逢魔が時
いばら、戦闘開始!
両手で竹刀を握らず、
片手で思うままに振り回す!
大振り、確かに大振りだが
狙いは的確、
ケイトの剣のように既での回避は困難、
伊達をもってしても
大きな回避、
緊急回避、
横に振るい、
かわされたと見るや否や、
竹刀を背中で回転させ、
持ち手を変更して
変化を付けた縦の振りに切り替えるいばら、
実に、
実に、自由な剣、
「あの鬼っ子、なかなかやりおるのお」
川上、
これには思わずニンマリ。
好敵手は強ければ強いほどいいのか。
ん?
鬼っ子…?
…まあ、いい。
しかも、
いばらは竹刀の攻撃にとらわれず、
拳や脚の体術も織り交ぜていく。
もちろんどの攻撃にもいばらの妖力がたんと込められており、
どんな僅かな攻撃もダメージは必須。
同じ妖力で防御するか、
完全に回避するしかない。
いばらは膝を上げ、
そのままの脚で右へ左へ蹴り込んで前へ進んで行く!
それを伊達、
見事に竹刀の鍔や弦あたりで受け止め流す!
《貴様、何を考えている!?》
「ふふ、さあ?」
若干伊達が優勢か、
いばらに不気味な焦りが募る。
この女は、戦いを楽しんでいるような、
愉しんでいるような…。
いばらは歯を食いしばり、
距離をとって何かを構えた。
《いばら!いけません!》
酒呑童子の叫びは届かない、
《八つ裂きにして、くれる。》
竹刀を床に刺し、
そこから六角形の魔法陣のようなものが
黒紫の光を帯びて照らし出される
その六角、
中で無数に重なり、
ずれて行く…
まるで薔薇のような模様だ。
瞬間…!
眩しい閃光と、
凄まじい突風吹き荒れる!
なんとか半身を起こして、
眼をなんとか開けて、
顛末を見届けなければ…!
疾風に髪と衣服をばたつかせ、
ケイトはいばらをしかめる顔、
少し開けた瞼の間からただ見つめていた。
「鬼が来るぞ~伊達~」
「上等ですよ…ふふ、上等、上等。」
それをやはり楽しんでいる、
川上と伊達、
本当にこいつらは何者なのか?
こんな突飛で異様な状況に
微動をだにしない。
神くんは眼をひん剥いて
バカみたいに大口を開けたまま。
光に包まれたいばら、
段々とその黒紫が収まって、
薔薇のような魔方陣も吹きすさぶ風も収束する。
まさにその瞬間、
獣が猛スピードで伊達を跳ね飛ばした。
黒き、獣が。
…いや、あれは、やはりいばらだ!
「どういう、こと…?」
向こう側で見ているであろう
酒呑童子に尋ねるケイト。
《我らは鬼、その力をいばらは解放したのですよ。》
「…。」
黙って宙を舞う伊達、
落下を待たずに
いばらも飛んで
頭を掴んで
床に投げ、叩きつける。
木っ端微塵になる床板、
しかし
竹刀を肩で背負い、
伊達は着地している、
いばらも続いて四つ足で着地、
やはり、獣!
頭に長い二本角を生やし、
牙も伸び、
一番目を引くのが、
歌舞伎役者のような隈取り、
あざ?
化粧なのか?
両目の下から伸びて、
下顎からも二本、
こめかみにも二本、
よく見れば露出していた両肩にも、
腕にも同じようなものが現れている。
《うがああああああ!!!》
身体を目一杯引いて、
弓の矢のように飛び出すいばら。
その勢い、
速さ、
凄まじき、
よろめき立ち上がった伊達に向かって
閃撃、
閃撃!
繰り返し行うその閃撃は、
打った後、
向こう側の壁を蹴り、
また打ち込み、
次は反対側の壁を蹴って…
まるでブロック崩しの球と棒のように
伊達を削っていく。
いばらにも勿論驚かされるが、
圧巻なのは伊達、
「なんで、あれを、捌けるんだ…?」
神くんもただ驚くしかない、
無論、
ケイトも同じ事を思っていた。
速すぎる
いばらの爪による斬撃、
伊達が防御する度に咲く火花、
それがいばらの一撃の恐ろしさを表現している。
しかし、
伊達は落ち着いて眼を配らせ、
竹刀の適所に自分の妖力を配分して行く。
「伊達、空奈美…何者…!?」
ケイトの驚きに、
川上は喜び、笑む。
「あれは、そんじょそこらのバケモンなんかにどうこうできる相手ではないのよ。」
「あんたの友達が獣なら、あれは…」
「魔…。」
さすがに鬼と化したとはいえ、
いばらにも疲れが見えた。
伊達はその瞬間を逃さず、
緩んだ斬撃を
受けずに流し、
「そろそろ…飽きた!!」
流す勢いそのまま、
回転して上から竹刀を叩き込んだ。
「空・雲雀、ああゆうカウンター技、」
後頭部を打ち込まれたいばら、
川上は伊達の剣の説明を続ける。
「雲雀からの鵆、頭上両手で刀を持ち上げ、跳ねてカチ上げる。」
まるで2人は川上の操り人形、
その説明通り動き、動かされている。
「突き刺す!百舌鳥!そこからの~」
いばらは肩を突かれ、
後ろへよろめき、
隙を与えてしまう!
伊達の妖力込められた竹刀は、
もう竹刀ではなく
威力は十分だ。
「…雨燕。」
下段から上段へ斜めに剣を振るうが、
それは一撃では無く、
攻撃の為の助走とでも言おうか。
上段へ到達したと同時に
勢いそのまま手首を返し、
激しい高音を上げていばらの脳天を叩いた!
この時、
振り上げから下がった竹刀は
空気を叩き、
一拍の手鼓のような音を鳴らす。
「いば、いばらちゃん!!」
流石に心配で
無理やり身体を起こし、
立ち上がるケイト。
「…鬼め、そう容易くはないか。」
伊達の剣、
脳天を捉えたかに見えたが、
《…痛ってぇな。》
刹那で首を振り、
右肩でそれをいばらは受けた。
だが、
鬼化は止まっていて、
減らず口もここまで、
ひざからいばらは崩れ落ちる。
未来堂で稽古をよくつけてもらった、
手の打ちようが無く、
何もかもを跳ね返されてしまうあのいばら、
あのいばらが、やられてしまった。
唖然としたまま、
放心するケイトに、
「逢ったのが、此処で良かったな。」
「と、伝えておいてくれ。」
伊達が優しく肩を叩いて通り抜けた。




