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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
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長い日






(…やめ、やめて下さい)


(…お願いします、もう逃げませんから)


(…死にたく無







ここで川上は自室のパソコンの電源を切り、


ため息をついて、

ふかふかのパソコンチェアに沈み込んだ。



「…うーん、間違いねえな、ありゃ岩代リカだ。」



独り言を呟いて

指で頭を掻いた。




「クソ…クソ、クソ、クソ。」





この動画が大手動画サイトに

投稿されたのが


岩代リカの遺体発見から1時間後…





ケイトの長い1日が始まる。






朝、

全校集会。


「1年ろ組の、岩代リカさんがお亡くなりに…」



校長の川上旧太郎がステージに上がって、

声を詰まらせる。


勿論、

体育館脇には川上先生、

泣きじゃくる担任の中村先生の姿があった。




そして

ろ組にも衝撃が走り、

中には崩れ落ちる生徒もいた。




ケイトには何が何だかさっぱりわからず、




「マスコミ等のメディア取材には、対応するなとは言いませんが、岩代さんの名誉を傷つけるようなことだけは控えていただきたい。」


マスコミ?

何が起きた?


横目で

同じ並びの神くんに顔を向けるが、

神くんもとまどい色の顔をしており、

よくわかっていない様子。



いばらは目を閉じて静かに腕を組んでいた。





そこから教室に流れてホームルームが始まった。




「えー、中村先生の気持ちが落ち着くまで、私藤堂が担任の代理としてみなさんを受け継ぐことになります。」


中によれたシャツを着て

ウールのベストを付け、

教壇に立つ男、

藤堂盾羊(とうどうじんよう)だ。


この先生のことも

さっぱりわからないケイト。



しかし

中村先生のことが心配で、


「中村先生は、戻ってきますか?」



たまらず質問してしまった。

すると

間髪入れずに


「勿論。」


「中村先生のクラスだから、ここは。」


眠そうな顔で笑顔を見せた藤堂。




「えー、」


そして話を切り替え、


「まあ、どこまでの情報が正しくて、どこまでが間違いか、只今錯綜中だが、」


「みんなはしっかりと、惑わされずに自分を持って岩代くんと向き合って欲しい。」




毅然と藤堂はクラス全員を見据えた。


そう、そうだ、

なんたって自分が一番錯綜中なのだから、


だって、

顔も知らないクラスメイトが亡くなって、

全校集会が起きて、

なんでそんなことになったか、


ケイトにはさっぱりわからないんだ。




それから藤堂は通夜と葬式の日程を話し、

なるべく参加してほしいが、

自己責任で任せると伝えた。


それから休み時間となって、


クラスは更にざわつくのだ。




「…殺されたんでしょ?」


「…動画見てないの?」


「…動画上がったんだよ?」




ゴリっとした言葉が

ケイトの耳を通り抜ける。


そして、


「…普通に亡くなったわけではないみたいだね。」


神くんといばらがケイトの机を囲み、




「岩代さん、一週間以上学校を休んでたから、何かあったことは間違いないけど…」




ケイトは周りをきにしながら、

小声で


「なんで、亡くなったの?」


神くんは答えたが、

神くん自身何も知らないのだ。


「殺された、らしいけど…ごめん、わからない。」




そこで、

昨日一緒に戦ったみんなもケイトの周りに集まる。


「昨日はああなったけど、今日は今日だから、一時休戦ってやつ?」


「そーそー。」


大石ゆかと辻まみ。




さらには、


「俺たちは休戦とは思わんね」


「あんたらがよければいつでもやるよ?」


山岡石舟と清川八作がいばらの横へ。




いばらも眉を吊り上げ

緊張が走るが、


「まあまあまあ、みなさん餅ついて…」


「あーぺったんぺったん。」




相良あかねが餅つきのポーズ。


だが、

和らげようと思った緊張感を更に増やしてしまった事に。




「えーおほん。とりあえず、状況が状況なんでね、協力しましょうでぇす」




すると、


学級委員長、

近田が脇に土倉、沖野を従え、

黒板の前に立った。



「みんな、聞いてくれ。」



雑然としていたクラスが

近田に注目して

口を閉じる。



「リカのこと、本当に残念でならない。あいつは、清浄会とか青高とかそんなことは抜きにして本当にまっすぐで、強くて、優しいやつだった。」


「本当に悔しい。」



ここでみんなの涙腺が壊れ

クラス中に嗚咽が響く。

近田も静かに泣いている。


それを拭い、

気を引き締めて、



「会長や幹部の皆さんと緊急で会議を行った結果、やはりリカは殺された、それも、妖怪に。」




妖怪!?

ケイトももちろん、

みんなも驚いて、


「しかも、リカ以外に4人も殺されている。」



土倉と沖野がプリントを取り出し、

皆に配る。



「リカを含む2人が清浄会員、他の3人は一般の方、幹部はこの事件で動いていたようだが、また更に新しい犠牲者が出てしまった。」




プリントには

事件の概要と

被害者5名の顔写真、

プロフィールなどが書かれている。



ケイトの手元にも回って来て、


初めて、

バスケットボールのユニフォームを纏い、

白黒の画像の向こう側で

笑顔を見せる

岩代リカと対面した。






ここで授業開始のチャイムが鳴るが、

気にせず

近田は話を進める。


もちろん廊下に藤堂が来ていたが、

皆を尊重して

静かに扉の脇で待機して見守った。




「警察や政府機関の仕事か?それは違う。」


「俺たちの仕事だろ?」




近田は黒板を叩いて、


「敵討ちじゃないが、リカのために何かしなきゃ…俺はそう思う。」



クラスは一つになる、

うなづき、

近田の提案に同意する声が漏れる。




「そこで、頼みがある。」


近田はまた表情を変える。

神妙な面持ちに。


「晴名、神、ローゼス、あんたらにも協力してほしい。」


「清浄会とは関係ないスタンスを保っていることは俺も理解しているし、強制するつもりはない。」


「けど、川上会長とやりあえるくらいなんだろ?俺は素直に尊敬する。」




近田は黒板を離れ、

ケイトの机の前に立ち、




「リカのために、力を貸してくれ。」




深々と頭を下げた。


すると、

後ろに土倉と沖田も回り、

同じく頭を下げる。





「うえっ!いや、その、あたしは…」


どうしていいかわからない、

それは神くんもそうだ。


すると

いばらがケイトへ、


(受けてもいいんじゃない?妖怪を倒せば魂が手に入る。件を鎮められる点を考えれば、どちらにせよ妖怪とは戦わなきゃならないんだ。)


耳打ちをした。




ケイトは腕を組み、

まあ確かに、

と納得して。


「頭をあげて下さい!そんな、あたしは、お願いされるような人間ではございません!」


「もちろん、岩代さんのお力に少しでもなれるなら是非、協力させて下さい!」


ケイトは立ち上がって同じく、

近田や、クラスみんなに頭を下げた。




しかし、


《それは、なっら〜ん》


黒板上の校内放送用スピーカーから

川上先生が呼びかけた。



「なぜです!会長!」


近田が尋ねる


《だって、そいつら清浄会員じゃねーもん》


「ですが、クラスの一員として協力したいと言ってくれてるんです。」



ピー

ガーガガー


と、

マイクを擦り合わせたようなノイズが走り、



《ダメったらダメ!!そいつらがどーしても清浄会に入るならいいよ〜》




と、

ここでケイトが思う、


何故スピーカー越しで会話が成立しているのかと。





《どうだ?晴名、ローゼス、他。》



ほ、他!?

神くんがスピーカーを睨んだ。



ケイト、

塾考。


クラス全員の視線が鋭く刺さる。




(おいおいおい…何だよ何でだよ…ここは普通にまあ、とりあえず協力してくれよ!で、いいじゃんかよー?何でそこでまた入会問題になるんだよー)


(常妖怪も手にかけるような怪しい組織に入れないんだってば!時と場合によってはあたしはあんたらの敵になるんだよ!?)


(しかも…今、NOと言ったらどんな事になるんだよ…完全に裏切り者的な感じになるやんけボケェ!)




と、

心の関西人が出たところで、


「…インターンシップ。」


ケイトが呟く。


「インターンシップ制度がこの国には許されているはずです。」


「職場体験、としてなら一時的な入会は許されますよね?」




これに対し、

しばらく沈黙した後、

スピーカーから、


《…いいだろう、認めよう。》


と、

放送室の川上が

返答した。





…この返答、


…くそー悔しい、一本取られた感で返答したが、


放送室の川上は笑いをこらえるのに必死で、



(馬鹿め!一度入会させてしまえばあとは囲い込んで我が物にするのは容易!はははは!晴名!晴名晴名晴名ァアア!!我が物になった暁にはぁ!!あんたの穴という穴を全て舐めちぎってくれるわ!ははは!)


という思惑のなかでの、


《…いいだろう、認めよう。》


なのである。





ホッとするケイトだったが、


《あんた、インターンシップ制度って詳しく知ってるの?》


といばらに突っ込まれたが、

何食わぬ顔で


「サラッとしか!」


と答えた。






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