長い日 2
ここで、
ケイトのインターンシップに反対意見が出る。
《ふざけるなよ?貴様らは敵だ。》
先程から沈黙していたフランシスカ、
自分の席に座り、
腕を組み、
静かにその沈黙を破る。
そしてケイトへ身体を向けて、
《インターンシップだと?笑わせるな。それより昨日の決着はどうなってる?私は負けを認めていないし、戦いの途中で貴様らは逃げている。》
まあ、
確かに昨日の事を川上先生やみんなと改めて話した訳では無いし、
どうなってる?と聞かれると、
答えようが無い。
だがはっきりしてるのは、
「あの時あんた気絶してたじゃん。」
ケイトのこの言葉に
机を叩いて立ち上がるフランシスカ。
《鬼の力を借りたからと調子に乗ってるのか?》
とうとうケイトも
フランシスカに身体を向けて
「あんたね、正直鬱陶しいの!あれが負けじゃ無いなら本当に完膚なきまでに叩きのめしてあげよーか!?」
立ち上がって
フランシスカと向き合う。
「いっつもいっつもしつこく突っかかってきて!ウザいよ!ほんとに!」
溜まっていたものが爆発した瞬間だ。
ケイト自身、
フランシスカに恐怖していた部分があったが、
今はもう何も怖く無い。
そこで
フランシスカがまた出てきたので
いい機会だ、
ということもあってつい言ってしまった。
だが後悔はない、
「かかってきなよ!ほら!」
ケイトも歯茎を見せて吠える
しかしこれはいけない。
誰の目にも
ケイトが調子に乗っているのは明らか。
いばらが間に入って、
《フランシスカ、落ち着きな。》
《あんたも、ケイト、調子に乗りすぎ。》
2人に手のひらを見せて
制止を掛ける。
フランシスカとケイトは
お互いに不服、
だがそれを押し殺して
着席した。
ここで入口の扉が開いて、
「おほん。」
藤堂先生がやって来た。
「話は大体決まったかな?みんな、着席してくれ。」
教壇に立ち、
持っていた教科書やファイルをそのまま投げ出して、
皆の鎮静を待った。
そして、
腕を机に突っ張り、
「2時間目の授業は延期とする、ここからは清浄会としての話になる。」
「晴名、神、ローゼスの3人にもとりあえず聞いてもらおうか。」
息を吐いて、
優しく語りかける藤堂。
「清浄会には厳しい掟がいくつかあるが、その中の一つを我々は遵守しなくてはならないね。」
「掟、清浄会の問題は清浄会で解決。」
「岩代リカは清浄会のメンバーだ。」
机を握りしめて、
振り絞る藤堂。
「いつものことながら、政府機関には話をつけてある。政府が動いたところで周りはパニックになるし、何とかなる相手でもないからね。」
「犯人の生命は我々に委ねられた。」
ここで疑問が、
「何故妖怪の仕業だと?」
ケイトの素直な疑問だ。
藤堂はまるで用意してたかのように
回答する。
「これは宣戦布告なんだよ。」
「奴らは岩代リカが清浄会だという事を知っていた。」
「この街で奴らが幅を利かせる為には、我々が邪魔な存在なんだ。」
ますます意味がわからない。
すると、
学級委員長の近田が顎をさすりながら、
「…からくさ街と戦争になりますか。」
からくさ街?
あの、
大人のお店が集まってるところ?
「そうだね、今回の黒幕は十中八九、からくさ街を支配する妖怪、ひのえ。」
話がどんどん進んでいく。
「ちょっと、ちょっと待って。」
一旦ケイトが遮り、
まとめる、落ち着く。
藤堂は手のひらを見せて
謝り、
「からくさ街とは因縁があってね、昔は暗黙の了解とでも言おうか、純粋な商売目的なら妖怪の活動を黙認していたのさ。」
「だが、ここ最近頭取が変わってからは、ウチと何度もからくさ街のあり方や、新しい勢力とのいさかいでよく衝突しているんだ。」
「その頭取、名をひのえ、百鬼夜行という犯罪組織のメンバー。」
…!!
…百鬼夜行!!
兄ケイラをバラバラにして蹂躙した奴ら!
「鬼切丸…!」
呟いたこの名前、
ケイトの因縁、宿命、
「晴名、君は百鬼夜行を知っているのか?」
その名前に藤堂も驚く。
「ええ、まあ…ワケありで。」
事情はよくわからないけど、
これは参戦する理由になる。
岩代さんには申し訳ないけど、
明確な理由が欲しいならまさに、
百鬼夜行、
これしかない。
「…その、ひのえってのは今、どこに?」
ケイトの眼が猛々しく蒼く光り、
感情を必死に抑える。
ここで川上先生登場。
「ここはド派手にドンパチかまそうか。」
いつのまにか教壇の上であぐらをかいて
膝をパンと叩いた。
「川上先生!」
「よー藤堂。」
顎を親指と人指し指でもたげて、
「ここの戦力からくさに一点集中させて、ひのえが出てくるまで現だろうが常だろうがさ、皆殺しにしてさ、派手にかまそうか?」
ケイトは一つうなづいて、
「それでも、いいですよ。」
ここで川上が教壇から降りて、
「んなわけにはいかねーんだよ」
身内を2人も殺され、
一般人にも被害が出ている。
それでも清浄会が報復を抑え、
手をこまねくには理由がある。
「妖怪と人間の戦争になってこの国が滅び、世界に火種がばらまかれ、世界も崩壊しかねない。」
そんな大げさな。
「妖力を得た攻撃は普通の人には通じない」
鼻で笑ってケイトが答えるが、
「現は基本的に実体化している。だから一般人にも死人が出てるんだよ。少し考えたらわかるだろアホか」
すかさずの指摘に
あ、そうか。なんて一本取られるケイト。
「我らはあくまで抑止力、だがそれは水面下でのことに過ぎない。奴らは簡単にそのボーダーを越えてくる。」
今回の川上はいつになく真面目だ。
「ならば、慎重にことを進めなければならない。」
この言葉の続きをクラス全員が求める。
川上は指をさしてこう言った、
「からくさ街と交渉し、ひのえの身柄を条件に話を進める。」
…は?
たまらずケイトが話を割る。
「何言ってるんです?交渉って…は?」
これには委員長の近田も同調して
「川上先生、交渉が通じるような相手だとしたら、そもそもこんな事にはならないのかと思いますが。」
クラスもざわめくが、
川上は気にせず、
「お前らなーそもそもズレてんだよ、考え方が。」
フランシスカも笑い、
《ハナから交渉などする気は無い、か。》
静かにつぶやく。
それに気づいた川上も笑って、
「赤目、オメーは気づいたか。」
交渉の話を進める。
「そう、交渉うんぬんの話では無いんだ。」
「交渉できれば御の字、できなければその大義名分で潰すのみ。」
「どちらにせよ、ひのえは潰す。それのみ。」
なんて強引な話だ。
交渉する意味さえ無いという、
「そんなまどろっこしいことしなくて潰せばいいんだけどさ、色々しがらみがあるんだよ。」
清浄会は突然変異で生まれた秘密組織ではなく、
やはりそれを指揮する者たちがいるのだ。
「…こうだったからこうした、それが必要な時もあるんだよな。」
川上は下を向き、
つまらなそうに舌を動かす。
そして
話を変えるように
一つ手を打って、
「でだ、まあ、交渉にとりあえず行くとしても、その最中にやられたら元も子もない。そこで、」
「からくさには5人ほど行ってもらうかな」
川上はクラスを見渡して、
ふむふむ、
なんて細かくうなづいて
選り好んで
メンバーを決めた。
「近田、赤目、晴名、そしてあたし。」
「あと1人は立候補にしようか。」
ケイトが選ばれた。
百鬼夜行と接触できる。
…まあ、変なやつと一緒なのが気になるけど。
それを知ってか知らずかの、
川上の選抜。
立候補ということで、
神くんもいばらも
皆と同じく手を挙げるが、
選ばれたのは、
「比村、5人目はお前さんだ。」
前髪で目を隠した
落ち着いた様子のこの男の子は
しっかりと手を伸ばし、
決まった瞬間、
ゆっくりその手を下ろす。
「では早速、課外授業と参ろうか。」
川上と4人の生徒が立ち上がり、
教室を後にする。




