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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
57/127

弱い命、強い命




武道場でのあの後、

正直よく覚えていなくて、


気づけば、

寿命だとか命が削られて行くとか、


そんなんどうでもよくて、

酒呑童子のところへ

いばらちゃんを引きずって、




あの鳥居をくぐっていた。





《いばら。》


酒呑童子と、

猫叉がすぐに出迎えてくれた。






それからすぐに

いばらちゃんを布団に入れて、


その傍ら、

正座をして、

酒呑童子の話を聞いた。




《妖怪が、人をよく思わないのと同じく、人も、妖怪をよく思わない事は無論あります。》


《その感情の最たるものが、奴ら、清浄会。》


《常、現、鬼…人ならざるもの全てを排除しようと、世界各地を飛び回る集団です。》




それが、

なんであの学校にいるのか。



《運命なのか、惹かれ合ったのか何なのか…ほほほ。》


《ケイト様はまあ、遅かれ早かれ奴らと出会う運命であったのはまず間違い無い。》



心を読まれた。

そんな顔をしていたのかな。





酒呑童子は顎をさすり、

目を細めて更に笑う。


《清浄会、悪魔祓い師、そして我ら常…様々なものが集うあの学び舎、ほほほ、


否、魑魅魍魎跋扈する魔の巣、とでも言いましょうかね。》




そうだ…フランシスカもいるんだった。


頭が重い。





…ん?


…我ら常って、


「あたしを常に混ぜないでよ!」



膝に置いた両腕を突っ伏して

訂正するケイト。


だが、



《いえ、ケイト様のことではありませんよ。》


酒呑童子はそばで目を閉じ

いばらへ視線を。


いばらも静かに目を閉じている。


《この娘、いばらはきっと学び舎に行きたいと言うでしょう。》





いばらは前にこう言っていたのを

ケイトは思い出す。


《あんたは弱い、あたしならこんな弱い命、耐えられない。》


それでいいとそのあと言ってくれたけど、

いばらちゃんは、

現実に目を背けず、

向き合い、戦う、


強い命なんだ。





自分のため、

常のため、

逃げないんだ。


「あたし、帰る。」




ケイトは立ち上がり、

膝を屈伸する。




酒呑童子と猫叉が顔を上げる。


「帰らなきゃ…」


「伊達さんを、倒さなきゃ。」




自分も折れかけていたんだ。

あの強さを体感し、

震え、


知った。


けど逃げない。

準備してやる。




鳥居をくぐり、

学校に戻ったケイト。

トイレのドアを開け、

鏡の前で手を洗う。




あたしは妖怪じゃない…

けど、

代表してやる。


常、を。






代理戦争、

そんなことする気は無いし、

起こす気もない。


いばらちゃんがやられた。

あたしもやられた。

だから借りを返すだけ。


常と人の戦いはまた別問題。




「…ふう。」


だいぶ頭のクラクラとか目眩が収まった。



正面に映る情けない自分の顔。

目をやってすぐ逸らした。



剣道部には戻れない、

さてどうする、

どうしたら…強くなれる?




トイレを出ると、

ほんとに、

ほんとに偶然神くんに会った。



「…や、やあ、晴名さん。」



さっきの事を気にしてるのか、

何やらバツが悪そう。

目線も合わせてこない。

ソワソワ落ち着きがない。



「…気にしてないから。」



通り抜けて、

廊下を進もうとする。


すると、


「剣道部、おいでよ。」




えっ、

振り返り、

今聞こえた言葉が真か、確かめる。




「そうだよ、おいでよ!晴名さん、勿体無いよ!」


「部長相手にあれだけ立合える人、なかなかいないし!」




…しかし、ケイトの顔は相変わらず重い。


…引き止めるにはあまりに価値のない言葉。





「…ごめん、無理。」


「…負けっぱなしでいいのかよ!」




目を丸くするケイト。


神くんは本気だった。


「負けたじゃないか!晴名さん!」


「悔しくないの!?」


「僕は、その、悔しかったよ!!」




…何で、あんたが悔しがるんだよ。

再び背を向け、

歩を始めるケイト。




だがそんなケイトとは

対照的に、


神くんの声がどんどん抑揚を増し、

大きくなった。



「僕は、部長に負けて、悔しかった。だから、今こうして…」


「…あそこに立っている!」





また立ち止まり、

肩を震わすケイト。


負けた事、

いばらちゃんも負けた事、

あたし…悔しいのかな?



わからない。


じゃあ、

何で込み上げてくるんだろう。

心の底から、

何かが、込み上げてくる、




「…く、くや、悔しい、悔しい!!」


あ、

やっぱり悔しかったんだ。




顔を両手で塞がるざるを得ない!


だって、

涙が込み上げてくるんだ!




「悔しいぃい!!悔しぃいよぉ!!」





破裂してしまった。

膨らんで、

散々膨らんだ何かが。





こんなに弱い事が情けなく、

恥ずかしく、

許せないこと、


今までなかった。


調子に、

完全に調子に乗っていたんだ、


現を相手に戦えば、

段々慣れてきて、

一人前になったと錯覚していた。





まだ卵、

鶏の卵ですらない、


うずらにもなれてないくせに。





弱く、

脆い、

その生き物の肩を優しく叩く者がいた。





《…ケイト。》


その手、

いばらだった。


《…ケイト、ごめん。勝手な事して。》



ケイトはいばらの胸に飛び込んだ。




《あたしは大丈夫。》


頭を撫でる、

抱きしめる。

いばらも手が震えている。




ここで神くんが、

2人に


「僕は剣道部の1年、神です。あなたは、晴名さんの…お友達?」


指をさし、2人に確認するが、


《…あんたのことは知ってる。》




驚く神くんに、

目を手でこすったケイトは、


「神くん、この子はいばらちゃん。こないだの事も、全部知ってる。」


更に驚いて、

気持ちを落ち着けて、


「あ、ああ、やっぱり。じゃなきゃおかしいもんね、はは。あの、その、さっきの…」


関係者だということを再認識し、

鬼になったいばらの記憶が蘇る。




「はは…。」


自分はいばらのレベルにすら到達していない事を痛感、


カラ笑いするしかない、神くん。


その神くんにいばらが詰め寄り、



《この学校に通うにはどうしたらいい?》



突拍子もないことを言う。




これにはケイトと神くんも驚いて、


「そんな、無理ですよ!いきなり入学なんて…いや、編入なのかな…なんて言うのかな」


《そんなのどうだっていい。誰に話を付ければ通えるの?》



いばらの瞳が縦になり、

牙を見せる。



「それは面白いね~」


いつの間にやら川上先生、


3人のすぐ後ろにいた。




完全に気配が消えていて、

ケイトも神くんも、

あのいばらですら気が付かなかった。


だが、


《ねえ、あたしこの学校通いたい》




川上先生にいばらはそのまま嘆願する。


そして、

腰を折って、


《お願い…。》


頭を下げた。





清浄会なんて自分の敵みたいな奴らのところに飛び込んで、


そこで師事したいと言うのだ。




「いばら、ちゃん…。」




何で、そこまで…。







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