常衆
青葉山の麓に広がる青葉市は、
坂道が多い丘陵地帯である。
その為、強い風が吹くと
その青葉山から駆けおりる様に
一気に街を吹き抜けて、
さらに強まる風、
青葉おろし
などと呼ばれ、人々を困らせた。
この青葉おろし、
そこに火事が加わると、
それは時として歴史的な大火となる。
《どこからでもいい!火をつけて回れ!はははは!!》
こんな天気の良い昼下がり、
盛鬼は火事鬼を連れて放火して歩く。
《あの密集した平屋を狙え、連鎖して焼ける!》
火事鬼は虚ろな黒い瞳をして、
口から火を放つ。
通行人や住人たちはもちろん出火に気づくが、
火事鬼が見えないせいで
何故火事になるかわからない、
とりあえず消化作業に当たるのだ。
そんな様子を遠巻きに見つめる黒い猫、
《これは大変なことになったわい。》
四つ足ですくっと立ち上がり、どこかへ向かう。
向かったのは青葉おろしの原因でもある青葉山、
その深い森の中へ進んでいくと、
古き常妖怪の総本山、
鍾乳洞窟があった。
《街が大変なことになっとるぞ!》
黒猫が暗闇に叫ぶ。
それからしばらくして、
ろうそくに火が灯る。
この洞窟、
それほど広い洞窟ではない。
だが、
登山客たちにはカモフラージュのため、
入り口が見えない様になっている。
《猫叉か、なんじゃ騒々しい》
岩の様な顔をした老人が
その暗闇から
灯りに照らされ顔を出した。
《子泣き爺!街が現にやられて大変なことになっておるんじゃ!》
更に明かりに照らされたもう1人、
《ケロケロケロケロ…》
緑色の艶やかな肌をして、
青い目をした妖怪が現れた。
猫叉と呼ばれる
黒猫がまた呼びかける
《河童もおったか!ちょうど良かった!お主の水術で街を救ってくれ!》
焦る猫叉、
しかし相手の2人はなにやら消極的で、
《わしらに何ができるというんだ。言ったところで現にやられるのが落ちじゃ。こうなったのは青葉の天命、それを受け入れるのも大事じゃて。》
子泣き爺と呼ばれた老人は
腰が痛いと言い、またその辺に寝転がる。
《何を言っておる!そもそも現を抑えるのがわしらの役目、わしらの責任でもあるんじゃ!》
猫叉は威嚇するあの、しゃーをしながら熱弁するが、
この2人には届かず、
《ケロケロ…》
河童も座り込み、
甲羅を背負ったその背中を丸めた。
《…うぐぐ、もう、》
《もうよい!お主らにはもう頼まぬ!》
猫叉はどこかうっすらその小さな瞳に涙を浮かべ、
《情けない…!情けないわ!このていたらく!ダイダラ様になんと申し訳をつけたらいいのやら…》
尻尾を立て、
洞窟を飛び出す猫叉。
《こうなったら、わしだけでも…!》
しかし現実は無情、
このような小さな猫にできることなど何もない。




