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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
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十王






《やあやあ皆様、お揃いでご苦労様です。》





都内某所、

一、二を争う高層のビルの眺めがいい、

ガラス張りの会議室、


スクリーンに映し出された戯ける青年、




印象的な二本の頭から伸びる角、


鬼切丸、

酒呑童子の息子、

いばらの兄。



《皆様にお集まりいただいたのは他でもございません!へへへ》


鬼切丸はどこにいてこの映像を流しているのか?


背景は何もない、闇。


それに勝手にベラベラと喋るだけ。




《我が、百鬼夜行の結成記念パーティーを行いたいと思いましてね~》


《盛大に、かつ、大胆に!》


《そのご挨拶として、皆様にお集まりいただきました。》




それを

円卓で眺める10人の王たち。


そう、

王、彼らは王なのだ。





(シン)

普段は都内の高校に通う学生の姿をしている。


初江(はつえ)

エステティシャンで、エステの店を経営している女性の姿をしている。


(そう)

中国語教室の中年男性の姿をしている。


(かん)

都内にある闇の組織たちの情報屋、男性の姿。



(なる)

そこそこ有名なアイドル、勿論女性の姿。


泰山(たいざん)

病院の看護師、唯一一般女性と結婚している。



(たいら)

ニート。


(みやこ)

風俗嬢。


五道(ゴドー)

傭兵をして外国を飛び回る。




そして、




《だからなんだと言うのだ?》


《小僧、貴様は我らに何をして貰いたいと?》





頬杖をつき、

白眼のない黒眼で嗤う少女、


閻魔(えんま)


十王の頂点にして頂天。





《余興など、勝手にすれば良いではないか。》




皆は黙り、

閻魔の言葉を静かに聞いている。




すると、スクリーンの向こうの鬼切丸は、


《皆様方、十王様に何かしてもらうなどという考えは一切ございません。ましてや、無断で余興などしては無礼ですので、百鬼夜行、常妖怪を代表してご挨拶をしたまでです。》






ビルのガラスから

遥か真下を覗けば、

渋滞している車の列、

そのライトとランプが連なって蛇のように伸び、


店やビルのネオンが煌めいて、

信号機が点滅と点灯を繰り返して

青葉の都会をアダルトに演出している。




ここで、

丸い眼鏡をかけた宋が呟く、


《你在想什么?》(何を考えている?)


鬼切丸は笑顔を作って手を振る。


《いえいえ、何も考えておりませんよ!あ、いえ、余興のことは考えておりますが!》





平も口を開いて突く。


《オメーは妖怪集めて何する気だ?》


椅子に腰を下ろさず、

その上で膝に肘を置き、

腕を伸ばししゃがむ甚平姿の平。


すね毛と傷にまみれたその脚を露わにして、

腓腹筋、

前脛骨筋の発達の凄まじさを表している。




得意げに答える鬼切丸、


《それはお答えしかねます。》


《全てを話せば、楽しい余興の興が削がれます。》


そして、

お口にチャックをするジェスチャー。




しかし平も黙ってはいない。


《王の前で話せない話など存在しねーだろ?》


《言葉は選ぶもんだ、クソガキ》



鬼切丸も黙らない


《選んだ上でお話ししております。》




スクリーンと円卓の間に


空間を曲げるような歪な空気が漂う。




そんな空気を払拭するために、


《まあまあ、平さん、落ち着いて。》


最年少の高校生、

秦が平をなだめた。


《鬼切丸さんも、出し惜しみしないで、少しくらい教えてくれてもいいじゃないですか!》




あどけない笑顔を振りまいて、

手のひらを合わせる秦。




《流石、秦様!お話がわかるお方!!次期閻魔候補なだけありますね!》



鬼切丸は何故こうも口が悪いのか。


あの十王を敵に回してもいいと言うのか?



全員の空気が一気に張り詰め、

歪む、

撓む。




《鬼切丸…今の言葉、聞き捨てならんな。》


閻魔が氷の眼差し、

普通の人間が見つめられたら

それだけで本当に凍り付いてしまうだろう。




《私、鬼切丸は嘘は申しませんので。へへへ。》


言われた秦も巻き込み事故に遭ったかの様に

気まずい表情。




鬼切丸はわざわざ十王に喧嘩を売りに来たのか?


あの、十王に?








十王とは、

地獄を統括する王である。


暗雲立ち込める世界、

溶岩が噴き出す、

岩でできた窟、

針で出来た山、

底の見えぬ谷、


血の湖がそこらにあって、

死人が永久の煉獄に閉ざされる。




…と言うのは

人間の戒めとして伝えられている事。


悪いことをすれば想像を絶する世界に落とされるという脅し。



善も悪も、

死ねば皆冥土に行き、

輪廻の再生を待つだけ。


しかし、

死神や鬼などの魑魅魍魎類に自ら成りたいと願う者のおり、


そういった元人間達を傘下に置くのが、


十王、

彼らなのである。





《鬼切丸、貴様の余興とはまさか、我らに刃を向ける事ではなかろうな?》


閻魔は深くため息を吐いた後、

この言葉を呟いた。




もしそうであれば、

その十王に仕える魑魅魍魎の軍勢たちが黙ってはいない。


勿論、

この十王もとてつもない強さなのは言わずもがな。




鬼切丸は笑いを堪えて、


《…だとしたら、どうです?》




そして、

スクリーンが黒い炎で焼かれ、

その向こうのコンクリートまでも溶かし、

鉄骨を露わに。


閻魔の手のひらから

横に火柱が飛んだ。

そして一言、


《…是非も無し。》




鬼切丸に実刑判決。

閻魔が裁くは森羅万象の生き死にと云われるが、


鬼切丸は果たして?








鬼切丸の塒は勿論鬼ヶ島、

太平洋沖の奥の奥にある無人島。


普段は結界を張っているので、

人間にはまず探知できない。




《鬼切丸様、愉しくなりそうですね。フフ。》



美しい白絹の女、

鬼切丸の頭を膝に置き、

呑気に耳かきをしている。



《いやーヒヤヒヤしたよ、閻魔のあのおっかねえ顔、玉さんにも見せてやりたかったよ。へへへ。》


鬼ヶ島は切り出しの岩山しかない島だが、

鬼切丸の根城は

綺麗で煌びやかなピカピカの畳が拵えられた和室、


屏風と茶室が一体となった、

仄暗い様相。




《鬼切丸様には怖いものは御座いませぬのか?いつも無茶苦茶をしますが故、玉はいつも心配で心配で。》



手を止め、

袖で涙を拭う。


そんな玉へ、

鬼切丸が優しく声をかける。



《玉さん、心配無用ですよ、無茶苦茶はしますが、いつも帰ってくるでしょう?それに、俺はまだまだ死ねないんです。》


《あ、まだ耳がゴロゴロする、続けて!》



そして、耳かきの催促。




《その通り、鬼切丸にはまだまだ無茶苦茶をしてもらわないと困る。》


影からいつの間にか現れた白髪の青年、


《鵺(ぬえ)ちゃん。》




その場に胡座をかいた鵺に、


《閻魔はブチ切れたよ。忙しくなるぞ。》


膝枕をされたまま、

鬼切丸が例の件を報告した。

鵺は鼻で笑って


《また余計なことを言ったのだろう?》


と、

手を交えて呆れた。




鬼切丸は

一つ息を吐いて膝枕から飛び起きる、


《余計なこと?オレは本当の事しか言わないよ。》


そして鵺の肩を叩いて、



《さてさて、地獄(くに)取り合戦と参ろうか。》








どうにも、

百鬼夜行としては、

十王が率いる地獄の軍勢が目の上のたんこぶで、


好き勝手に暴れればどちらにせよ

地獄との衝突は不可避、


ならば、

わざわざ宣戦布告をして先見の姿勢を見せた。





しかし、

地獄と戦って何のメリットがあるというのか。







会議室に残された十王たちは、

鬼切丸の行動が理解できない。


《戦い云々よりも、何故?というのが気になりますね。》


《確かにメリットは無いよね。》


期待の若手、秦と

アイドル兼十王、成が同調する。




しかし閻魔が睨みを利かせ、


《彼奴等の思惑など如何だって良いわ。》


《死にたい者を我らは裁くのみ。》




閻魔は立ち上がって腕を組んだ。

まるで、

自らの武者震いを止めるように。




《血が沸くわ…肉が躍っておる…。》


地獄の答えは一つだった。





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