現と常と
《…そう、あなたのお兄様は、身体を奪われてしまっただけ、まだ生きております。》
牙の和服男の顔が戦慄色に染まっていく
この先の話を聞きたくない気持ちでいっぱいになる心、だが、
欲しい、
欲しがってしまう。
耳を閉じてしまえばいいのに、
身体はそれをしない。
《お兄様、ケイラ様は身体をバラバラにされ、うつつのものたちに奪われてしまったのです。》
何を言っているのかさっぱりわからない、
けど、
あのリアルな眼球を見てしまった以上、
本当のことを言っているのかも
と、
錯覚をしてしまっている。
《単刀直入に、申し上げます。》
和服男は目の前に迫り、
腰が抜けてしまったあたしの上に影を作った
《お兄様に会いたいなら、わたくしたち、とこしえのもの達に協力しなさい。さすれば、お兄様と会える日が来るのは明らか。》
どんどん顔が近づき、
もうあたしの眼前まで来ている。
《この続きを話すには、あなたの承諾が必要です。》
《さあ、》
《ご決断を》
あたしは尻餅をつきながら後ろへ下がる
だが、
和服男もそれに合わせてすり足で前へ
「わっ、わかった!わかったから!」
止むを得ず、
この表現がしっくりくる。
強引に合意してしまった。
《そうですか、では早速》
和服男は、
例の眼球を握った拳をあたしの顔に近づけて、
「えっ」
顔半分にその拳がズブズブと入っていく
《あなたの右眼を、ケイラ様の、お兄様の眼球にまずしておきましょうか》
「えっわっ、えっ…」
信じられない
漫画みたいな話、
いや、こんな気味の悪い漫画なんかないけど
右側の視界が一瞬なくなって、
また復活する
この時だろうか、
右眼が兄の眼に代わったのは。
《うつつのものたちは現代社会に溶け込み、力の無いものたちには見えません。この、ケイラ様の右眼でそれを見るのです。探すのです。》
和服男はあたしの顔から手を抜いて、
これでよし、なんて息を一つ吐いた。
《どうです?特に変わったことは無いでしょう?ましてや、肉親のパーツ、よく馴染むはずです。》
顔を触って何度もまばたきをしたが、
変わった様子は無く、
それがかえって不気味…
そろそろ立ち上がって、
「なんなのよ…なんなのよ!?説明してよ!訳がわからなすぎて、あたしは…」
涙が出てきた。
もちろん右眼からも
《また泣かした》
《またわたくしのせいでしょうか?》
それから和服男の説明が入った。
100説明してくれたうちの10くらいしか理解できなかったけど、
落ち着くには十分な数字だった。
今の日本には妖怪がいて、
現のもの、
そして
常のもの、
この二種類がいるということ。
こいつらはとこしえのもので、
昔からこの国に存在した妖怪たち、
逆に、うつつのものたちは最近現れた妖怪で、
現代社会に溶け込み悪さをし、
とこしえのものたちをも排除しようとしている。
兄はそんなとこしえのものたちと共に
うつつのものたちと戦っていた。
それは何故か?
《わたくしたちはお兄様にとあるものを貸していましてね、その返済こそがうつつの魂なのです。》
とあるもの?
もちろん問うと、
《あなたの、未来です。》
そう言って
和服男は和服少女に合図した。
それを受け、
和服少女は石階段を上がり、
杜の扉を開く
《彼女は件と言う妖怪です。ありとあらゆる災いを産む妖怪、何もしなければ災いを産み出し続け、この世をめちゃくちゃにするでしょう。》
大きなソファに寝転がり、
虚ろげな顔をして
ため息をつく女の人がそこにはいた。
《件の災いを止めるには、うつつの魂が必要です。お兄様はそれを必死にかき集めていた、あなたの未来を守るために。ほほほ。》
半分何を言っているかわからなかったが、
もう半分は理解できた。
また涙があふれた。




