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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
壱の章 あにあつめ
34/127




「晴名さん!!」



突如現れた神 衛花、

彼は酒呑童子が首をかしげるような行動を幾つかしてみせる。


まず、痙攣を起こすケイトを確認している。

問題は次だ。


「…っ。」




そこへ迫る蕪鬼も確認しているのだ。


通常の人間に鬼の存在は見えない。

妖力を持ったものが初めて見えるようになる。



なのに、

神は蕪鬼を視認した。



そして、


「うわあああ!!」


ケイトを守るためにそこへ走って向かうのだ。



《無謀、いや、果敢なのでしょうか?》



何故だ?

怖くないのか?

視認したものが

ぼたぼたと血を垂れ流し、

肩がパックリと口を開けている、

そこへ走って飛び込むその勇気はなんだ?



首をかしげた酒呑童子は

ますます神に興味を持ってしまい、

このあとどうするのか少し様子を見てみよう

なんて

呑気な事になってしまった。



「…僕が、相手だ!!」



滑り込む形でケイトの前に立ち、

両手をいっぱいに広げる神は

蕪鬼に対峙する。



《また面白い人間が出てきたな。》


蕪鬼は特に問題ではないようで、

そう来るなら順番が変わるだけ、

やることは変わらない様子。




神はここへ向かうケイトを実家の屋根から見ており、


あとをつけた、

という言い方には悪意があるが、


屋根を飛び渡るケイトに違和感を覚えて、

心配な気持ちでここまでやって来た。





「…僕が守る!!」


神は一度ケイトに助けられており、

その恩を強く感じているのか、

怖い気持ちを押し殺し、

この鬼と対決しようとしている。


だが、

あまりに無謀。


妖力を纏っていない人間など、

鬼からすればちり紙を破るようなもの。




酒呑童子はニヤリと笑い、


ケイトが戦闘不能なこの状況を打破する為、

この少年に賭けてみようと思っていた。




「…えっ、手のひらが、温かくなって…!」




ケイトが現祓を出すのと同じく、

神の手のひらから何かが現れる。


《この少年、気に入りましたよ…これを貸して上げましょうか。》




一振りの刀が現れ、

それを握りしめる神。


「これは、刀…!?」


《刃沙羅(ばさら)、きっと気に入りますよ。》


見た目はよくある日本刀と同じ、

違うのは刀身がギザギザで、

柄の端に二本の帯が揺らめいている。




これはさすがに蕪鬼も驚いた。


《また刀を使う人間か。》




立ち上がり、構える神。


《ほう、五行、正眼の構え…少しは出来ますか。》


酒呑童子の目が光る。




正眼の構え、

相手の目線と自分の目線が結ぶところにきっさきを持って行き、

へそより少し上で柄を握る


神は剣道をやっていた。






《どいつもこいつも、丸腰相手に獲物向けるとは、人間に武士道ってやつは無いのか?》


やれやれ、と

神に対峙する蕪鬼は

無事な左手でこめかみを掻く。




「なにが武士道だ!女の子をこんなひどい目に遭わせて!」


左足をじりっと前に出し、

いつでも

一拍子でどこでも叩ける準備をする神。



しかし、


《さすがに怖いか。》




柄を持つ手、剣先、肩が震える。


汗がブワッと吹き出る。


真剣を握ったこともないだろう、

そして、

何かを斬った事すらも。




《さてと…》


《…殺合(や)るか。》




気にしない蕪鬼。

右腕が取れそうになっているのに、

想像を絶する痛みのはずなのに、

倒したと思ったらまた別の人間が湧いたのに。


左手を前にして、

突進してきた。


《刀で突き刺すなら突き刺せ!斬り払うなら払え!貴様のどんな一太刀も、まずこの左手で受けて、それから仕掛けてやろう!》



考え方がそもそも違う。

左手を捨てる前提での攻撃。

鬼ならではの発想。


バカなことを言っているのは神にもわかるが、


本当にそうするであろうという、

プレッシャーがビシビシ伝わってくる。



《何故下がるのです!?》


酒呑童子が叫んだ!



神は逃げた、

蕪鬼のプレッシャーに負けた、怯んだ!




刀を持っているだけ、

妖力すら纏えない神はノーガードそのもの。


《バカだな》


そのまま手を断てばよかった、

なのにそうしない。

そうされる予定だった左手はこれから自由奔放に神を弄ぶだろう。




「っぶはぁ!!!!」




その腕白な左手が肘の先から吹き飛ぶ。


そこに伸びるは、白雪の剣、

現祓!!





空中で回転した蕪鬼の左腕は、

斬り口から血を吹き出し

周りをずいぶん散らかした。



《おっと、お目覚めかい》




刀を払い終えたケイトが今度は神の前に立った。


「はあ、はあ、いてえ、はあ、」




顔に纏っていた残り少ない妖力が生きていた。


鼻を骨折し、

呼吸もままならなかったが、

妖力がそこを治癒、

神が稼いだ時間によって、

ケイト復活。


「神、くん、なんで、ここに、」


息も絶え絶え、

ケイトはしっかり蕪鬼を見据え、

刀を構えたまま、

背中の神に問う。


「え、えっと、その、晴名さんを見かけて…」




蕪鬼は無くなった両手を見つめていた。


《タバコ、もう吸えねえなあ。》



彼にしてみれば絶体絶命の状況、

なのに、

呑気に笑みを浮かべ、

嗜好品への未練を垂らす。




《まあ、いいや。》




最期を悟って、

蕪鬼は説明を始めた。


《ここにはもう俺と操鬼しかいねえんだよ。》


《盛鬼様は、別の場所で計画を進めてる。》


《俺たちは時間稼ぎ、計画を何故知ってるのか知らねえが、》


《お前らの負けだ。》




最後の悪あがきなのか、

大きく口を開け、

ケイトと神に向かう蕪鬼。


《この街はもう!火の海だぁああああ!!!》





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