優しい男
「晴名さん、大丈夫?血が出てるよ…」
ズボンのポケットから紺色のハンカチを取り出し、
ケイトに差し出す神。
2人は蕪鬼を倒した。
無論、
魂も回収し、
残りは2つとなった。
「あ、ありがと。」
男子のくせにハンカチなんて持ってるの?
手を洗った時とか拭くのかな?
けど、
受け取ったこれは未使用で、
清潔感に溢れているハンカチだ。
「鼻を骨折したりしていない?大丈夫?」
心配してくれて、
ソワソワしてくれるのはありがたいのかもしれないけど、
これくらいなら、
しばらくしたら、
治っちゃうんだよね…あたし。
「うん、大丈夫、ありがと。」
受け取ったが、
本当に大丈夫だったので
使わずにそのハンカチを返した。
「…。」
それから2人は沈黙に入る。
ケイトとしては、
間一髪でさっきは神くんに助けてもらった。
正直、
いなかったら死んでたかもしれない。
お礼、言わなくちゃ…とは思っているが、
なかなか口が重い。
神くんは神くんで、
今握っている刀が何なのかも、
先ほどいた手負いの男に刀を向けて、
攻撃してしまった。
だが、
そいつは灰となって消えて…
何が何やらわからず、
とにかく今はケイトの心配をすることで、
冷静さを保っている。
『あの…』
タイミングが被って同時に発声してしまった。
「あ、どうぞ…」
「いや、晴名さんから…」
ここは敢えて酒呑童子は黙りを決め込み、
このもどかしい2人の若人の様子を伺っていた。
「…神くん、刀、しまったら?」
とりあえず、
刀を握られたまま話されるのは落ち着かない。
とここで、
ああ、しまい方がわからないのか。
「その刀に、名前があって…その、ばさら?だっけ。ばさら、戻れとかそんなことを言えば多分しまえるよ…。」
顔がヒリヒリして熱い。
口のなかも血まみれで、鉄の味がする。
そんな顔をあまり見られたくないので、
ケイトは背中でそう言った。
神くんはケイトに言われた通り、
「戻れ、刃沙羅」
すると、
ケイトがいつもやってるように、
手のひらへ刀が吸い込まれていった。
「おおっ」
神くんはそれにリアクション。
ケイトはますます頭も痛くなる。
一番の原因は、
巻き込んでしまったこと。
なんで鬼が神くんに見えるのか、
酒呑童子の刀を使えるのか、
妖力があるのかわからない、
けど、
神くんには関係のない戦いなんだ。
お兄ちゃんを取り戻すための戦い。
自分の街を守るための戦い。
…自分の街を、
…それなら神くんにも戦う権利がある?
…というより、
神くんはあたしより戦いのセンスがある。
先ほどの黒づくめの鬼、
2人で倒したって言ったけど、
神くんが倒したようなもので、
脳天に、剣道でいう面?を放ったあの一撃、
完全に経験者…。
「晴名さん、どういう状況なの…?」
「なんで戦っていたの?さっきのやつは、何?」
不意に聞かれた。
「は、はい?」
油断していた、答えを急いで探す。
ここで酒呑童子が、
《こうなったらこの少年に事情を説明して、巻き込んでしまうのはどうですか?この少年、少なくとも才はある。》
《剣術はさておき、妖力は磨けば光るかもしれません。》
…え、それはダメ!
「何を言ってるの!?」
集魂石の向こう側に言ったつもりの独り言、
「あ、いや、答えたくなければ答えなくてもいいんだけどさ。」
神くんに拾われる。
「あーそうじゃなくて…。」
ケイトは両手で状況に困り、頭を抱えた。
頭を抱える、
という表現は、本当に困った時本当に出るんだ
と、再認識できる。
もうこうなったら巻き込む巻き込まないは置いておいて、
「…あの、実はね」
ある程度のことを話した。
細かいところははしょって。
「…お兄さん、何度か遊んでもらった記憶があるよ。木登りをしたり、野球したりしたけど、どれも抜群に上手かったのをよく覚えてる。」
…ほら、手を伸ばして、こっちだ!
神は目を閉じて、
幼少の記憶を辿る、
誰も登ったことない場所へ
いとも簡単に到達したケイトの兄の。
「…そして、この街が危ないって事もよくわかったよ。」
災いが迫る青葉市。
神は拳を握り、
打ち明ける。
「晴名さん、僕にもその荷物を背負わせてよ。僕もこの街に住んでる者、この街が大好きな者として。」
ケイトは浮かない顔で神を見つめている。
「…そりゃ、こっちとしてはそう言ってもらえたら嬉しいんだけど…ほんとに危険で大変なんだよ?」
現に何回か死にかけた。
だが、
間髪入れずに神くんは
「けど君は乗り越えてきた。」
じわっと涙が瞳に潤む。
ああそうだ、
怖い、
痛い思いをしてここまで乗り越えて来た。
「その壁を乗り越える為に、晴名さんが背負った荷物が軽くなるなら、僕は喜んでそれを背負おう。」
…優しい、優しすぎる。
…なんで
あたしなんかの為にそんなこと言うの。
とりあえず何も言わずに、
「…さっきの鬼、ここには自分たちしかいなくて、別の場所で さかき って人が計画を進めてるって言ってたよね。」
「狙いはまた別の所にある。それを探さなきゃ…」
探さなきゃ、件の災いが来て、
青葉は燃えて、
神くんは…
死ぬ。




