表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

第十話 忍者、古代語を速読する

 翌朝。

 

 モウリンズの街を出て、パリーズの都を再び目指す馬車の中。


 フリージアの機嫌は最高に悪かった。


「別に遊ぶなと言ってるわけじゃありません」


 眉毛をきりりと吊り上げて、彼女は言う。


「片っ端から酒と料理をおごりまくる。娼婦を五人も十人も買い上げる。あげくに金貨を一晩で使い切る――」


 しかめ面で腕を組む。

 組んだ足をせわしなく揺らす。


「お酒を過ごすのもいいでしょう。たまにはお酒に溺れたい日もあるでしょうから。娼婦と臥所を共にするのも構いません。男の人はそういうものだと知ってますから」


 俺は話を聞き流しながら本を読んでいる。

 この世界の歴史をつづった、代表的な著作だそうだ。

 本は情報の宝庫。読める時に読むに限る。


「ですが! そのふたつを同時に! しかも返してくれたとはいえ他人のお金で! おかしいとは思いませんか!」


「仕事はしているぞ」


 ページをめくりながら俺は返す。


「昨日一晩で仕入れてきた情報は、あんたにとっても価値のあるもののはずだ。俺もこの世界をより深く知ることができた。何も問題はない」


「はん! ええそうでしょうよ、さぞかしこちらの世界の女性を深く知ることができたでしょうよ!」


「フリージア」


「何です!」


「妬いてるのか?」


「妬いてません!」


「いま俺たちがやってるこれ、まるで痴話げんかみたいだな?」


「だ・れ・が! あなたなんかと!」


「じゃあこの話はこれで終わりだ。前向きな話をしよう」


 本のページをさらにめくりながら俺は言う。


「パリーズの都まであと数日。お小言を言ってる暇も、聞いてる暇もないはずだ」


「それはそうですが……ぶつぶつ……」


「まずは情報を整理する。こんな感じで合ってるか?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



・『やつら』は東方地域に勢力を張っている。西方諸国には、まだその魔手は届いていない


・傭兵という職業柄、各国の情勢に強いザークゼンに聞いた話を総合すると、確かに東方地域の様子が近ごろおかしいとのこと


・ただし『やつら』の存在はまだ一般には知られていない。これは確定


・『やつら』の存在が一般に知られ、混乱を招く前にひそかに対処するのが理想


・『やつら』の存在を知っているのは、西方連盟に加入している諸国の上層部のみ


・パリーズの都を本拠とするバーセイル王国は、西方連盟の主要国で、率先して『やつら』に対処する責任を負っている。ただし表沙汰にならぬよう取りはからう必要がある


・以上の理由から、少数精鋭の勇者を編成し、ひそかに事を成すのが望まれる



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あくまで人知れず任務を果たせ、ということだな。世界を救った名誉は人々に知られることなく、英雄の業績は闇に葬られる――」


「……ですが、その分の見返りは用意します」


「もちろんだとも。あんたの身体で払ってもらう約束だからな」


「むぐっ……そ、その件なのですが、もう少し交渉の余地は……」


「さて。情報の整理を続けるぞ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



・バーセイル王国の国王は、ジャルマーン三世。人柄は良いが凡庸。世界の危機を乗り切る力量はない


・国王に代わって実権を握るのは、宰相のオルレアナ。ジャルマーン三世の従兄妹で、才媛との評判


・フリージアは、ジャルマーン三世の妾の子。その生まれゆえ、幼いころ精霊教会に預けられ、そこで育てられた


・フリージアは百年に一人の天才と呼ばれ、若くして精霊騎士として大成。その力を見込まれて王宮に呼び戻されたが、枢機卿たちを始めとする貴族階級からの受けは悪い


・そのかわり庶民からの受けはいい


・ジャルマーン三世はフリージアに甘い


・オルレアナ宰相とフリージアの関係は微妙


・精霊教会にいた時代、フリージアはあまたの男から求婚を受けたが、すべて断った


・市井の絵描きが想像で描いたフリージアの肖像画は、飛ぶように売れる


・好きな食べ物は火竜苺のケーキ


・好きな下着の色は黒



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……な、なぜそこまで知ってるの?」


「忍者だからな。情報の収集と分析は得意なんだ」


「……時々思うのですが、ニンジャだと言っておけば何でも済むと思ってませんか、あなた?」


「とにかく、以上のことから俺たちがまずやるべきこと。それは宰相のオルレアナと、彼女を支持する枢機卿たちを納得させることだ。そうしないと動くに動けない」


「ええ、それはその通りですね。国王陛下はわたしを支持してくださいますが――」


「おそらくほとんどの人間にとって、『やつら』に対する危機感は薄い。遠く東の地域で起きていることだしな。フリージア、あんたもさぞかし手を焼いているだろう」


「……あなたの言う危機感を持っているのは、精霊教会の上位者と、わが国ではせいぜいオルレアナ宰相ぐらいのものです。確かに現状では対岸の火事ですから」


「火の粉が飛んでくる前にどうにかするさ――とにかく今は環境を整えたい。情報もまだまだ足りないが、救うべき相手に足をすくわれるのは論外だからな」


「早馬を飛ばして、こちらの事情はパリーズの都に伝えてあります。あなたの支援は可能な限りさせていただきます」


「期待しよう」


 そう言って俺は本を閉じる。


「いい本だった。次のを頼む」


「え? 読み終わったのですか? その本を? わたしと話ながら?」


「こちらの世界の歴史と成り立ちに関する、重厚な書だった。少しばかり著者の主観に寄りすぎるきらいはあったが、勉強になったよ」


「それ、古代マヌエル語で書かれている部分もある本なのですが……なぜそんなにすらすら読めるの……?」


「忍者だからな」


 ま、これに関しては神様のギフトだけどな。


「ハンゾーは本当に底が知れませんね……その力でどうか、この世界を救ってください」


「あんたの心がけ次第だな。言っておくが、俺は必ず貸したものは取り立てるぞ?」


「あううう……」


 たちまちしおれるフリージア。


 その姿を横目に、俺は新しい本のページをめくるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


※告知

連載再スタートのお知らせ


いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

ここまで読んで頂いた『ニンジャ無双』ですが、
・タイトル
・あらすじ
・第一話
これらにどうも違和感があって、書き直すことにしました。

今後は変更タイトル『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』として、4月27日より連載を再スタートさせます。
『ニンジャ無双』の15話目以降は、そちらの連載の15話目としてアップします。 連載の中止ではありませんので、ご安心ください。

引き続き『外れスキルでおっさん無双 ~異世界で妄想を実現したら、人生あっさり大逆転~』の方をブックマークして頂ければ幸いです。

※感想、評価、レビューなど頂けますと、小躍りして喜びます。よろしくお願い致しますm(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ