表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
50/127

ぬるりと俥




その日の夜、


神くん、神 衛花は道着袴姿で木刀を振っていた。


大きな日本屋敷の手入れされた庭、

その中で

熱心な練習の成果と言える大粒の汗、

それが月の明かりに反射して美しく煌めく。




「随分立派な家だねえ」




神くんの背後、

庭の大きな松の木から


「俥です、青葉署の。」


謎の刑事、

俥 入人が現れた。




神くんはため息をついて、

振り返る。


「警察の方が不法侵入とは、感心しませんね。」


それに対して

ハハッと笑って手を添える。


「やだなあ、ちゃんと玄関から断って入りましたよ。あれ、お爺様?」




「…まあ、そのようなものです。」


神くんは縁側に置いたタオルで汗をぬぐって、

木刀を立て掛けた。



「俥さん、用件は、何です?」


襟を正して、

改めて問う。


「またまたやだなあ、とぼけちゃって。」



俥は胸の内ポケットからタバコを取り出し、


神くんの許可を得てから

口にくわえ、

火をつけた。



「すいませんね…あ、タバコは吸うのに、すいませんだなんて、ハハッ、こりゃいいや」



神くんの調子が狂う、

俥の道化た態度。



「スパー、こんな綺麗な月の下、タバコを吸って、コーヒーがあれば最高なのになあ~」



イライラがとうとう神くんの肩を掴む。

だが、堪えて、



「俥さん、あの、」


「あの火事の件ですよ。」



指に挟んだタバコを口から離して、

神くんに指す。


「火事の件ですよ、火事の件。」


「それはもうお話ししましたよ、青葉署でも、聞き取りでも、病院でも。」



俥は、神くんに指したその手の、

平を見せて、


「なのに、刑事が来た。ということは?」


「…そういう事です。」




何かの疑いをかけられているのか?


いい気はせず、

神くんの表情にまでもイライラが掴みかかってきた。



「何が言いたいんです?」


俥は煙を吐いて

ニヤリと笑う。


「みんなに~、言ってないこと、あるんじゃないですか?」



…ある。


…みんなに、言ってないことが、ある。



「ほら!あるじゃない!表情が一瞬固まった!そうそう、そうなんですよ、それを聞きたいんですよ!」


「…無いですよ!」


「嘘は良く無いよ~、神 衛花くん。」



俥に見事にかき回されている、

ペースは完全に狂って

核心に迫られてしまっている。



「私ね、普通の刑事じゃないんですよ、何が普通じゃないか、知りたい?」


「ふふふ、私ね、建前を気にせず動ける刑事なんですよ~。」


「署内では幽霊、なんて呼ばれててね、何をしようが関係無いんです。」



脅迫?

神くんの右手が木刀に伸びる



「おっと、物騒なことはするんじゃないよ。」


その手が止まる。


「まあいいけどね~」



俥の顔に暗い影が入り、

死んだ黒い瞳でつぶやく、


「…いいけど、使う刀はそれじゃあないだろ?」




殺気、

ただならぬ殺気、


全身を通り抜け、

後ろへ吹き飛んでいくような殺気!




「…なんてね。」




あと少し

今の殺気を浴びていれば、


刀を出していた所だ。




「ハハハ、青少年をいじめる趣味はないよ」


肩を叩いて

庭の勝手口の方へ歩いていく俥。




「…っ!?」


いつそんなすぐ側に寄られた!?

神くんはとうとう汗を垂らして

口を開けた。




「今日はここまでにしとこうか、また来るよ。」


「0係の、俥だ。大事だから二回名乗った。」


「次はちゃんと質問に答えるんだよ?いいね?」




ヒノキの扉に手をかけ、

ゆっくり開いて

すう、と俥は敷地をあとにした。




敵なのか、

味方なのか、

いや、味方ではない、


なら何故殺らない?


何故、



神くんは強烈なプレッシャーに押しつぶされ、

その場で

膝から崩れ落ちた。




闇は闇からやって来ている。

確実にケイトと神くんを捉える為に。


鬼に刃を向けるという代償、

その支払いは何か、


命か、はたまた…。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=836330751&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ