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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
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長い日 10





《フランシスカぁああああああ!!!!!》




ケイトの雄叫びが

施設中を駆け巡った。




すっかりくたびれ、

刃もこぼれ、

いつものサイズになった現祓を杖にして、


ゆっくり、

だが確実に瓦礫の上を歩いて、

フランシスカへ迫る血塗れのケイト。





ボロボロだがまるで眼は死んでいない、

手負いの獣のようなその姿に

恐れ、

おののき、

後ろへ倒れ込んでしまうフランシスカ。


少女の怯えた瞳には

鬼気迫る、との言葉のようで

ケイトの背中から鬼のような凄まじさ、


プレッシャーが吹きすさんで

今にも自分を嚙み殺すようにも見えたのだ。




《ああっ…うわあああ…!!!》




フランシスカにはもう戦う体力など残ってはいない、


手を振って拒否するだけ。


もうこれでお終い、

決着だろうと言う慢心、

詰めの甘さが出てしまった。





そして、それを許さない鬼。






《やりやがったぁあ…なああああああ!!!!》



口を大きく広げ、

血と唾液の糸を伸ばして

激しく牙を見せ再び咆哮するケイト。





瓦礫から出た近田が


「まだ鬼化が切れていない…!」


ケイトの姿を見て気づく。





そうだ、

普通なら致命傷、

動くこともままならない怪我、


右腕が肩からざっくり口を開けているのだ。


なのに、

まだ立ち上がる体力、

迫る気力、


血もそこまで吹き出してはいない、




凄まじき鬼の妖力がそうさせているのか?






《妖力だけではありませんね。》


この様子を見ていた酒呑童子が言葉を

さらに重ねる。


《これはケイト様の心の力、自分が鬼であるという自覚、覚悟、》




すかさずいばらがケイトの後ろに回る。


《あんた…あんたは…》





涙をこらえるいばら、

と同時に

酒呑童子もつぶやいた。






《《…立派な鬼になった。》》





そして

頚椎を手刀で打って

お疲れ様の代わりにケイトを眠らせる。





《かっ…はっ!》


沈み込み、

ケイトをいばらは優しく抱き寄せた。





《あのままだと、首だけになってもまだ戦い続けるでしょうか。》


笑う酒呑童子。


《それこそが鬼、戦いの修羅。》





凄まじきケイトとフランシスカの戦いが

こうして

幕を閉じる。


些細なことで始まったように見えたが、

2人には確かに

戦う理由があって…





《フラン様。》


腰を抜かし、

地面に座ったままのフランシスカを

マリーが優しく迎えに来る。


《お見事な戦いでした。》



ハンカチを取り出し、

フランシスカの涙をそれで拭う。




《うっ、うぐっ、ぐっ、》


悔し涙だろうか?

それとも、

ケイトが気絶したことによる安堵?


止まらないフランシスカ。


《フラン様、帰りましょう。ね。》


マリーは

フランシスカの頭を撫でて優しく微笑んでいる。





だが、

余計に悔しい。

いつも同じ、


マリーに抱えられて、

家に帰ることを最近繰り返している。


《くそっ!くそぉ!》


地面を殴りつけ、

涙を流す。




そしてマリーがフランシスカを背負い、

こう呟く、


《そう、強いて言えばあと一手、あと一手が足りなかったのです。》




貫いて裂いたまでは良かったが、

そこで、勝ったと慢心してしまったシーン。


あそこだった、

あそこで駄目押しができたはず。

鬼火の力の配分を間違えてしまった。


油断せず、

体力をトドメのために少しでも残していれば。





《フラン様、けど良かった。》


《ここで悔しい姿をこれっぽっちも見せなかったら、》


《私、今頃あなた様を殴りつけていたところでしたわ。》




よっ、

とフランシスカを背負い直して、


各自で盛り上がる生徒たちを尻目に

2人は地下施設を後にした。









そこで大変なのはケイトだ。


いばらはすぐに集魂石の力で

未来堂へ引き返して

酒呑童子、猫叉と共に

ケイトの治療を始めた。





残されたものからすれば、


ケイトとフランシスカが

まるで竜巻のように

散々暴れて

突然消えた。


その後の余韻と来たら、

近田や他の生徒たちを著しく混乱させる。





「…凄い、な。」


近田も

笑いながら地面に座り込んで、

ようやく腰を抜かすことができたのだ。




「何が凄いんだ?」


近田の横には川上。


突然現れることにはもう慣れた。

いちいち驚かず、


「とても付いていけないですよ、あの戦いには。」




すると川上は近田を蹴り飛ばして


「何をヘラヘラしてる!」




他の生徒たちも

川上に注目する。


「お前も!お前もだ!何をやってる!」


「これくらいの、小学生のじゃれあい如きで!」


「何が凄いか!」





それから他の生徒たちを全員正座させ、


その前に堂々と腕組みをして

川上が立った。




「これから、あのルカ夫人と、からくさ街と喧嘩になるかもしれねえ。」


「まさか、その時が来たら晴名とフランシスカにおんぶに抱っこじゃねーだろーな?」




いつのまにか

川上の愛刀、銀銀銀(ぼうぎん)が現れていて、


その先を地面へ一度叩き付ける。




「そんな事はまかりならんし、許さん。」




川上が提案するのはこうだ、


「我々清浄会は化け物相手にしてナンボの商売、逆を言えば」


「化け物と戦えなくなったらはいそれまで。」


「強くなれ!命懸けで!!」




それから

速やかに


帰宅した他の1年ろ組も招集し、


地獄の3日間特訓を開始した。






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