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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
76/127

長い日 4






扉を開くと、


部屋一面に広がる黄の木花、


金木犀、

すぐさま鼻に届いて抜けて行く香り。




そして

たくさんの猫、猫、猫。


それらに囲まれたソファに

寝そべり、

艶めかしい脚を露わにする、



《おやおや、珍しいお客さんですこと。》


《清浄の槍に、鬼の子、それに、あなた…まあ!なんて事でしょう、あなた、》


《…フランソワーズの娘じゃないか!》



美しい麗人、

からくさを仕切る大ボス、


からくさ商工会長、

ルカ夫人。




ピンクゴールドの巻き髪を揺らし、

ソファから起き上がって、

背もたれに寄りかかり、

深々と座り直す。



川上は表情を変えず、

足元に擦り寄る猫の顎を撫でて


「会長、お話があるんだけど。」


しかし

聞く耳持たず、


《話は後だよ!あなた!フランソワーズの娘!ほら、こちらへおいで!》


《懐かしいわね、10数年ぶりかしら?》


《難しい顔をして、折角の美人が台無しじゃないか。》




フランシスカに手招きをして、

頬を膨らませるルカ夫人。


「てめ、おい!ババア!話を聞け!」


川上が詰め寄り、

顔の目前でガンを垂れる。



《ババアなど何処におる?どけ、邪魔だ、娘が見えない。》


ルカ夫人も折れずに

川上を眼中に留めない。




それを見ていたケイトは

近田に耳打ちし、


「…ルカ夫人とは2回目だが、川上会長とはいつもこんな感じだ。」


と返事をもらった。




《…御機嫌よう、夫人。》


黒のスカートをつまみ、

持ち上げて挨拶するフランシスカ。


《まあなんて可愛らしい!》


手を打ち、

足をばたつかせるルカ夫人。




《お父様とお母様もこちらに来てるのかしら?》


《いえ…とりあえず、(わたくし)と、マリーだけでこちらへ…。》




世間話を始めるルカ夫人とフランシスカ。


しかし様子がおかしい、





「あの口と態度の悪さに定評のあるあのフランシスカが、まるで大人しくしてる。」


腕を組み、

別人のフランシスカに興味津々のケイト。




フランシスカは目が泳ぎ、

指を絡め、

もじもじして受け答えだけしている。





《うふふ、まあ良い、フランちゃんとのアバンチュールはあとにして…》


《晶、要件はなんだい?》




晶、

川上の名前。




「あのなあ、あれ、ひのえいるだろ?」


「あれの身柄な、よこせ。な?」




晶は単刀直入、

寄り道なく

用件を伝えた。


もちろん、

今回の事件や、その他諸々の

清浄会が出て来た理由を

ルカ夫人は知っているはず。




しかし答えは、


《お断りだね。》




そしてその理由を語る。


《うちのモンが身柄を差し出す理由は何だい?》


《清浄を殺す理由は?》


《証拠は?》




確かに、

ひのえが殺したのは間違いないと、

勝手に言っている段階に過ぎず、


証拠は何もない。


いや、

何もなくはないが、




その晩に

逃げ惑うリカの姿、

それを追う黒服、


両者の姿を何人もの人間が目撃しているのは間違いないが、


それが果たしてひのえの所の者と

夫人が認めるだろうか?


それがリカだと?





だが、

川上は笑う。


そう、

それでいい。





今回は、

交渉が目的ではない。





猫達はつぶらな瞳で

川上を、

川上だけをただじっと見つめている。


「そうかい、なら、こちらは交渉の場を設けたが、そちらが一方的に拒否した、これで間違いないな?」


「慎重に答えろよ?この確認は。」



啖呵、

そう取られてもおかしくない。


だが、

夫人は顔色ひとつ変えず、




《何度も言わせないで、交渉?そんなものはしない。お断り。》


そう言った後、

ルカ夫人、

そう終わらないのが

からくさを治められる所以、


《しかし、清浄会が何様のつもりだい?》


《交渉に応じないという口実で何やってもいいと?》


《私は聞いた、交渉の理由は何か?と。》




まじまじと、

確実にルカ夫人の剣幕に磨きがかかっていく。



物言わさぬ雰囲気が

部屋中を支配していく。




《晶、あんたも覚悟しな、私とヤるなら、それ相応の覚悟を。》


《慎重に、答えな。》




あの川上に全く動じない、

ルカ夫人、


何者かはわからない、

ただ、

何故かわからないけど、


凄い人物なのはわかる、

ケイトはそう思いながら2人の様子を見つめる。




「ばかやろう、こっちは2人もやられてるんだ、そっちも身を切るのがスジだろ」


《ひのえがそう言ったんかい?》


「もう裏取れてるからここに来てるんだろが」


《ならその裏持ってこんかい》




たまらず近田とジュリアンが2人の間に入り、

止めに入るが、


「《オメェらは黙っとれ》」


バッチリとハモられて

黙らされる。




「…らちがあかねえ、もういい、勝手にする。」


《…こっちのセリフだい、勝手にしろ。》




それからしばらく不毛な言い合いを繰り広げ、

不完全な着地を決めたが、


《…いや待て、》


背中を向けた川上に

夫人が優しい口調で語りかける。


《1週間だ、1週間でひのえがヤッたという確証を証明できたら好きにしな。》




こちらが交渉しようとしたら、

逆に

あちらに交渉を持ちかけられた?


川上の眉が片方動く。




《ただし、ただしだ、》


そう簡単な交渉を

このルカ夫人が提案してくるわけなどない、

それくらいはケイトにもわかっていて、


《見つけられなかったら、清浄から1人、身柄を渡してもらうよ。》




指輪をいくつもハメた指で

川上の顎を指して、

念をしっかりと、


きつく押した。




「なんて提案だよ…」


目を閉じ、

手のひらを天に向け仰ぐ川上。


「…上等じゃねーか。」






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