決着の盛鬼
瞳を増やす、
つまりはそういう事、
文字通り視界がもう1つ増えるのだ。
今の一撃、
視界を別の角度で
客観的に捉えることができる、
ケイトがケイトを
盛鬼の背後、
そこから見ていたような表現
だったのはそういう事。
吹き飛ばされたケイトは眼をゆっくり開いた。
「…う、うっ。」
肺の中にあった空気が全て出て、
息苦しく、辛い。
しかし、
これは簡単な事では無く、
左眼は普段通りの視界、
そして右眼は盛鬼後方からの視界、
つまり両眼で視界はあべこべ…
「…うげっ!!」
あまりの視界の不愉快さに
ケイトは胃液を吐いた。
その涙で溢れた右眼の中、
2つの瞳が陰と陽のマークのように重なり合って映っていた。
《一眼(いちのがん)は三半規管と瞳に相当な負担を負う、諸刃の剣…》
《だがしかしですね、恩恵も大きい!》
酒呑童子は声を高らかに、
叫ぶ!
《瞳は妖力の源、それが増えれば単純に倍に!!》
《一眼の瞳術、転身を使えば、相手の背後も突けますよ!!》
唾を吐いて、
フラフラと立ち上がるケイト。
酒呑童子が入っている事の3割くらいしか理解できない。
…だが、
明らかに違う、
身体にみなぎるエネルギー、パワー。
やはり…
痛みも引いていく、
何者にでもなれそうな沸き起こる自信、
《右眼で盛鬼の背後を見つめ、そこに行こうとしなさい!!》
さっきまで枯れ果てていた妖力は
フルパワー、
いや、それ以上に満ち溢れてきて、
普段出せる最大限の
蒼い妖力を凌駕する妖力、
それを身に纏って、
言われた通りのイメージ、
「右眼で見て…」
「…そこに、」
転身!!
…完全に虚を突いた!!
盛鬼は突然ケイトが目の前から消えた事くらいにしか気付けなかった!
あの盛鬼なのに!!
「…もらった」
無防備な盛鬼の後頭部にクリーンヒット、
現祓は躍動した。
余りの身に纏っている妖力の濃さ、
それはまるで、
羽衣を羽織るかのように
実体化していて、
動きに合わせて、衣服のように乱れ動いた。
更には、
現祓にも変化が。
妖力を十分に与えられ、
喰い続けた結果、
刀身は蒼く輝き、
更に長い振りとなって、
斬れ味も普段通りとはいかなくなっている。
その証拠に、
《…う、うごご…。》
ヒットした盛鬼の後頭部はざっくりと口を開け、
血を吹き出し、
脳を露出させていた。
ケイトは右眼を閉じ、
左眼、
つまり普段の視界で盛鬼を見据える。
「…すごい、もう、誰にも負ける気がしない」
右眼がジンジンして胎動している、
良くないのは分かっている。
だけど、心地いい、
強くなるって素晴らしい。
盛鬼も鬼の意地がある、
脳が露わになったところで戦いをやめるわけにはいかない、
フルパワー、
灰色の妖力を身に纏って
ケイトに飛びかかる
「正面?ならそれで相手してあげる!!」
この程度の鬼に、
もう背後を突く必要、
右眼や転身を必要以上に使う必要はない。
ケイトが刀をかまえて、
迫る拳を怖がらず、
寸前まで避けずに見据え、
《…っばああああ!!》
肘から先を落とす。
「何も感じない…もう、あなたには。」
切っ先を下に向け、
手首を返し、
膝以降を斬り飛ばした。
《…な、何故だ!!》
盛鬼には何が起こっているかわからないまま、
されらがまま。
《…何故急に、そんな!!》
切っ先を今度は上に返して、
真上を払った。
顎から入った剣先は、
盛鬼の顔面をサラミのように削いで散らした。
派手さのない、流れるような連撃、
静かな、
川のせせらぎのような。
盛鬼は膝から崩れ落ちてそのまま突っ伏し…
…決着す。
…あれほど一方的だった相手を一方的に。
地面を跳ねた盛鬼の斬り取られた顔面、
それはゲル状になり、
衝撃的な言葉を放つ。
《…これはやってしまったな…人間…》
《…標的に、なった…ヒヒヒ…》
すぐさま酒呑童子が話す、
見覚えがあった。
《俗霊、それは盛鬼の偽物でしたね。》
後で聞いたら、
自分の身をこねて肉人形を作る現妖怪。
操鬼、蕪鬼も肉人形で、
2人を倒した時、ニセ盛鬼の額から血が出たのも、自分の分身がやられたためであった。
「じゃあ、本物は…」
《…無事、ぴんぴんとしていることでしょう。》
俗霊は地を這いずり、
この場から立ち去ろうとするが、
現祓の剣先に妖力を集中させた
ケイトの一撃で、
すぐさま灰となって、
その魂は集魂石の中へ。
決着して、
まだケイトの右眼は2つだった。
それを案じる酒呑童子、
《ケイト様、右眼を解放して下さい、このまま使い続けると毒ですよ。》
解放の仕方なんてわからなかったが、
二点のイメージを頭の中から消し去ることで
解決した。
「…必要な魂は、あと、1つ。」
戻った視界に、
主人を失い途方に暮れている妖怪が、
焼け広がっていく市街の中心に
ポツンと佇んでいる。
《…。》
火事鬼、
昔、七瀬という名前だった人間。
ケイトは現祓を握りしめ、
離す。
握りしめては、
離す。
どうすればいいかわからない、
どうすれば、
いいか。




