ろ組の特訓 2
川上はまず、
レイドトレーニング用に生徒達を
4人1組に分けて行った。
「レイドトレーニング、まあわかってると思うが、あの仮想空間に入ってもらって、ターゲットとして用意してある妖怪を、どんな方法でも構わないので撃破してもらう。」
古いエレベーターのような、
重く大きな両扉の上に表示された階層、
それがレイドトレーニングの難易度を示すレベルとなっている。
「悠長なことは言ってられないんで、最大難易度、全員レベル10でやってもらう。」
ざわつく生徒たち。
何故か、
それはレイドトレーニングの難しさ、
厳しさを知っているから。
本来であれば
現状の自分のレベルに合わせて
難易度を選んでトレーニングをするのだ。
レベル10、
それは誰しもが踏破したことのない数字で、
どんな妖怪が現れるかもわからない。
「心置きなく死んでこい!ははは、レイドで死んでも帰ってくるだけだからな~。」
なんて
お気楽なことを川上は言うが、
死ぬにしても痛みも、苦しみも
現実と変わらない。
ちなみに
4人1組にしたとしても
29名なので残りは5人1組となる。
1組、
神 衛花、桂 菊子、山崎夏子、林 行永、
2組、
相良あかね、沖野奏太、榎田いずみ、山東敬、
3組、
山岡石舟、清河八作、斉野一穂、永井花奈、
4組、
辻まみ、大石ゆか、九坂玄太郎、五丸奈伊華、
5組、
土倉虎三狼、原沙織、千葉陸、坂本慎太郎、
6組、
比村 馨、大山奈緒美、松田幾、木戸龍、
7組、
近田一勇、甲島芹那、北郷吉之、国母まどか、杉高新平、
近田がこの班分けに理由はあるか?
と
尋ねたが、
川上は首を振って
特にないことをアピールして、
手を振り上げる!
「このレイドトレーニングは4組までしか同時に行けない!だもんで、1、2、3組がまず出撃、次に4、5、6、7組が前組との交代で出撃してくれ。」
「健闘を祈る!んで、ワシは夕食を食べてくる。」
地下施設をさっさと後にする川上に、
皆が不信感を抱きつつ、
近田が仕方なく後を仕切った。
「まあ、そういうわけだ。1、2、3組、準備してくれ。俺はレイドのレベルを設定してくる。」
レイドトレーニング入り口の横にある
機械端末を操作しに
近田が皆から離れて、
1、2、3組が打ち合わせを始める。
1組、
「改めまして、皆さんよろしくお願いします。」
神くんが3人に頭を下げる。
すると
桂菊子と山崎夏子が早速反応し、
「神 衛花!あんたにやられた恨み!」
「忘れられない!!」
と詰め寄った。
「あ、いや、うっ…そんなこと今言われましても…」
すると横から、
「神はかなり強いんだろ?キッコとナッコをやっつけたなら、2人の分まで頑張ってもらわなきゃな。」
背が低く、短髪で猿のような顔をした
林 行永が
神くんにクギを刺す。
「ユッキーそれな!」
「ほんまそれな!」
キッコとナッコに挟まれる林、
「俺は行永!ユキナガじゃないから!イキナガだから!」
名前の読み方はどうでもいいと
神くんが少し冷めつつも、
「あの、皆さん、僕はレイドトレーニング?ですか、実は初めてでして、内容はざっくりわかりましたが、実際はどんなトレーニングなんでしょうか…?」
確かに川上がざっくりと説明はしたが、
確かに、
体験したことない人間には不安でしかない。
「ましてや、いきなりレベル10とかねー」
「あたしら、レベル4?までだもんねー」
キッコとナッコの
金髪と緑髪がリンクして
頭を縦に振る。
「俺も10は無いな、…5、ああ、確か5までだった。」
林は腕を組み、
レベル10の無謀さに嘘くさく同調する。
「何度でも挑戦できるというのは好材料ですよね。難しくても何回かのチャレンジで攻略法が思いつくかもしれませんし。」
神くんは顎を触り、
レイドトレーニングへの計画を考える。
だが、
それは甘い。
「攻略法?」
「そんなの多分無い。」
キッコとナッコが即否定。
そして神くんに考えさせる。
「何であたしらとユッキーが10まで行ったことないかを考えてみなよ。」
「つまりは、そこまで辿り着けないってこと。」
気付く、
レベル4や5でも踏破困難な難易度だということに。
だが、
今回は4人だ、
それならば2人で困難だった難易度も
多少は…
「多少は改善される?いいや、その逆だね。」
林は嫌な笑顔で
神くんを見つめ、
「うちの組は最悪だな、レイド未経験を抱えて飛び込むんだから。」
嫌なことを端的に言う、
しかしそれには説得力は勿論あって、
尚且つ、
違う切り口にも気づかされる。
「…そうだ、大して仲も良く無い者同士が徒党を組んだところで、果たしてどうかな?上手く、連携できるかな?」
神くんが思っていたことを
林は見抜いていた。
2組、
同じく、
拙い連携が重い足枷になることは当然気づくが、
そこで立ち止まってはいけないと、
「ですが、デメリットばかりではない…」
ろ組トップの学力を持つ山東 敬が腕を組む。
「普段解禁されないレベル10にいきなり挑戦でき、なおかつ何度でも。」
「これは、チャンスだ。」
頭を抱えていた相良だが、
次第に顔が上がって行く。
「経験値も、信じられないくらいに、手に入る!」
榎田いずみと手を取り合って
はしゃいで喜ぶ
しかし、
榎田は対照的で、
「痛みも、恐怖も、何度でも…ってことでしょ?あたしは、嫌だな…。」
コンティニューは無限、
だが、
レイドでは現実と同じく、
肉体が傷つき、
精神が壊れる。
その言葉を
傍で1人聞いていた沖野が榎田に呟く、
「…リカに、コンティニューは無かったよ。」
3組、
山岡と清河が2人で綿密な打ち合わせをし、
斉野一穂と永井花奈
を
完全に蔑ろにしている。
最初に清河が
女子2人にこう言っただけ、
「俺たちが支援するから、お前ら2人は好き勝手にやっていい。」
永井はこの言葉に激昂したが、
斉野が冷静に言葉の意味を考える。
「いや、案外勝手にやった方がいいかも。」
何故かを永井が当然問う。
「だって、あんまり仲良くもない奴にあーしろこーしろ指図されるのってどう?ムカつくでしょ?」
確かにそうかな…
と
永井は右上を眺めた。
「それに、その、清河くんって頭良さそうだし!うん!」
…斉野は清河に特別な感情があるようだ。
4組、
女子3人、男子1人のチーム。
「策はただ一ォつ!待ち受ける敵をただひたすらに撃破すること!」
ワハハと笑って
のどちんこを見せる九坂玄太郎に
女子3人は冷ややかな目線、
そして
「策じゃなくてそりゃ目標だろが!!そんな当たり前のことをドヤ顔で言うんじゃねえ!!」
と、
五丸奈伊華に飛び蹴りを食らった。
それを見ていた大石まみと辻ゆかはがっくりうなだれて、
「あたしら、最悪の組かも。」
「先が思いやられる。」
5組、
全7組中、実力では多分トップ、
もしくは
近田の7組と双璧をなす組である。
その理由としては
クラス最強の土倉 虎三狼と坂本慎太郎の2人だということは当然皆、察しがつく。
「お前ら、10、やったことあるか~?」
坂本の問いに
皆首を振る
それを受けて、
「そっか~俺もだ!けど、なんだろうな、楽しみなんだよな!」
「いの一番に突っ込んで行きたい気分だ!」
第二陣の出撃に不満を坂本は漏らす。
胡座をかいて
堂々としているのは土倉、
「坂本、そう焦るなよ、待とうや、じっくり。」
原沙織と千葉陸の妖力開眼は中学生頃だった。
だが、
この土倉と坂本は小学生になった頃から
妖怪と戦い、
何度も死線を越えてきたのだ。
その落ち着きたるや、
強者の風格。
6組、
木戸龍が比村に掴みかかり、
「いつまでクヨクヨ、ウジウジしとんのじゃ!」
罵声を浴びせて
首元を突き上げる。
比村がからくさ街の調査チームに選抜された、
確かに、
実力は伴っていない選抜だったが、
木戸も当然だと思った。
なのに、
当の本人はリカの為といいつつ、
いつまでも気を落とし、
やる気もなく、
感傷に浸って自己満足をしている。
それに、腹が立った。
「殴りたきゃ、殴れよ」
比村はされるがままで、
冷たい目をして
木戸を睨んだ。
ハッとして
瞳が開き、
木戸の拳が比村の鼻へまっすぐ伸びかけたまさにその時、
「やめーや!」
松田幾が、
木戸の鋭いその拳を
優しく、
白い手のひらで包み込んで
「やめーや。な。」
大山奈緒美は比村の肩を叩いて、
「龍、比村くんもあんたも、みんなもリカの事で傷ついてるのは当たり前なんだよ?」
「けどその度合いは個人個人、人それぞれでしょう?」
松田は木戸と比村の間に入って、
包み込んだその拳を解放する。
「今は止まった時間を戻す事が先決やろう?」
「あんたはその針を早められるかもしれん、けど、比村は違う、なら待とうや、な。」
大山と松田の、
この落ち着きようはなんだ?
木戸も言いくるめられる、
とも違うが、
不思議と言い返せず、
抜いた刀を鞘に納めざるをえない、
そんな感覚でそこから下がった。
「けどな、比村。」
松田がくるりと反転して、
今度は比村と顔を向き合わせる。
「あんたがしゃんとせな、リカもみんなも、安心して笑えへんのはほんまやで。」
細長く、
しなやかな瞳、
長い睫毛その一本一本が
鋭く比村を突き刺した。
「…わかってる。」
比村は壁によりかかり、
そのまま滑るように地面へ着席した。
7組、
近田は6組の様子を伺っていたが、
落ち着きを取り戻したのを確認して、
また視線を同組に戻す。
「…さてさて。」
「甲島、北郷、国母、杉高、」
4人の顔を見渡し、
「覚悟はいいな?このレイドで、何度も死んでもらうぞ。」
もう他の組と目的が完全に違っている。
「死んで死んで、死にまくってもらう。」
これを最初に笑ったのは北郷、
「近田さんはおかしな事を言う。」
それに続いたのは杉高、
「これは戦じゃ、戦に行くもんが何で死にに行くと端から腹決めるんよ。」
この言葉に、
「そうか?わからんか、お前らには。」
呆れるように返す近田。
この意味を考えたのは、甲島。
「近田くん、その言葉の意味はつまり、死ぬことに何か意味があるということ?」
そして
それをヒントに
核心に迫るのは国母。
「…あ、近田さんはこのトレーニングの意味を知っているのだねー!」
腕組みをして
うなづく近田は
皆に説明する。
「妖力とは、死の力、死する者の力、元々は我ら定命の者の力ではない。」
「だが、何らかの理由で、生まれ持ってその力を宿した事で我らも妖力を自由に使って、その死する者達と戦う事ができるようになった。」
「では、その現実的ではない力、妖力を伸ばす方法は何だ?鍛錬か?それはあながち間違いではないが…」
近田の顔に影が落ちる。
「死に近ずけば近づくほどに、体内で妖力は増大し、カサを増す。」
これはあくまで近田の推測にすぎない、
だが、
ケイトやフランシスカを見て思うのだ、
奴らは幾度もそういう目に遭っている、
それが、
奴らと我らの決定的な違い、
「覚悟してくれ、晴名やフランシスカをとりあえずの目標にしている以上、」
「奴ら以上の死に目を見てもらう。」
それを聞いて、
北郷は笑う。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ということか。」
杉高は笑いもせずに、
「近田のでっちあげに、担がれてみっか。」
甲島は納得いかないようで、
「当面はその目標でことを成すけど、いや、やはりまだまだ何か深い意味があるような…。」
その様子を見て、
甲島に抱きつき、
胸を突く国母。
「芹那さんは心配性なんだねー!このこの!」
いや、
心配性なのは近田だ、
近田が一番、
この異様なトレーニングを心配している。
そして、
その先に待ち受けるものを。
「レベル10ですら未踏の領域、なのにそれを前段階で経験させておくということは、」
「ルカ夫人が、そういう次元の者である、ということなのか。」
「そういう次元の者と、戦うという…。」




