桃色吐息
「吸血鬼…!!」
本や映画でしか観た事がない、
そんな存在、
妖怪と同じくこの世界に跋扈しているのか
《あっ…あはぁっ…あはんっ…》
突然現れ、
血を吸われたメイドのような女は、
倒れこんで恍惚の表情を浮かべ痙攣している。
《次はどんな手品で楽しませてくれる?》
吸ったフランシスカは完全復活、
神くんが決死の攻撃を与えたのにも関わらず、
怪我など一つもなく、
回復していた。
状況としてはかなりやばい。
また一からのスタート、
いや、
一からではない、
マイナス、
分身も全て時間経過で消えて、
その元となる人形代も本当に一枚も無いのだ。
それに追加で、
フランシスカから
一撃をもらっているこの右肩、
とうとう痛みを通り越して麻痺し始めている。
振れるか?
刀を。
更には防御する手段もしばらくは無い。
身体に纏う心の式をもう先ほどの一撃で使い果たした。
万事休す。
《…ん?何だ?もう終わりか?》
《そういう顔色をしている、》
《負けが滲んだ顔色を…。》
つかつかとこちらに歩いてきて、
胸へ前蹴り、
たまらず吹き飛ぶ神くん。
《楽しませてくれると思っていたのに、》
《なんだ、なんだよ、残念だ…!!》
また更に前蹴り、左腕でガード、
だが、吹き飛んで、
とうとう屋根のキワまで追いやられた。
ここは何階だろうか、
落ちて当たりどころが悪ければ死ぬ高さだろう
《次は、カタナの妹だ。》
ケイトの事をフランシスカは言っている。
神くんを片付けた後、
ケイトを。
無力、無力すぎる。
とんでもない相手なのはわかっていたが、
差がありすぎた。
もうこうなったらどうにでもなれだ、
神くんは迫るフランシスカの生脚に抱きついた。
ホットパンツ?から伸びた細くしなやかなその生脚に、
頰ずり…するつもりはないが、
抱きしめ、しがみつく。
《…何をしている?》
「行かせない、行かせないぞ!!」
二、三振りほどくが、
神くんは必死だ。
しがみつく。
呆れ果てたフランシスカは斧の持ち手を構えて、
柄の末端に付いている鋭く尖った部分を、
神くんの眉間へ狙いつけた。
《まあ、60点、ってとこだったよ。》
100点中?
いや、1000点中だ。
覚悟を決め、
目を閉じる神くん、
その時、
《お待ちくださいませ、フラン様、》
先ほどのメイド?
神くんは再び目を開ける。
ふらふらになりながら、
ゆらりとこちらへ歩み寄り、
《人間をここで殺してしまうと後々面倒なことになります。》
《もちろん、処理などはお任せくださいませ。ですが、》
《行方不明という事実は消せないまま…これは、法皇様の名誉に傷をつけかねません。》
フランシスカは黙って聞いている。
《それに…フラン様は来週から…》
ここで声を荒げて
続きを止めさせた。
《黙れマリー!!》
マリーと呼ばれたメイドは膝をつき、
こうべを垂れた。
そして脚元の神くんを見つめる。
神くんももちろん、フランシスカを睨む。
《ちっ…!!》
違う足で神くんを蹴り上げ、
脚元から離した。
《まあよい、まぁ、よい。》
自分に言い聞かせるようにうなづきを繰り返し、
そして、
斧と纏っていた紅を消して、
《このフランシスカ様を少しは楽しませた男、騎士として認めてやろう。》
神くんへ細い白指をさして、
《拾った命で励め、そして、私に誇り高く殺されろ。》
胸を打つ、
刺さる、
屈辱的な言葉、
生かされた、あえて。
《ふはははは!!》
手を広げ、笑うフランシスカ。
《エクセレンテ〜フラン様はエクセレンテ〜》
そこへ桃色の花びらを散らかし、
歌うメイドのマリー
その花びらを被り、
フランシスカは長い髪を撫でて浮かせた。
《興が削がれた、マリー、母上も来ているのだろう?》
《帰るぞ、私は。》
どうやら、
ケイトを追うつもりがなくなったようで、
それ朗報と、
《フラン様、帰ったらカモミールティーを淹れますわ、ティータイムになさいましょう。》
マリーが手を打っておどけた。
それに
フランシスカは、うむ、
と
顎を引いて、
どこかへ飛んで行ってしまった。
助かった…のか?
神くんに少し安堵の表情が出てきた。
ついさっきまで死ぬ覚悟をしていた。
緊張と緩和、見事なまでの。
すると、
マリーは常に薄ら笑いだった不気味な表情を
冷静なものへ戻して、
神くんへヒールを鳴らして近寄ってくる。
《あなた、あなた…あなた…!!》
顔をすぐそばまで近づける。
お互いの鼻と鼻がくっつきそう。
神くんは驚いて腰を下ろしながらも後ずさる。
《あなた…ふふ、あなた、可愛い顔をしてるのね。》
神くんの細い顎を手で猫を可愛がるように撫でる。
《可愛いあなた、覚えておきなさい…》
その弄んだ顎を強く握り、
自分の唇へ、
神くんの唇を引き寄せる
《…フラン様に、傷をつけた事、》
《許すまじ、行為…!!》
顎を離して、
掃除が終わったように手を叩いて払う。
《…許さない、許さないわよ、ジャパニーズポーイ。》
マリーの吐息は桃の香りがした。




