご用だ。いつでもやってやる」
「敵わないなキミには。神のごとき強さを誇りながら、なんという友愛のこもった抱擁をする男なんだ……こんな風に包まれてしまっては、ボクも心を解くしかない」
「そうしてもらえると助かる」
「うん決めた。ボクは恐怖ゆえではなく、敬愛によってキミに従う。ボクの力、キミの思うままに使ってくれ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
こうして俺は、リース・カレルノ・ストラルブーンを手に入れた。
華奢な少女にしか見えない彼女が、かつて『バーセイルの凶獣』と呼ばれて恐れられていた破壊魔であること――
その姿は妖精のごとしと称えられるホビット族の中でも、彼女は絶世の美女の部類に入ること――
そういった話を知るのは、また後のことである。




