表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

第十一話 忍者、危機を未然に防ぐ

 パリーズの都に到着した。


「大きいな」


 思わず俺は口笛を吹く。


 この世界の文明レベルからすれば、こいつはとびきりだ。


 城壁に囲まれた白亜の城と、さらにその城を何重にも取り囲む、石とレンガの街並み。


 はるか遠方、十キロ離れていてもその偉容が目に付く。


「そりゃ大きいですとも」


 馬車の窓から都を眺めながら、フリージアは自慢げだ。


「およそ百万の民が暮らす、ユーロプ大陸の中心です。あらゆる芸術、あらゆる商いがこの都に集まる――パリーズが存在しなければ、この世界は立ちゆきません」


「なるほどな。和風と洋風の違いはあるが、昔の江戸もきっとこんな感じだったんだろう」


「エド……とは? ハンゾーの生まれ故郷ですか?」


「そんなようなもんだ」


 期待に胸が高まる。


 こういう大都市でこそ、忍者は水を得た魚になれる。


 果たしてこの都で、何が待ち受けているのか。


 はやる気持ちを抑えつつ、馬車は関所をくぐる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「段取りが要ります」


 とフリージアは言う。


「あなたをいきなり国王や宰相に引き合わせるわけにはいきません」


「ふむ」


「もちろん、わたしを信頼してくれてる人たちが王宮にはいます。彼らがある程度の根回しはしてくれていますが、それでも必要な段取りはわたし自身でやる必要があるでしょう」


 道理だ。


 俺だって、異世界から来た男がこれから世界を救うと言われたら眉唾になる。


 むしろフリージアが言い出さなければ、俺から言い出していただろう。


 確実な見通しを立てるのを忍者は好む。


 逆に、労力を惜しんで足踏みするのを忍者はもっとも嫌う。


「そういうことなら俺は、パリーズの街を歩いてくる」


「情報収集のために?」


「当然」


 あとで合流する手はずにして、フリージアと別れた。


 ちなみに先立つものがなかったので、また金貨二十枚を借りておいた。


「また二十枚も!? あのですねハンゾー、街を歩いて情報を集めるのに、普通は金貨二十枚もいらないのですよ? 確かにこの間はきっちり耳をそろえて返してもらいましたが、それにしたって――あっ、こら待ちなさい! 話はまだ終わっていませんよ!?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 見知らぬ街並みを歩く。


 あらかじめパリーズの都の地理は頭に叩き込んである。さして不自由はない。 


 壮麗な教会。


 贅を尽くした商館。


 わき水を利用した公園。


 宝石や絹織物をあつかう露店。


(いい都だ)


 元の世界にこの街があれば、さぞかし人気の観光地になっていただろう。


 元の世界と似てはいるが、微妙に異なる様式の建築。


 元の世界ではお目に掛かれない、エルフやドワーフやホビットなどの人種。


 屋台で買い食いしながら歩く。


 剣牙猪の串焼き。

 筋と脂身の多い肉をミンチ状にして、炭で炙る。味付けは削った岩塩。薬味にショウガとマスタードを足したような味のする、オルソスの実。ひたすら美味い。


 鉄砲イワシのサンドイッチ。

 三枚に下ろした魚の刺身を、焼きたてのパンに豪快にはさむ。味付けは鉄砲イワシの魚醤のみ。ただただ美味い。


 雪芭蕉の葉っぱで作った杯にエールを注いで、飲み歩く。


 デザートは緑桃の砂糖煮を、餅に包んで蒸したもの。むやみに美味い。


 川港を歩く。


 丘の上の旧市街を歩く。


 娼館や大衆酒場もたくさんあるが、今は遠慮した。

 情報収集も大事だが、他にに優先するべきことがあるのだ。


 なぜなら俺には予感がある。


『やつら』がフリージアの説明した通りの存在だとすれば、おそらく――


 ……。


 …………。


 ………………。


 日が暮れてきた。


 街灯に明かりがつく。


 明かり守りの精霊術士が、あちこちの辻に立つ灯籠に光の精霊を置いていくのだ。


 薄闇の中、フードを被った明かり守りが闇を払っていく様は、それだけで絵になる。


 都の真ん中を走るゾンヌ川の川岸。


 海エンドウのフライをかじりながら、俺は左右に視線を走らせる。あくまでもおのぼりさんを装いながら。


 ま、確率は決して高くない。


 当たればもうけもの、ぐらいのつもりではいる。人口百万の都市で、そう簡単に出くわせるとは思ってな――


(……!)


 いた。


 往来をゆく、様々な人種の人混み。


 その中に、俺でしか察知できない違和感を放つ人物が紛れている。


(ツイてるな)


 ほくそ笑む。 


 元の世界では冴えない人生だったが。


 実は俺、持ってる男なのかもしれん。


 立ち上がって後をつけた。


 尾行も気配遮断も忍者の得意技。はやる気持ちをおさえ、その人物のあとをついていく。


橋を渡り、辻を曲がり、露店を抜けて。


 そいつは薄暗い下町へと向かっていく。


 ひとけのない路地に入ったところで、俺はそいつに声をかけた。


「あんた。ちょっといいかい」


 そいつはぴたりと足を止める。


「……私に何かご用で?」


 三十歳半ばの男。


 パリーズの都で一稼ぎしにきた行商人、という風情に見えるが。


「あんたヒトじゃないな」


 俺は指摘する。


「なるほどフリージアの言ってたとおりだ。見ればわかる。うまく化けるもんだ。普通じゃまずわからない」


「はあ? いきなり声を掛けておいて、いったい何を……」


「『やつら』がどういう存在なのかはハッキリしないが、ヒトの世界を浸食してることはまちがいない。それも戦争によらず、もっと密やかな形で」


 俺はそいつに近づく。


 男の背後は壁。このせまい路地じゃ逃げ場はない。


「ということは、斥候なり先遣隊がパリーズに潜伏していてもおかしくない……と踏んでいたんだが。勘が当たったな」


「……何を言ってるのかわからない。俺はただの行商人だ」


「いいさ、場所を移してゆっくり話を聞こう。れっきとした行商人なら、商人ギルドから証明書も持たされているはずだしな」


「今は持っていない。宿に置いてきた」


「だったら宿までついていこう。先に言っておくが、俺の雇い主はこの国の王族だ。言い逃れはできないし、逃げ隠れしても無駄だぞ?」


「――た、助けてくれ! 誰か!」


 そいつは悲鳴をあげた。


 俺にではない。明るい大通りに向けて。


「人殺しだ! 頭のいかれた男に襲われている! 誰でもいい、誰か衛兵を呼んで――」


 踏み込んだ。


 数メートル程度の距離は、俺にとってゼロに等しい。


 瞬きするよりも早く間合いを詰める。


 なおも助けを呼ぼうとしているそいつのみぞおちに、一閃。


「――おや」


 手応えがない。


 並の人間ならこの一発で失神しているところだが。


「おっと」


 びゅん!


 行商人風の男の反撃。


 隠し持っていたナイフ。余裕でかわす。


 かわしながらナイフを奪う。


 奪いながら腕を取り、背後に回り、そのまま石畳に引き倒す。


 勝負あり――かと思ったのだが、


「む!?」


 ごきり。


 関節の外れる音。


 もう一本隠し持っていたナイフ。びゅん! 目の前をかすめていく鋼鉄の光。


 一瞬の隙。


 脱兎のごとく駆け出す行商人風の男。


 間接を何カ所も外して、俺の縛めを抜けた。


 俺は理解する。こいつらは死を恐れていない。というより死を恐れるという概念がない。痛みを感じているかどうかも怪しい。


 こういう相手には、話し合いや交渉はもちろん、拷問も無意味。


(やむを得ないな)


 俺は疾風のごとく、翔んだ。


 逃げ出す男の背後へ。


 金剛の術を纏わせた手刀を振る。


 首が飛ぶ。


 動脈から噴き出す返り血を避けるべく、俺は一歩下がろうとして――


「おう……!」


 驚いた。


 噴き出る血液が、噴き出るそばから霞のごとく消えていく。


 血液だけじゃない。胴体から離れた首が、首を失った胴体が、黒い霧状のものになって、そのまま空気中に消えていくのだ。あとかたもなく。


「なるほどな」


 ひとり納得した。


 これが俺の『敵』か。


 確かにこいつは人間じゃない。


「さてどうするか」


 ”仕事”を終え、あごを撫でて考える。


 目的は十分に達した。『やつら』と直に接して感触を得た。下っ端をしらみつぶしにしても意味はない。フリージアは王宮であくせく走り回っている。


 ふところには金貨二十枚。


「……遊ぶか」


 酒場、娼館、その他もろもろ。


 行きたいところはたくさんある。異世界観光は、そのまま俺にとって仕事にもなる。


「今夜はどこで飲もうかな、っと」


 路地を後にする。


 人知れず世界を救い、俺は夜の街に消えていく――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


※告知

連載再スタートのお知らせ


いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

ここまで読んで頂いた『ニンジャ無双』ですが、
・タイトル
・あらすじ
・第一話
これらにどうも違和感があって、書き直すことにしました。

今後は変更タイトル『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』として、4月27日より連載を再スタートさせます。
『ニンジャ無双』の15話目以降は、そちらの連載の15話目としてアップします。 連載の中止ではありませんので、ご安心ください。

引き続き『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』の方をブックマークして頂ければ幸いです。

※感想、評価、レビューなど頂けますと、小躍りして喜びます。よろしくお願い致しますm(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ