嫌な笑みの先には?
もう、
全て、
胸を借りる気持ちで出し切る。
しかし、
妖力や色、
眼なんか使っていいんだろうか…。
勿論、
一眼は使わない。
あれは強力だし、
反動がある。
《その方ならば、大丈夫でしょう。》
悩むケイトに気づいたのか。
酒呑童子がすかさず声をかける。
《時間はあります。もし不安ならまずは普通に打ったらいいでしょう。》
《我々が買い被りすぎているのかもしれません。ほほほ。》
…そうだね、
まずは自由に、
人間らしく打ってみよう。
「はああああ!!!!」
息を吐き、
ケイト、竹刀を携えいざ突撃!
「…。」
構えなんてない!
腰で横一文字に据えて、
斬る!
が、
伊達、動かず。
空を斬った。
「えっ、」
おかしい!
回避もしてないのに!
何で当たらないの!?
斬る!斬る!斬る!
この違和感を拭い去りたい!
この不気味な不穏を!
ここでわかった、
素足をこするように、
既で、
無駄な動き一つなく回避していると!
動作すら煩わしいのか、
ケイトの剣を完全に見極め、
省エネ回避。
(あたしでもわかる、遊ばれている)
横斬り、
そう、
あたしは今、何のひねりもない
単純な攻撃に必死なんだ…
鼻で笑われるような、
経験の遥か彼方の差、
全然だめだ、
生身じゃ話にならない…ならば、
(それを、演じて、やる!!)
ここで二度、三度と単調な攻めを見せ、
「…ここ!!!」
少し妖力を両手に込め、
竹刀に伝せる!
すると
ぼやっと蒼く煌く竹刀、
(妖力を纏った攻撃!これをナメた動きでかわせば、わずかでも妖力に触れて、大変なことになりますよ!!)
の瞬間、
右眼が伊達の色をとらえ、
ケイトに危険を知らせる
「やばっ!!」
下から斜め上へ竹刀をすくい上げた瞬間、
手首をすぐ引き、
伊達の鋭い一撃を受け止めた。
受け止めた?
とんでもない、
たまたま防御が間に合っただけ、
そこから
ほんの少しでも油断すれば
竹刀の鍔から押し潰されて、
胸を拳で打たれる!!
「…それを、使うか。よかろう。」
まさに鍔迫り合い、
見つめ向かい合う刹那、
にやりと伊達が笑う。
相手の竹刀から
灰色の妖力が吹き上がり、
ケイトを後方へ弾き飛ばして、
伊達の全てを取り囲む。
「…ぐっ、このやろう。」
自分は少ししか妖力使わないであげたのに!
全開かい!
じゃあ、
あたしだって使う!
ケイト、
精神統一をし、
妖力を…解放!
瞬時に竹刀の隅々までに
ケイトの妖力が行き渡って
光沢のある蒼みを見せ、
竹刀と空間の間に靄を付けている。
それと対象的に、
伊達の竹刀、
まるで大きなたいまつを持つかのように
竹刀から灰色の妖力が轟々と立ち上り、
それを肩で担いで見せた。
「その眼、右眼でわかった。」
「晴名さん、君がこっちの人間だということを。」
えっ、何で…
「先程、見られた気がして…、その眼で。」
…確かに、さっき見た。
…灰色を。
…見られる側もわかるの!?
「いい眼だ。」
伊達が竹刀を振るう、
当たりはしない距離からの、
素振り?
けどその時巻き起こった剣圧は凄まじく、
吹雪に当たられたように、
スカートを激しく揺さぶり、
呼吸が止まって顔を激しく圧迫された。
妖力を纏っていなければ、
どんな事になってたか…。
竹刀を構えるケイト。
その時、
神くんと川上先生の様子を横目で見た。
「…。」
2人とも動じず、
傍観に徹している。
…何故?
…神くんはわかるけど、
…川上先生は何で!?
何が起こっているか普通の人にはわから…
…わからない、はず、
…だけど、川上先生は、普通じゃない…!!
「よそ見するなよするなよ〜」
その川上先生、
伊達の方向を横から指差す。
「あっ!しまった!!」
身体をしならせ、
思い切り縦から竹刀を叩きつける伊達!
なんとか間に合い、
竹刀を出して受け止めるが、
ミシミシミシ!!
と、
衝撃と重み激しく、
地面の木板に足がめり込む!
そして、
笑み、伊達の、嫌な笑み!!
これには流石に頭に来た!
もう、
問答無用だね!!
ケイトも妖力フルスロットル!!
全身を蒼く輝かせ、
竹刀を滑らせて、
伊達の竹刀を外し、
妖力を放出して緊急回避!!
そこから回り込み、
身体を捻って一撃を溜める!!
「こんのやるぉおおお!!!」
我ながら良い横払い!
しかし高く飛んで伊達も回避、
そこから前宙を二度繰り出して、
相手の兜を狙う、兜割り!
また身体をしならせて
縦に一撃、
今度は重力も加わり、
インパクトは先程以上とわかる!
受け止めたら貫かれるかもしれない、
ジェットの加速のように横へ
また緊急回避、
しかしそれがまずかった。
ここからは
何故だかわからない世界、
横に確かに回避した、
その時の横眼にははっきりと伊達がいた。
しかも、頭上にも、伊達がいる。
横の伊達に竹刀で右肩を叩き上げられ、
よろめいた所、
今度は左手にも伊達、
今度は打ち下ろされ、
左肩に当てられる。
またさらに逆方向へよろめくと、
頭上から伊達、
「なっ!!?????」
決着…。
綺麗に空から面を打ち込まれてしまった。
これが、
伊達、空奈美なのか。
自由すぎる。
攻撃が異次元すぎる。
《ど素人相手に、転身使うたぁ、いい根性してるよ。》
いきなり武道場の入り口が勢いよく開いて、
倒れながらも、
それがいばらちゃんだと分かった。
ダメージはないけど、
めまいがひどい、
脳震盪?
うまく声が出ない。
いばらは伊達の方へ歩いて向かう。
その際、
下駄を脱いで、
横に放り投げる。
「…君は、晴名さんの何かか?」
伊達の言葉を無視して、
ケイトを抱き起す。
「い、いばらちゃん…何で」
《黙って見てられなくてね。》
そのまま壁にケイトを寄りかからせて、
《…やっつけてやるよ。》
と、
いばらは敗者の肩を優しく叩いた。
そして落とした神くんの竹刀を取って、
伊達を指す。
《清浄会、あんたらのやり方は本当に汚いね。》
もちろん川上も
大きな瞳を細めて睨むいばら。
神くんには何かわからず、
いばらを止めようとするが、
「構わんよ、なあ、伊達?」
伊達も腕を組み、
顎でこちらに来いと指図する。
その時の笑みも、
もちろん歪んで卑屈だ。
《…ぶっ殺す!!》
いばら対伊達の第2試合が始まった。




