鬼羅
それは…
《そう、お兄様、ケイラ様が十三、四の頃でしょうか。》
ケイトと6つ違うので、
8歳の頃、7年前ほどだろうか。
酒呑童子がふいに、思い出話を始める。
《それではいけません!もっと喰うのです!もっと!もっと!!》
未来堂の真ん中、
石畳でいつものように修行に励む幼いケイラと、
熱心に指導する酒呑童子、
いばらは今と変わらぬ姿をして
灯篭に寄りかかり目を閉じている。
「うぉおおおおおおお!!!!!」
傷だらけ、
汚れまみれのケイラは蒼く輝き、
その時放たれる閃光で全てを眩く照らしていた。
《そしてそれを…一気に!!》
手のひらから現した
妖力の蒼よりも更に濃い色の蒼、
こぶし大の珠のようなその蒼、
それを…
「…うぐぐぐががぐぐ…!!」
胸にゆっくり近づける!
ケイラの体感では、
その珠は、
妖力の珠は、
とてつもなく重く、
だからと言って
無理に動かそうとすると
弾けてバラバラになりそうで、
ゆっくり、
ゆっくりと
近づけ、
たその瞬間!!
石畳を砕き、
砂煙を上げ、
何回もバウンドして
数十メートル向こうに吹き飛ぶケイラ。
それもそのはず、
妖力を最大限にためた一撃を自ら取り込もうとしているのだ。
下手をしたら自分で自分を攻撃してしまうような事。
《また、派手に飛びましたね~ほほほ》
手のひらで屋根を作り、
酒呑童子が笑う。
もうこれで失敗は何回目だろうか、
痛み、
消失感、
怒り、
雑念がケイラをがんじがらめにする。
消失感にまみれて
起き上がり、
砂や血混じりの唾液を吐いて、
ぼろぼろのくせに、まだ、
また、
立つ。
《鬼を羽織ると書いて、鬼羅、その鬼の力を得て、ケイラ様はそこから強くなったのです。》
酒呑童子の感慨深い思い出話は続くが、
こちらはそんな暇ないのだ。
「それ、(敵と)睨み合ってる時にする話なの!?」
確かにそうだ、
こう、いつまでも生徒たちは待ってくれるわけがなく、
更には、
後にフランシスカが控えている現状、
要点を求めるケイトへ
酒呑童子が
《その次、その挑戦でケイラ様は、鬼羅をものにしたのです。》
再び立ち上がったケイラ、
ただ黙って、
また、
妖力を手のひらに集めて込める。
《ケイト様には当時のケイラ様にはない、妖力を溜めて、込めて、維持する技術があります。》
ケイラがまた
胸へ集めた妖力を近づける。
その時顔は蒼く照らされ、
煌めき、
「次でダメなら俺は死ぬだろうな。」
半分諦め、
もう半分は、なるようになれという気持ち。
その
全てを受け止める姿勢、
心、
それが成功の鍵だったと
ケイラ自身がのちに語った。
《…ということで、やってみてください。》
…?
…以上、通信終わり。
「はぁ!?」
もう呆れるしかないケイト。
何が何だかわからない力を手に入れるために、
今この状況で
かなり危険なことをしろ?
意味がわかんない!
だが、
意味がわからないのは
生徒たちも同じこと。
「あんたさっきから何言ってんの?」
「おい不登校!」
大石ゆかと、辻まみだ。
両手でリボルバー型の銃をくるくる回す大石、
辻は薙刀のような、
それぞれの妖力で発現させた武器を持ち、
「きもい!本当に!」
「もつやっちゃお!」
とうとうケイトにしびれを切らして
襲いかかる。
それをキッカケに
他の3人も2人に続く。
両リボルバー先端、
フロントサイトをそれぞれ片目ずつ見て
ケイトの眉間に狙いをつけて、
大石は撃った。
放たれた2発の弾丸、
「えっ」
ほぼ同時に2つの衝撃音、
ケイトの防御が間に合って、
現祓で軌道を変えた弾丸は
明後日の方向へそれぞれ向かう
ならば!
と、
辻が背後から迫り、
腰を回転させて
ケイトの背中へ
横に回転しながら薙刀で斬りつける
「ほいさぁ!!」
しかし、
間に合う!
ぶつかり合う刀と薙刀、
その瞬間、
ケイトは圧倒的な速さ、
受け止めたあと、
流れの2撃目で薙刀を斬り払って
切り返し、
まだ滞空している辻へ前蹴り
…。
何が起こったかわからない生徒たち、
もちろん、
ケイト本人も。
《わかったでしょう?器はもう完成しているのです。早く、鬼羅を、試しなさい。》
酒呑童子が言う、
器は完成している。
そう、
ケイトからすれば、
生徒たちの動きがスローに見える、
思ってる数倍速く動ける、
「え、攻撃していいの?」
と
言わんばかりに、
相手が隙だらけで、
「ふざけてるの?」
なんてとぼけた言葉が喉からつい出かかる。
脆い生徒たち、
いばらはそう表現したが、
勿論それもある。
だが、
一番の理由は
器の完成、
ケイトの成長だろう。
大石がまたリボルバーで狙い、
撃つ!
今度は弾ありったけに!
不安をかき消すように!
それに合わせて辻が薙刀でまた来る!
(どこから来るかわからない攻撃には、まだ対応できないけど、)
止まったわけではないが、
緩やかになったような時間の流れ。
緩やかに、
スローに、
弾と薙刀が迫って来る。
(…そこを視認すれば、動きが読める…!)
ケイトは後ろへ大きく飛んで、
この隙に
「やってみるか!!」
現祓をしまって、
腰を落とし
手のひらに妖力を込める。
大石と辻には
もの凄い速さでケイトが後方へ
移動しているように見えた。
「は、はぁ!?なんなの!?」
「さっきはあんなんじゃなかったのに!!」
周りの大気が渦を巻き、
蒼く染まって
ケイトの手のひらに集まり輝き始める。
確かにそうだ、
みんなで追いかけていた時はあんなスピードではなかった。
攻撃も完全に回避されることはなかった
なのに
何故いま、化け物じみた動きをしているのか?
《鬼なんだよ、もう。》
いばらは確信する、
《戦いでケイトはどんどん成長して、もう既に鬼になりつつあるんだよ。》
神くんには酒呑童子の話は勿論聞こえておらず、
いきなりのいばらの独り言に
ついていけない。
「ローゼスさん?何を言っているんです?」
視線の向こうの
ケイトの行動にも意味が見出せないまま。
「晴名さんも、一体何を」
「…はぁああああ」
ケイラが初めて鬼になった時よりもデカい、
大きい、
そして穏やかな妖力の塊が
ケイトの手のひらで回転する。
それを維持するセンスはケイラを上回っている。
そして酒呑童子が叫ぶ!
《さあ!取り込むのです!!》
ケイトの瞳が大きく開いて
覚悟した!
「うぉおおおおおおお!!!!!!」
胸にぶつかった妖力が
そこで弾けた
その瞬間に
周りを真っ白にするほどのまばゆい閃光を放った!!
誰も目を開けていられない!!




