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第十三話 忍者、宰相をいただく(真相)


 わたくしの名は、オルレアナ・マーセイユ・ド・リューセック。


 リューセック王家に連なる血筋、バーゼイル王国の宰相です。


 自慢じゃありませんが、優秀です。才媛です。


 年齢は二十五歳。独身です。


 正直、行き遅れ気味ですが、仕方ありません。わたくしに見合う殿方がいないのだから。


 これでもけっこう求婚はされるのですよ? 頭だけじゃなくて、見た目だってちゃんとしてるんですから。枢機卿たちからもとても人気です。下心丸出しでウンザリしますが。


 まあもし仮に、わたくしに見合う殿方がいたとしても、国政が忙しすぎて結婚できそうにありませんけどね。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さて。


 わたくしには悩みがあります。


 まずは小さな悩みから。国王の妾腹の子であるフリージアが、わたくしを叔母と呼ぶこと。


 だって、あの子とわたくしは七歳しか歳が違わないのですよ?


 見た目だって、あの子とわたくしはそんなに変わらないのですよ?


 それなのに叔母さま呼ばわりは迷惑です。ただでさえ遠のいている婚期が、さらに遠のいてしまう気がします。


 何度もやめなさいと言ってるのですが、フリージアはしっかり者にみえて迂闊なところがありますから……いまだに叔母さま呼ばわりがたまに出ます。


 まあ悪気はないのでしょう。悪気があったらとっくに独房行きです。


 この国を憂う者同士、しっかり力を合わせていかねばならないのですが……生まれの違いもあり、フリージアとわたくしは微妙な関係なのです。


 さてもうひとつ。大きな悩みの方。


 こちらは本当に頭の痛い悩み。『やつら』と呼ばれる侵略者についてなのですが……ここで多くを語るのはやめておきましょう。


 わかっているのは、放置しておけば良くない事態になる、ということ。


 一日でも早く対処しなければならない、この世界にとっての大問題なのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ……で。


 その大問題の”解決法”とやらと、わたくしは面談しているのですが。


 「――口を慎め、下郎! リューセック王家のやんごとなき血筋を受け継ぐオルレアナ宰相閣下と、対等の口を利くとは何事か! まずはひざまずき、頭を垂れるのが礼儀であろう!」


 ……まあこうなるでしょうよ。


 フリージアが連れてきた異邦人の救世主、モチヅキ・ハンゾー。


 案の定、枢機卿たちは拒絶を示しました。


 もちろんわたくしが決断すれば、枢機卿たちは従ってくれるでしょうが――それにしても政治というものがあります。


 この国は圧倒的な貴族社会。


 貴族の頂点たる枢機卿への配慮を欠けば、何事も立ちゆきません。


 そのあたりがまだ判っていないフリージアは、どうにか枢機卿たちを説得しようとしているようですが。簡単にはいかないでしょう。


 あの子はもう少し、貴族階級の扱いを理解する必要があります。庶民育ちの彼女はそのあたりがよくわかっていません。今回の件はいい勉強になるのではないでしょうか。


(それはそれとして――)


 わたくしはモチヅキ・ハンゾーに目を向けます。


 この男、ただ者ではありません。


 悠然としたたたずまいは、隙だらけに見えてまったく隙がない。


 そもそも宰相と枢機卿に囲まれて、まったく動じてないあたり――いくら異邦人とはいえ、普通はできないでしょう。


 あと、その……なんというのでしょうか。


 ときどき合う視線が、ひどく情熱的で、甘くて、お腹のあたりがきゅんとするといいますか――それに見た目もわたくしの好みにぴったりですし、なんだかこう、心の中で何かが弾ける予感がありありといいますか。


 不思議です。


 枢機卿たちも、フリージアも、何も気づかないのでしょうか?


 モチヅキ・ハンゾー……控えめに言って、神のようにいい男ですよ?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ……で。


 今はその会談の二日後の夜なのですが。 


 わたくし、寝室で押し倒されています。


 周りには誰もいません。近衛の者や召使いたちはみな、幻術にかけられているか、あるいは眠らされているようです。寝室にはわたくしと、わたくしを押し倒している男だけ。


 モチヅキ・ハンゾー。


 アリ一匹入れないほど厳重な王宮の警備をくぐり抜け、宰相の寝室までたどり着いたのです。


 とても信じられません。


 まさか、そんなことをしてのける男がこの世にいるなんて。


「あんたをいただきに来た」


 モチヅキ・ハンゾーはささやきます。


「嫌か?」


 嫌……ではありませんが、わたくしにも立場が……ああ不思議です、どうしてこのような気持ちに……まるで抵抗する気が起きない……


「魔眼だ」


「まが……ん?」


「蠱惑の術の一種だ。忍者なら誰でも学ぶ」


「にん……じゃ?」


「ま、こっちの話だ。気にしなくていい。遅かれ早かれ結果は同じだ。魔眼がなければ正面から口説くだけだからな。時間がないからこうしたまで」


 ああ……とても渋い声。


 背中がぞくぞくします。


 ちなみに押し倒していると言いましたが、まったく乱暴ではありませんでした。


 むしろ小鳥の雛をそっと包むような押し倒し方でした。そんなところも素敵。


「では頂くぞ」


「ああ、そんな、駄目……」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ……で。


 今は王宮の庭園にある東屋で、二度目の会談中。


 わたくしがハンゾーを認め、彼に全権を委任する宣言をしたところ。


 枢機卿への配慮?


 そんなのどうでもいいです。遅かれ早かれ、どうせ結果は同じだったでしょう。


『やつら』へのこれといった対策はない。


 ハンゾーの実力は本物。


 であれば、任せるしかないではありませんか。


「承伏いたしかねまする! そのような世迷い言、どこの馬の骨とも知れぬ男を、そのように重用するなど――」


「くどいですよジャモニー枢機卿。言ったはずです、わたくしは国王陛下の名代であると。わたくしの言葉に異を唱えるのは、国家への反逆も同然です」


「そ、そんな――!」


 あーあー。


 うるさいうるさい。耳が腐ります。


 枢機卿たちに、ハンゾーの百万分の一でも魅力なり実力があれば、少しは話も聞いてあげましょう。それまでは顔も見たくありませんね。


 会談を終え、うろたえる枢機卿たちを残してわたくしは東屋を出ます。


 扉のそばでハンゾーとすれちがいます。


 わたくしは小さな声でささやきます。


「……今夜もわたくし、お待ちしております」


「了解」


 枢機卿たちと同じく泡を食っているフリージアは、そのやり取りに気づかなかったようです。


 同じ女だからわかります。あの子もわたくしと同じで、モチヅキ・ハンゾーのことが好きなのでしょう。ですがこういうのは早い者勝ちですからね。せっかく見つけた最高の男を、わたくし決して逃がしませんとも。


 ああ、それにしても。


 ハンゾーはその、何と言いますか……とても、すごかったです。


 ああ無理。これは無理です。女だったらぜったい惚れてしまいます。だってあんなに激しくて、それでいて優しくて……わたくし思い出すだけでも……


 コホン。


 秘め事は秘めてこそ。あの夜のことはわたくしの胸に納めておきましょう。


 わたくし、うきうきしながら執務室へ向かいます。


 やることは山積み。ハンゾーを支援するために、オルレアナ・マーセイユ・ド・リューセック、身を粉にして働きますとも!


 夜のお楽しみが待っていると、政務にも熱が入るというものですからね!


お待たせしました。

次回、枢機卿がざまぁされます。

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※告知

連載再スタートのお知らせ


いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

ここまで読んで頂いた『ニンジャ無双』ですが、
・タイトル
・あらすじ
・第一話
これらにどうも違和感があって、書き直すことにしました。

今後は変更タイトル『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』として、4月27日より連載を再スタートさせます。
『ニンジャ無双』の15話目以降は、そちらの連載の15話目としてアップします。 連載の中止ではありませんので、ご安心ください。

引き続き『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』の方をブックマークして頂ければ幸いです。

※感想、評価、レビューなど頂けますと、小躍りして喜びます。よろしくお願い致しますm(_ _)m
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