表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

第十四話 忍者、枢機卿をざまぁする

連載再スタートします

『SSSランクのおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生大逆転で余裕でした』


くわしくは下のランキングタグにて

再ブックマークよろしくお願い致します!


「足場を固めたい」


 王都パリーズの、とある酒場。


 俺はフリージアに言った。


「オルレアナ宰相のお墨付きはもらったが、まだ俺が大手をふるって仕事ができる環境じゃない。何事もそれからだ」


「ハンゾーの言うとおりです」


 エールを飲みながらフリージアは頷く。


「異世界からすごい力を持ったニンジャが来たから、彼にすべてを任せよう――と言ったところで、簡単に納得してもらえるとは思いません。この国の上層部を支配しているのは、ジャモニー枢機卿を始めとする門閥貴族ですから。彼らは特に頭の固い人種なので」


「まあ俺ひとりでも何とかなるだろうが、効率が悪い。なにより目立ち過ぎるのは忍者の本道にもとる」


「ニンジャは闇から闇へと渡って生きる――ということですね?」


「わかってるじゃないか」


「当然です。この世界では、わたしがいちばんハンゾーのことを知っていますから」


 フリージアは胸を張って、


「あの、ところでハンゾー?」


「なんだ」


「あなた本当に、本当の本当に、オルレアナ宰相と、その――」


「またその話か。彼女はもう俺の女だと、何度も言ってるだろう」


「で、ですがその、もともとハンゾーはわたしとそういうことをする契約だったはずで、なのにオルレアナ叔母さまと先にそういう関係になるのは――」


「そんなことよりオルレアナ。シシャモ枢機卿のことなんだが」


「ししゃも? ……ああ、ジャモニー枢機卿のことですか?」


「あの老いぼれがどこに住んでいるか教えてくれ。ひと仕事してくる」


「ひと仕事? いったい何をするのです?」


 答えず、俺は串焼きの肉にかぶりつく。


 今日の料理は、黄金ヒツジの新鮮な内蔵を炭火で炙ったもの。


 柑橘類の香りがするスパイスで風味付けしてあり、臭みがなく、とろけるように甘い。少し辛めの味付けも俺の好みだ。


 仕事の前には精を付けるにかぎる。


 今夜のプランを頭の中でシミュレートしながら、俺は串焼きを腹に収めていく。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



(くそっ、くそっ! モチヅキ・ハンゾーめ!)


 その夜、王都の一角にある広壮な屋敷にて。


 ジャモニー・ルーモン・ド・バイヨン枢機卿は、ひとり地団駄を踏んでいた。


(どこの馬の骨とも知れぬ男に、誇りあるバーゼイル王国の運命を託すなど……おまけにオルレアナ宰相閣下の信頼を得るなど……ええい、忌々しい!)


 なにより許せないのは。


 ハンゾーを見るオルレアナ宰相が、女の顔をしていたこと。


 王族にして、バーゼイル王国指折りの才媛たるオルレアナには、ジャモニー・ルーモン・ド・バイヨンこそふさわしいというのに。


 それを、あのハンゾーとかいうドブネズミが――


(ええい! 許さぬぞ決して!)


 ジャモニーは固く決意する。


 由緒正しい貴族によって統治されるバーゼイル王国の王宮に、平民ですらないモチヅキ・ハンゾーの居場所はない。


 死をもってその罪をつぐなわせる。それしかあるまい。


「おいっ! そこにいるんだろう!?」


 ジャモニーはわめいた。


 誰もいないはずの、広間の暗がり。


 そこに、ゆらりと沸き立つ気配がある。


「――お呼びですかな、依頼主殿」


 黒衣をまとった影が現れた。


 ひどく不吉な雰囲気をまとった、漆黒の影。


「仕事の内容はわかっているだろうな?」


「モチヅキ・ハンゾーの殺害……でよろしいか」


「うむ。なるべくむごたらしく殺せ。念入りに痛めつけてな」


 ジャモニーは暗い目をして笑う。

 

 スバルトラント辺境、かの悪名高い魔の森を根城にする、デイヨン一族。


 至高の暗殺者集団と呼ばれる彼らを雇うのに、金貨一万枚が必要だったが。彼らなら必ずや依頼を果たしてくれるだろう。


「ところでデイヨン一族の者よ」


「なんですかな、依頼主殿」


「お前ひとりだけなのか? モチヅキ・ハンゾーはそこそこ腕が立つという話らしいが、ひとりで本当に始末をつけられるのだろうな?」


「……これはしたり」


 全身を覆う黒衣の隙間から、暗殺者の目が笑うのが見える。


「ひとりではありませんぞ。さっきからほれ、そちらにも、あちらにも」


「むうっ!?」


 ジャモニーはあわてて周囲を見回す。


 そして驚愕した。


「――ここに控えておりまする」


「――こちらにも」


「――そしてこちらにも」


 一体いつの間に?


 ジャモニーの背後と左右に、それぞれひとりずつ。


 何の気配も悟られず、全身黒衣の影たちが、いつの間にか現れているではないか。


「我らデイヨン一族にとっては、造作もないことでございますよ」


 首領らしき黒衣が言う。


「依頼は必ずや果たしてご覧に入れる。酒でも飲んで待っておられるがよい」


「――は、ははは」


 ジャモニーの口から乾いた笑いが漏れた。


 まったくの素人である彼にもわかる。


 半ば伝説として語られるデイヨン一族の力は本物だ。


 彼らは万に一つも失敗することなく、モチヅキ・ハンゾーの首級を持ち帰ることだろう。仮に最高位の精霊騎士が相手であっても、デイヨン一族には敵うまい。


「ははははは! いいぞいいぞ、行けデイヨン一族の者ども! 首尾よく事が済んだあかつきには、たっぷり褒美を弾んでやろう!」


「心得た」


 すうっと。


 合わせて四つの影が、音もなく消えた。


「くくくくく……わっはっはっは!」


 ジャモニーはひとり哄笑する。


 今宵はいい夜になりそうだ。


 あとは待つだけでよい――とっておきの酒でも飲みながら、モチヅキ・ハンゾーが死んだ後のことでも考えようではないか。たとえば失意に沈むオルレアナ宰相を我が物にする段取りとか。ついでに小生意気なフリージアを手籠めにするのも悪くない。


 下卑た笑いを浮かべ、ジャモニーは三十年物の火酒を引っ張り出す。


 今夜はこのとっておきの酒を味わいながら、デイヨン一族が戻るのを待つとしよう……


「――っ!?」


 ジャモニーの表情が凍りついた。


「動くな」

 

薄闇の中に誰かがいる。


 厳重な警備を敷いている、枢機卿の屋敷に侵入して、ジャモニーの目の前に、誰かがいる――!


「口も利くな。視線すら揺らすな」


 ああまさか。


 まさか、そんな。 


「従わなければ殺す。従ったとしても気に食わなければ殺す。理解したか?」


 モチヅキ・ハンゾー。


 この男がなぜここに――


「肯定なら首を縦に。否定なら横に振れ」


 ジャモニーはすぐさま首を縦に振った。


 本能が告げている。逆らえば、待っているのは何よりも確実な死――


「座れ」


 滝のように流れる冷や汗を感じながら、座る。


「注げ」


 震える手で、ハンゾーが掴んだグラスに酒を注ぐ。


 三十年物の火酒、文字どおり火がつくほど強い酒を、ひといきに飲み干す。


「お前も飲め」


 ジャモニーも自分のグラスに酒を注ぎ、飲む。味がしない。


 一体どうなっている? 警備の者や召使いたちは? 


「屋敷の者たちには幻術をかけておいた」


 デイヨン一族は? あの恐るべき強者たちは?


「ああ、ここに来る時すれ違ったな。全員白目をむいて転がってるよ。こっちの世界にもそれなりにできる連中はいるらしいが――俺を殺したいなら、もう少しマシなやつを雇うんだな」


 それなり?


 あのデイヨン一族をそれなりだと?


 ジャモニーの震えが止まらない。声を出そうにも歯の根が合わない。


 今この瞬間にも、頭髪がごっそり抜けていくのを自覚する。


「まだ俺を殺したいか?」


 首を横に振る。


「まだ俺を殺せると思うか?」


 首を激しく横に振る。


 殺気とか、そういうちゃちな問題ではない。


 モチヅキ・ハンゾーは、目の前にただ座っているだけなのに、まるで山のごとく大きく見える。あるいはジャモニー自身が豆粒のように小さくなってしまったのだろうか。


 それほどの差が、この男と自分にはあるというのか。


「いい酒だな」


 首を縦に振る。


「こいつを飲みきるまで、しばらく居座らせてもらおう。心配するな、あんたにも飲ませてやるよ。今夜は酒盛りだ」


 首を縦に振る。


 グラスに酒が注がれる。





 ――その後、何がどうなったのか記憶にない。


 気づけば朝になり、モチヅキ・ハンゾーの姿は消えていた。


 自分が失禁していたことに、ジャモニーはその瞬間まで気づかなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その夜。


 王都パリーズの、とある酒場。


「ねえハンゾー」


「なんだフリージア」


「ジャモニー枢機卿が今日、恭順を申し出てきました。モチヅキ・ハンゾーの方針にすべて従うと」


「へえ。よかったじゃないか」


「……何をしたんです?」


「別に何も。ふたりで酒を飲んだだけだ」


「もともと少なかったジャモニー枢機卿の髪の毛が、ぜんぶなくなっていたんですが」


「そうか。そりゃかわいそうに」


「ずっと泣きべそかいてましたよ、あの人」


「きっと花粉症だろう。こっちの世界にも花粉症があるんだな」


 適当にごまかして、俺は黄金ヒツジの串焼きを食う。


 今夜もまたオルレアナのお誘いを受けているので、精力をたっぷりつけておく。


 異世界忍者にヒマはなし。宰相としっぽり仲良くなって、仕事を円滑に進めるようにしておかないと――だからな。

ざまぁ楽しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


※告知

連載再スタートのお知らせ


いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

ここまで読んで頂いた『ニンジャ無双』ですが、
・タイトル
・あらすじ
・第一話
これらにどうも違和感があって、書き直すことにしました。

今後は変更タイトル『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』として、4月27日より連載を再スタートさせます。
『ニンジャ無双』の15話目以降は、そちらの連載の15話目としてアップします。 連載の中止ではありませんので、ご安心ください。

引き続き『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』の方をブックマークして頂ければ幸いです。

※感想、評価、レビューなど頂けますと、小躍りして喜びます。よろしくお願い致しますm(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ