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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
98/127

ろ組の特訓 15






7組、


対するは…



「さあて、どこからでもかかってきんさい」




青葉が誇る名高い妖怪ハンター、


ラスボス、

川上・アリーシア・晶!!!




白衣とズボンを捲り、


ステップを小刻みに踏んで

シャドーボクシングとスウェーを繰り返す。



やって来た、

先ほどと

全く変わりばえしないレイドステージ、地下施設。


そして

ボス。


7組の皆は混乱を隠せないが、




「このトレーニングは勝ち負けでは無い、自分達がいかに先生と戦うかが大事なんだ。」


近田は気持ちを作って

皆に戦いを促す。


そして、

自らの愛刀、龍徹を腰に発現させて




抜く。


まあなんとも長い剣と、

皆の目を否応なく目を惹いていく。


普通の太刀は大体2尺3寸ほど、

70〜100cmと言われているが、

その刀は150cmはある。




「丸腰に刀を向けるかね?」


川上が尋ねるが、


「問答無用…!!」




構わず、

突っ込む




近田は事前に7組のメンバー、


北郷、甲島、国母、杉高に話していた。




「策などないよ。」


と。



間合いに入ると、

斜めからの

袈裟斬り。


振り下ろし、

そのまますくい上げて踏み込む。




この二段斬り、


容易く躱される。





だがそのまま手首をひねり、


一点の喉元を狙った突き。




「…ぐ、ぐぐ。」


雑巾を握るような、

柄を持った近田の手甲に血管が浮き出て

力が込められる。




「凄い力だねえ」


川上はその突きを軽く跳ねて躱して、

その刀の背に、

ちょこんと乗って見せた。


刀はこうべを垂れる事なく、

一文字に伸びたまま。




ならば、と


刀を返して

刃の向きを変えるが、


そんなのは川上もしっかり見ていて


また跳び、

今度は横へ側転の宙返りで間合いを脱出する。




「…ふ、先生、これはまともな勝負になりますかね?」




痛感する、

戦闘力の差。


交わる事さえ禁じられたような感覚。




「そりゃ、おめー次第だろ」


また構えて、

ちょんちょんと小刻みに揺れる川上。


今度は両拳を浅く握り、

手骨の隆起を近田に向けて揃えた。




今度は至近で向き合う両者、


先ほどまで真剣な表情だったが、

近田は堪らずに笑む。





「…これはトレーニングで、この先生は、プログラムのはずだろうに、」


「なのに、こうまで先生を再現されているとは、」


「不思議で、愉しい。」





近田は何度も

川上と手合わせをした事があり、


その時の川上のまま、

今目の前にいる川上が、そのままなのだ。





しかし、


「…先生、これは稽古ではありません。」


「真剣勝負、なので、」


「妖力を使います…!!」




近田から吹き上がる妖力の熱波。


体内に留めておけないほどの

妖力量の多さを

溢れて立ち上る黄緑色の妖力が物語る。




ここで、

近田の戦いを見ていた北郷が皆に呟く。


「近田さんの業は初めて見る。」


すると、

ほかの3人もそれに同調。


それを聞いて再び北郷、



「近田さんは今まで本気なんか出しとらんかったっちゅう事ですか。」




ケイト達と暴れた時も力をセーブしていたのか?


いや、

それは違う。




稽古の時に真剣を使うか?


理由は単純、

相手に怪我をさせたくないだけの話。


近田は何事にも手を抜くようなタイプではない。




「千変万化…!!」


溢れ出ていた自分の妖力をここで引き締め、

刀に集中させる。


その刀は黄緑色に輝き、

共鳴し、振動する。


「…先生、斬りますよ…?」



準備は整った。


剣先をやや左に垂らし、

相手の正中線を敢えてずらす構え。



そして

すぐ間合いに踏み込み、


龍爪(りゅうそう)!!」



真上に思い切り斬り払う。


しかし、

その三日月のような軌道をすり抜けて、


「よっ、と。」


更に奥の懐へ滑り込む川上。



そして、


「あやとりやろうか…お前の指で。」


柄を握りしめる近田の指に

自分の指を絡ませ、


「…んぐ!!!」


折る。




たまらず近田は後退するが、

ぴったりくっつき、

その指を離さない川上。


「逃がさねえよ」


人差し指を折ったが、

更にもう一関節折って、


刀をくぐって頭突き。


頭突き、頭突き。



「っしゃあおらぁ!!!」


「ごはっ!!」



鼻血が吹き出て

鼻骨が顔にめり込む。



これは堪らない、

逃げ場がない、


体制も立て直せない。




…ならば!!



掴まれていない右手を刀から離して、


懐の短刀を抜き、



「おおっ!」


川上が驚く。


近田は

掴まれた指を切断!!



それにより、

川上の呪縛から解き放たれた所を、



「…龍爪下(りゅうそうげ)!!」



龍爪で上がった龍徹を

右手一本で振り下ろす。



それを読んで川上は近田の指と共に

後方へステップしたが、



「かかった!!」


北郷は見た。


それに続けて杉高も、


「ああ、だが浅い!」




剣先が少しだけ川上の胸をかすめたようだ。




「おお、あぶねえあぶねえ。」


白衣の中のTシャツの片胸が少し破れて

血が滲む。




「…ちぃ、惜しい。」


青い顔をして笑う近田。


そして、

指から大量に出血。

床を雫が赤く染めている。


指を捨てなければ、

このあとどうなっていたことか…

想像するだけで近田の背筋が寒くなる。




「逃がさねえよ」


あれが川上の闇、

そこに少しだけ触れた。

その代償が、この指。





ここで

離れて見ている国母が皆に聞く、


「近田さん、指切る必要無くね?」


指を切るくらいなら

川上の指を切れば良かったのでは?と。



その問いに

北郷が答えた。


「至極単純な話、川上先生は妖力を身体に纏っとるっちゅう話。」


「妖力には妖力のダメージば与えんと、相手には通りもはん。」



短刀を跳ね返されて

尚且つ

川上の闇からも逃れられず。



このパターンが一番最悪。

そこを強引な方法で避けた。

もう少し長考すれば打開策が閃いたかもしれない。

だが、

近田にあの時そんな猶予は全くなかった。






川上はまたトントンと小さく足を刻んで、


今度は待たずに仕掛ける。




「あちょー!!」


飛び蹴り!


そこに合わせて、

近田も刀を振るうが、


ひらっ

宙で身体を捩り、


奥の逆足で回し蹴り。


薙ぎ払うような蹴りではなく、

貯めて

一点を狙うような鋭い点脚。


それを

顔振りで躱すが、



「そう、人間ってここは躱すんだよ。」


「だから、殺られる。」



かわされた蹴りは

首に巻きついて、

そのまま近田を後ろへ倒し、

川上は前転する。


振り上がり、

川上のそばに来る右腕、


だが川上は

わざわざ自分から遠い、

剣から離れた左腕を取った。




それはまるで

首、肩、腕の関節が

三角形を描くような形、


「ほーら三角絞めじゃい」


関節技ががっちり極まってしまう。



そして躊躇わず、

全力で締め上げる。


もたもたしていたら逆手の刀で

こちらが斬られてしまう。



「ぐっ、はっ!!!」



足を巧みに曲げて、

頸動脈を締め、

尚且つ同時に肩と二の腕の関節まで破壊にかかる。


近田の首回りで

数字の4のような形を脚で作った。




「本当に、川上先生は戦いの教科書みたいな人ぞ。」


杉高が

川上の強さに今一度、感心させられ、

言葉を放つ。



「理想はあっこで刀を持つ右腕を取りたかった。だが、その右は罠、近田は敢えて右を差し出していた。」


「だがそれに気づいた川上先生は右ではなく左を取った。右だったら今頃短刀で刺されていただろうに。」




誘い水すら読み切る。

だがそれはリスクを覚悟しての話。


当然、

迫る近田の刀、龍徹。




すると

川上は近田の身体で泳いで

体勢を180度回転させ、


その遠心力を利用し、

寝転がったまま横っ飛び。




龍爪のデタラメな太刀を回避し、

近田から少し距離を置いたところで


ブレイクダンスのウィンドミルよろしく、

腰を支点に

両足を風車のように回転させ立ち上がってみせた。



「ックソ、あと少しで三箇所のどれか破壊できたのに!!」




川上に遅れて

近田、立ち上がる。


すぐさま固まった首と肩の筋肉を柔軟。

ぐるりと回して、

コリを取る。



そして改めて痛感する、

川上の

行動1つ1つが油断ならない、と。




それを見て北郷、


「こんままだと、近田さんが参ってしまいもす。わいらも助太刀せんと。」


北郷も刀を抜く、


いや、

刀ではない、


軍刀?

西洋剣の、サーベルのような。




大きい図体に似合わぬ、

か細い、

女性のような剣、名を 奉国(ほうこく) と言う。




そして突っ込む!!


「近田さん!格好つけすぎでごわす!!」


近田に近づけさせないと、

素早く突きを連打し、

川上をそこから遠ざける。




そこに続けと

杉高も


「さぁて、唄うか…(かさね)。」


目貫も何もない

これまた長い刀を抜く。



そして

飛翔!




「…川上ぃいいい!!!」


北郷を飛び越えて、

思い切り振りかぶって兜割。


受けることに対し、

不気味さを感じた川上、


避ける。




杉高、

着地してすぐ、


デタラメに襲を振りまくる。


「俺はぁ!テメェが大嫌ぇだぁああ!!!」




右に左に、

縦に横に、


いや、デタラメではない?


デタラメに見えて、

急所を的確に突いてくる。


デタラメならば、

返す事も容易いが、

カウンターを狙うには

剣筋があまりに鋭く、サスペンスだ。



ならば回避に集中、


目をぎょろぎょろ動かして、

寸前で

杉高の攻撃を躱していく。



それもまた闇、

その行動、

吸い込まれそうな、闇。



このまま剣を出し続ければ

逆に

手痛い目に遭いそうな…嫌な予感。



剣を止め、

杉高は大きく飛んで後ろへ下がった。




「本当に気持ちの悪ィ奴っちゃのう。」


少しかいた額の温い汗を

拭い、

離れた川上を睨む。





すると川上、

舌を出し、

腰を曲げて片足をふわりと浮かせる。


そして、


「てへぺろりーな★」




気持ち悪い、と言う言葉は


川上の戦いにおいて、

褒め言葉だった。






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