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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
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ろ組の特訓 1





川上の特訓、


それは至極単純な特訓で、





「1日目は仮想空間での4人1組のレイドトレーニング。」


「2日目は生徒同士による実戦形式の総当たり戦。」


「3日目はワシ、川上とタイマン。以上。」






ケイトとフランシスカといばらを除く、


29名全員が正座をし、

話を聞いている。


その中には神少年の姿も。





(…正直、あの時は近田くんと同じ気分だった。)


(晴名さんとフランシスカさんの戦いを見て、凄い、としか感じられなかった。)


(あんなに近くにいた晴名さんが、遠い星に行ってしまったような感覚…)





「休憩?プライベート?そんなものは今のお前たちに必要ない。戦っているときも、戦っていないときも戦いのことを考え、いかに自分がちっぽけな存在かを思いつめろ。」



川上は眉を釣り上げ、

珍しく不機嫌だった。




神くんは膝の上の握り拳へさらに力を込めて、



(このままだと、晴名さんと、肩を並べることなんてできない。)


(はは、おかしいな。普通の高校生でいいはずなのに、このおかしな世界にのめり込んでしまっている自分がいる…。)






「だが、辞めたい奴は帰っていい!強制ではないよ!うん!」




川上がこんな事を言うという事は、

つまり、

これから始まる事は、


からくさ街との戦いが始まれば、

命のやり取り

が始まるという事。


皮肉でもなんでもない、

それはどの生徒にも分かった。




と、

ここで


「川上先生、よろしいでしょうか?」


近田が手を挙げ、

川上が話せと言う。


すると

近田はためらいながら、

目を閉じ、

少し息を吐いて、




「その3日で自分達は、晴名やフランシスカのように、強くなれるのでしょうか?」




この一言で俯いていた生徒たちも顔を上げて

近田の疑問に同調を見せる。


確かにそうだ、

確かに自分たちには甘えがあって

そこを突かれて

晴名にも手が出ず、

みっともない姿を見せ続けている。




川上はそんな近田の前に近づいて

上から見下す。


そして、


「お前が3日でダメだと思うんならダメなんだろうな。」




近田は立ち上がり、


「いや、俺だって現状をなんとかしたいって気持ちはありますけどね、たった3日?気持ちとか精神論はここでは必要なんですかね!?」



川上を睨み、

顔を近づけたが、


更に顔を近づけられて



「心が動かないと身体は動かないんだよ」




そう言って

離れて、


「さっきも言ったけど、強制じゃないから、無理だと思うんなら出て行けばいい。」


「だが、そんな中でも自分を信じて、やるだけやってみようと思う奴、」


「ワシはそんな奴にはいくらでも手を貸そう。」





近田は焦っていた。


「俺は、晴名とフランシスカのアレを見せつけられて、結果だけ求めて、」


「そう、そうだよな。」


「やるだけやってもいいんだよな、追いつけないかもしれないが、そのやった事は無駄にはならない。」




川上は近田のその独り言を聞いた後、

背中を向けて

生徒たちに一度地下施設を退出するように命じた。





「さて、特訓で生徒達(あいつら)から鬼が出るか蛇が出るか。」


「あ、もう鬼は出たか。」




一人きりになった地下施設の

瓦礫の真ん中であぐらをかき、


手のひらを合わせる川上。




ケイトが空けた天井の大穴を見上げて、

そこから

切り取られた夜空を望む。





「はあああああああ…!!!!」





目を閉じ、

妖力を体内で作り出し、

溜めていく川上。


すぐに体内の許容を超えて

身体の外から激しく吹き出す、灰色の妖力。




「まずは壊れた結界を張って…!」




川上を中心にどんどん広がっていく

バリアのような灰の色、

それは青葉高校全体を覆い尽くし、


かちんと音を立てて固まった。





「…次は、この施設か。」


また更に妖力を作り出す。


しかし今度は、

違う色、


金色、

そう金色だ。




しかも先ほどの妖力のような凄まじさはなく、


穏やかで

ふわふわりと煙草の煙のように

空間を漂う。




「施設の…時間を…」




あの川上が冷や汗を垂らし、

かなり集中して

目を閉じ、

感覚を研ぎ澄ます。





「…施設の、時間を、戻す!!!」


"時間旅行の少年少女(クロノ・レコード)"






これは誰も知らない

川上の(カルマ)である。


かなりの集中力と妖力を消費するため、

戦闘では使い物にならない業だが、


森羅万象に逆らい、

ありとあらゆるものの時間をコントロールすることができる能力である。




これにより、

前回の地下施設大破も、

次の日にはすっかり元どおりになっていた、

ということ。





壁という壁が損壊し、

瓦礫の山だったものが、

みるみるうちに元の姿へ戻っていって、


30分も経たない内に

全ての修理?いや、復元が終わっていた。




「…うう、ああ、疲れた。」


終わると同時にその場で

大の字になって川上は倒れ込んだ。


「うぅああ…塩気…塩気ェのあるものが食べたい…」




すると、

倒れた川上を覆う影、


「アリー、いっつもお疲れさんだね。」


現れたのは

校長の川上旧太郎で、


よいしょ、と

老体をかがめて

隣であぐらをかいた。




その手にぬか漬けを何種類か乗せた皿が。


爪楊枝でキュウリを刺して、

寝ている川上に食べさせる。




「ん…ぽりぽり、ん、んまい。」


川上は口をモグつかせて

頬を赤らめる。


「アリー、聞きなさい、」


話す校長、

だが川上の塩気を求める食欲は止まらない。



「最近、業ばかり使って…身体に無理がきてしまうぞ?」


「ぽりぽり」


「きみの業は普通とは違うんだ、リスクが大きすぎる。」


「あ、カブんめぇ~ぽりぽりぽりぽり」


「アリー、話を聞いてますか?」




噛み砕いたカブをごくんと飲み込み、


「わかってるよ。けどね旧ちゃん、これはワシの仕事なんだよ。わかるでしょ?」


「時間がない、なら時間を作る。それだけ。」




合う校長と川上の瞳。


それを切って、


「まあ、きみは、はは。話を聞かない子なのは昔からだから、これ以上は言わないがね、」


「僕はね、アリーが心配なのはわかってね。」




残りのぬか漬けを全て渡して、

旧太郎は立ち上がって

尻についた埃を手で払った。


「どういう結果になっても、僕はアリーの味方だからね、好きにやんなさいね。」




からくさとの事だろうか?


川上は口いっぱいにぬか漬けを放り込んで、

うん

と、一つだけうなづいた。





そして立ち去る川上校長。


川上の前では健気に娘を心配するただの父親となるのだろう。





「旧ちゃんを悲しませんようにしなきゃな。」


川上も跳ねて立ち上がり、


両の太ももを叩いて気合いを入れる。







それから

ろ組の生徒達29人を

復旧した地下施設に呼んで、


「今日は帰さんからそのつもりで。」


川上先生の強化特訓が

夜19時ごろにスタートした。






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