ろ組の特訓 7
地下施設、
神くんは他の組の皆に質問をして回っていた。
「うちら2組は細い男の人だったでぇす。」
「あんなに刀の腕が立つ奴は初めてだった。」
「名前はヌエとかって…」
「鵺、言わずと知れた大妖怪ですね。人間の形をしていましたが、有名なのは雷を操る獣の姿…それすら見ることもできずに敗北してしまいました。」
相良、沖野、榎田、山東が
それぞれ口をそろえた。
二の腕を抱え、
もう片方の手で顎を持ち、
感慨深く話を聞く神くん。
それを見て山東が、
「神くん、話を聞いて回って攻略の材料を集めるのは感心しますが、我らの話はあまり参考にならないのでは?」
そう、神くんの相手はダイダラボッチ。
しかし、
顔を振って、
「それはどうかな…?」
「同じボスと戦える保証なんてどこにも無いと思うんです。」
「次に挑戦した時、違うボスだったら…?」
それは誰も考えていなかった。
山東は頭が切れると言われているが、
今の神くんの言葉に
衝撃を受けた。
「仮に、同じボスだったとして、倒した時、次の新たなボスも倒せるようになったら、それこそ特訓の成果がフルに出ると思うんです。」
「ただ闇雲に同じ敵を想定することも大事ですが、」
「これがもし実戦だったら…?そんな幸運な事って無いと思います。」
と言って
神くんは3組へ同じ質問をしにいった。
「神、衛花…誰よりも悔しかったんだろう、そして、誰よりも、本気だ。」
山東は神くんの姿勢に感服したのと同時に、
己の考えの甘さを鋭く抉り出された気分に、
更には、
神くんの底知れぬ力に恐怖する。
「すみません…3組の皆さんは、どんなボスと戦ったのでしょうか?はは。」
5組、
未だ、天狗と向き合う4人。
「…今なんと言った?」
坂本は穏やかで気さくな人柄で、
クラスの誰からも愛される人物、
その坂本が、
額に血管を浮かべ、
目つきを鋭く尖らせて
天狗を睨む。
《聞コエナカッタカ?4人デ来テモ構ワナイガ、ソレダトスグニ終ワッテシマッテ詰マラナイ。》
《ダカラ、1人ズツ来イト言ッタ。サシデヤロウ。》
天狗の丸太のような二の腕が
絡まって腕組み。
余裕の波動を解き放つ。
そして
坂本は土倉に問う、
「あれは敬意か!?答えろ!」
土倉は腕を組み、
目を閉じていたが、
開けて、
天狗を見据える。
「あれは…侮辱だ。」
坂本、突貫!!
土倉の答えが口火を切った!
「テングになってんじゃねぇぞォ!!!!」
坂本の得物は黒塗りの鞘に収まった刀、
抜刀!
横一閃!!
しかし、
空だけを斬って
天狗、舞い上がり下駄を履く右脚を振り回した。
だが、
「見えてるわ!バカが!!」
抜いた刀の柄がカシンと折れて、
坂本の手元で引き金が飛び出る!
天狗の視力が
それを捉えた時、
既に遅し。
鍔元で火薬が弾けて
坂本と天狗の顔が光る!
刀身が真っ直ぐ射出した!
不意を突かれた天狗、
しかし
手刀が間に合って
その刀身を横へ弾き飛ばす!
《不意ヲ突カレタ!ダガ、甘イワ!!》
だが、
「甘いのはどっちだ…?」
土倉が天狗と同じ高さを飛んでいて、
天狗の背後に並んでいた。
土倉も抜刀!!
激しい金切り音!
《甘イ甘イ甘イィ!!!!》
天狗は自らの2枚翼で
その刀を受け止める
しかし、ここで諦めてはダメだ。
駄目押しはここなのだ、
その意識は4人に確かにあって、
残りの原、千葉にもその意思は伝導していた。
1対1なんて勝手に決めたルール、
納得したつもりはない!!!
原は杖、
妖術を操る!
「りく!!」
「はいさ!!」
千葉も天狗へ向かって
刀、それも二刀を抜いてクロスして飛ぶ!!
そしてその背中に
妖力で作った桜色の球を原が撃ち込む!!
そこに気を取られている天狗を尻目に、
坂本はまた鞘に刀身の無い刀を戻し、
リロード、
また抜いた時には刀身が復活した刀となった。
原の妖力を喰らった千葉、
だがそれは攻撃やフレンドリファイアではなく、
「力がみなぎるぅ!!!!」
ステータスアップの補助妖術!
攻撃力を倍にした!
そして
バッテンに斬りはらうが、
《HAHAHA!!愉快ジャHAHAHA!!!》
今度は下駄2枚で
千葉の一撃を受け止める
そして天狗、
翼を使って大きく空へ舞い上がって
体勢を立て直した。
着地する土倉と千葉、
千葉の体から桜色の湯気が上がり、
補助の効果が切れたことを示す。
「くそぉ!あの鼻長野郎!!」
「千葉、今のは良かったぞ。次も頼む。」
土倉が千葉をねぎらう。
そして4人はまた集まり、
天上の天狗を睨んだ。
「あんの赤肉ダルマ、意外とすばしっこいのー。」
坂本の悪態に、
土倉が反応する。
「文献で読んだ、天狗はスピードタイプで売っている奴だ、それ故の筋肉だろう。」
すると
千葉が天狗を指差す!
「あ!なんか葉っぱ!葉っぱ持ってる!!」
もちろん皆、
視線を天狗へ。
天狗は大いに笑って、
《ハァアアアアアァ!!!》
葉っぱを持つ右腕を振り上げて叫ぶ
《DIE!!SENG!!PUU!!!!》(大旋風)
思い切り扇がれたその葉っぱのうちわから、
吹き荒ぶ猛烈な突風!
「避けろ!!!」
土倉の叫び、
だがそれで反応しているようでは
回避することは不可能だろう。
もちろん坂本は
相手の技が分からんうちに喰らってしまうとまずい、
なんて戦いの勘みたいなものが働いて、
とっくに回避していたが、
原と千葉はモロに直撃してしまう。
ただ
吹き飛ばされたりするだけならまだいいが、
この大旋風は、
「えっ」
相手を斬り刻む、
かまいたちのような疾風で、
斬り離された肉塊がいくつも、
ぼとぼとと音を立ててその場で崩れる。
【千葉 陸 ゲームオーバー】
アナウンス、
そして、
助かった原。
「りくちゃん…!!!」
千葉は庇ったのだ。
大旋風から原を。
《アト、三人カ。》
原は震えた。
腕を抱き、
膝から崩れ落ちる。
千葉が咄嗟に原の前に立ち、
立ち、手を広げた。
千葉は大旋風吹き荒れ、
全身をちぎり飛ばすまでの刹那に
確信したのだ、
坂本も土倉も、天狗を倒すためには必要、
だが一番必要なのは、原。
原のステータスアップ補助妖術。
先ほど自分が
原の妖術を受けてわかった。
あの妖術は人を何倍にも高める。
ならば、
ただの消去法、
それができたのは自分だけだった。
ならば、
犠牲になる事を厭わない。
「りくちゃああああん!!!!!」
原は両手を広げて、
掌底をそれぞれ勢いよくぶつけて合わせ
叫ぶ!!
「昇竜天華!!!」
その両手のひらから放たれた妖気の光弾が
凄まじい速さで動き
すぐそばにいた
土倉と坂本の背中にぶち当たって弾けた!
「私は…私は、戦闘能力なんて無いし、悔しいけどりくちゃんの仇は打てない。」
「だから、託す!2人に!!」
原の妖術を受けた坂本と土倉の身体に
異変が起き始める。
こう、
言葉にするならば、
身体中の穴という穴から
エネルギーが満ち溢れ、
妖力やスタミナ、パワー?
そんなもの全てがみなぎってくるような、
「すげぇ楽しい!!」
坂本が言う、そんな感覚
そう、
楽しいのだ。
滅多に笑わない土倉ですら
笑みが止まらない
「こ、これは、」
「どんな奴にでも勝てそうな、そんな気分だ」
「楽しい…!!」
そんな中、
原は
両手を構えたまま倒れて、
「…もう、動けない。」
全ての妖力を
2人に託した。
そして、
背中を合わせ
天狗を見据える両雄。
「行くぞぉお虎三狼!!」
「当たり前だ!!」
2人の妖力は
身体の許容範囲を超えて
外へ漏れ出して漂っていた、
若干の桜色を交えて。




