ろ組の特訓 3
レイドトレーニング開始!
1組、2組、3組が
同時に重い重いレイドの扉を開いた。
すると
まるで吸い込まれるように
消える3組、12人。
その背中を見つめ、
近田が叫ぶ!
「よし!4、5、6、7組!準備しろ!」
この言葉に笑う者、
怖がる者、
それとは別に違う感情の者が、
身構える。
次に、備える。
【レイドトレーニング ルール】
【1.プレイヤーはレイドルームにて設定されたボスを倒すのが目的。】
【2.ボスを倒せばクリア。】
【3.プレイヤーが全滅するとゲームオーバーとなり、強制退室となる。】
【4.レイドルームに1人でもプレイヤーが残っていればレイドは続行される。】
【5.制限時間は30分。以内に撃破でクリア、過ぎるとゲームオーバー、強制退室となる。】
1組、
神くんの組は、
深い森の空間に飛ばされていた。
「すごい…すごく、リアルだ。」
立ち尽くす神くん、
この場所は…
風で揺れる木々や葉のさざめき、
触感、
匂い、
どれを取っても本物だ。
「これが仮想空間だなんて…信じられない。」
踏みしめる腐葉土、
太陽光、
森林の気持ちいいイオン、
ただ一つ欠落しているもの、
「だが、生き物が僕らしかいないような…」
鳥や小動物などの気配がまるで感じられない。
「ボンクラ!何ボケっとしてんの!」
「もうレベル10の世界に入ってんだよ!」
キッコとナッコの檄が飛ぶ
もうすでに皆は
得物を出して身構えている。
神くんも遅れて
酒呑童子の刀、刄沙羅を現し、構える!
そして全神経を集中させ、
待ち受ける大ボスに備える。
だが、
見つからない、
「え、どこ…」
「わかんない…やばくない…?」
キッコが鎖鎌を構え、
ナッコはコケシの術をいつでも放てるように
気を張り詰めるが、
気配はまるでない。
林は大振りの青龍刀のような刀を腰に据え、
すり足で周囲を確認、
それに呼応して
その反対側を神くんが確認する。
陣形はキッコとナッコを中心に、
外側を神くんと林が見回す形。
しかし、
制限時間があるのに、
ボスがなかなか見つからないという現状、
募る焦り、
削れていく時間、
「長期戦になったら不利だ!何やってる!早く見つけろ!!」
林が大きく叫ぶ
その瞬間、地面が大きく縦に割れて
「!!!???」
そこに林が吸い込まれ、
その地割れが
低く、沈む大きな音と共に閉ざされた!
そして電子音のアナウンスが!
《林 行永、ゲームオーバー》
これは地下施設にも
同じくアナウンスされている。
ほんの数分で、1人がゲームオーバーとなったことを近田たちに知らせている。
戻って、
混乱する神、キッコ、ナッコ!
地面は危険、
ならば
飛んで
周りに群れる木々に避難する!!
しかしダメだ!
「がふっ…ぶっ…!」
血を吹くキッコ。
神とナッコの目に映るキッコ、
その胴を木が一本、
鋭く貫いていた。
飛び移る瞬間、
急激に伸びたのだ、
意思を持っているかのように。
「…キッコぉ!!!!」
取り乱すナッコ、
神くんは戦慄し、声が出ない!
だが、神くんにはそれが良かった!
また木が伸び、
ナッコに迫る!
が、
ナッコお得意のコケシを使った秘術で対応、
木の根元、
地中から人間くらいのコケシを生やして
その成長の勢いを利用し
根っこごと持ち上げて木の軌道をズラした。
そしてそのまま
大きくコケシを伸ばして
神にそこへ掴まるように指示するナッコ
どんどん天まで伸びて、
魔の森を抜ける神くんとナッコ、
「…はあ、はあ、はあ」
2人は息を荒げ、
生還を噛みしめる。
かなりの高所なのにも関わらず、
恐怖心は一切無い、
生還、
ただその喜びだけ。
と、ここで
《桂菊子、ゲームオーバー》
冷たいアナウンスが、
貫かれたキッコの死を知らせる。
あと2人、
いや、
本来ならもう全滅していたかもしれない。
ナッコが状況を冷静に判断し、
あの森から離脱、
という選択肢を取らなければ、
何が何やらわからない状態で皆、ゲームオーバー。
一度、キッコとナッコと戦った時に感じた
あの脆さは全く無い、
そんなナッコの強さを
神くんは強く感じていた。
「…神!見て!」
そのナッコが
雲くらいまで到達した
長いコケシから
先ほどいた地上を指差す。
その方向を見て、
神くんは絶句する。
「そ、そんな、あの森は…なんだ…人か!!」
ずいぶん高いところまで来たコケシから見て、
見て分かった、
先ほどいた森は、
山は、
陸は、
まさに大きな人の形をしている。
ましてや
その巨人が起き上がり始めていることにも気づく。
巨人、
うつ伏せだったのだろう、
腕を突っ伏し、
激しい地鳴りを上げて立ち上がろうとしている
その瞬間、
背中であろう地面から生えている
ナッコのコケシが激しく揺れてしなる。
「落ちるぅううう!!!」
必死でコケシにしがみつく神くん、
ナッコは慣れたように
本人しかわからないような
コケシの掴み所をひっしと捕まえている。
【ステージ 森~ボス ダイダラボッチ~】
とうとう立ち上がり終わって、
大森林だった巨人の背中が
直角の崖となる。
しがみつくにも限界が…
ここでナッコはまた冷静に
コケシの横にまた新たなコケシを生やして
枝分かれさせる。
「伝って!地上に降りるよ!」
コケシを繋ぎ合わせて、
ゆるやかなアーチを作っていく。
それを伝って渡って行けば、
下層へ進めて
最終的に地上に降りられる算段だ。
《…ぶぅおおおおおおおおおおおお!!!!》
ここで
穴のような大口を開き、
岩のような歯を剥き、
巨人、ダイダラ咆哮す。
あまりの音量、
重低音、
背中に生えた木々、
葉々、
大地、
空気、
全てがその超音波で揺れてばたつく。
無論、
そのコケシも例外ではない、
「ぐうぅ…!!」
神くんとナッコが必死にコケシにしがみ、
耐える!!
ふと思う神、
「こんな…バカデカいバケモノ…どう倒せば…っ!!!」
この場を凌ぎ、
地上に降りて、
それからどうする?
こんなでたらめな相手と
どう戦えばいい?
虚無感、
圧倒的な、虚無感。
「何mくらいだろうね…」
手で日差しを遮り、
ナッコが頭上遥かを望む。
神くんも見上げる、
「何m…?そんなレベルなのかな…」
巨人の顔すらここから見えない。
スッ…
2人の視界が突然闇に包まれる
瞬間、
見上げる!
すると、
2人を覆い尽くす圧倒的巨大物、
足の裏だ!!!
地面が縦に揺れて、
地上の万物が落下の衝撃で浮く。
降ってきた足裏は
地面にめり込んで、
土石を舞い上げる!
神くんとナッコは地面に転がり、
草や泥だらけになりながらも、
その踏みつけを回避した。
「…デカイ奴ってトロいイメージあるけど…」
「この巨人は…速いですね…」
舞い上がった土石が降り注ぎ、
大粒の雨のように
2人を叩きつけた。
互いに顔を見合わせ、
やり過ごした後、
更に圧倒的な存在に絶望する。
しかし、
顔を振って気合を入れる!
「神!!あたしがコケちゃんで足場を組むから!あんたは登って思い切り叩っ斬ってやんな!!!」
もう開き直るしか無い、
自分で道を、
切り拓いて行くしか、無い
神くんはうなづいて、
刄沙羅を握りしめる。
ナッコはそれに笑顔で答えて、
何かを唱える!
すると、
6本のコケシが地面を突き破って生え、
ウネウネと、
成長過程を映した早送り映像のツクシのように
急激に曲がりくねりながら
成長していく。
神くんはそれに飛び移って
どんどん上へ登って行った。
ここで気づく、
コケシのコケちゃんたちは、
自らを自らで編み込んで
神くんの足場を形成していっている。
しかし、
登っても登っても、
巨人の頭は遠い。
到達までに時間がかかる。
しかも、
このコケちゃんの成長エネルギーは無限では無い。
「…はあ!はあ!はあ!!!」
未だかつて、
ここまで早く、
ここまでコケちゃんを伸ばしたことなど、
ナッコには一度もない。
自らの妖力を消費して成長させている、
その消耗は
計り知れない。
だが、
死んでも伸ばす、
死ぬなら何かして死ぬ、
ナッコはこれくらい、
とっくに覚悟していたのだ。
「はあ…ははは…はははは!!!!」
どんどん伸びるコケちゃん、
この調子ならもうすぐ届く!
もうすぐ、
致命傷に、届く!!!
《…ぶぅおおおぅ!!》
しかし、
コケシがどんどん自分の所まで届く事を
ダイダラボッチとて、
黙って見逃す訳がなかった。
横から猛スピードと猛遠心力で飛んできた、
ダイダラのつま先に
ナッコは捉えられ、
「えっ」
爆砕し、
血の煙となって生命を終える。
《山崎夏子、ゲームオーバー》
主人を失った
コケちゃん達に
猛烈なヒビ割れが入っていき、
主人同様、
木っ端微塵に崩れて弾ける。
「山崎さ……うわぁあああああ!!!!」
落下する神くん、
ここで
得意の人形代を何枚もダイダラボッチの体に投げつける!
連続する小爆発ごとに、
神くんの分身が次々と現れて
1人目の分身がダイダラボッチに掴まり、
2人目が1人目の手を掴み、
3人目、4人目…と数珠つなぎのように
手を繋いでいき、
6人目の神くんが本人と手を繋ぐことに成功、
何とかぶら下がることができて、
落下を逃れた。
それを1人目の神くんが手繰り寄せ、
何とか7人の神くんは
ダイダラボッチの腰元にようやく身を置くことができる。
「…こうなったら、とことんやってやる。」
右手に持った刄沙羅を思い切り
掴まっている壁に突き刺し、
ほかの神くんも同じく一斉に突き刺す。
「身体から離れなければ!そう簡単に反撃はされない!!」
引き抜いて、
また刺す!
しかし、
ダメージを与えているという手応えはまるでない。
ダイダラボッチからしたら
アリに噛まれたようなものなのだろうか?
「な、ならば!!」
刺して、
器用に手首を回転させて
刺したところを丸く、
思い切り抉る。
そして
引き抜くと、
抉られた肉塊がゴロンと重力に負けて落下した。
《うぶぉおおおおあああああああ!!!!》
叫ぶダイダラボッチ、
間違いない、効いている!!
同じく、
分身達も本人を真似る
抉られた、
ぽっかり空いた穴からは、
血ともまた違う、
粘力のある透明な液体が溢れ出した。
地味だが、
コツコツとダメージを与えていく
これが神くんの作戦、
しかし、
たまらないダイダラボッチは
腰元にいる小さな虫にとうとう意識をやって、
《うごぁあっ!!!!》
思い切り
旅客機のようなその平手でそこを叩く!
その時の衝撃、
凄まじい風圧で
吹き飛ばされそうになる神くん、
「あ、ああ、やられた…!!」
今の平手で2人やられた!
残るは5人、
このままここで攻撃していてはまずい、
上へ、
上へ登らなければ!
ロッククライミングのように、
神くんの
身体登りが始まる。




