人形乱舞
向かい合うケイトと操鬼、
違うのは、
操鬼の前に人形2人、
そして先ほどケイトと対した後方の人形1人、
4対1の形。
《糸が見えるの?普通の人間、って訳じゃないのか。》
人形とバレたなら、
わざわざ人間のフリをする必要はない、
指を少し動かし、
黒服たちを本来の人形らしい動きに変えた。
《かかかこここここここ》
関節をありえない方向にひねり、
不気味に揺れる。
ケイトはそれに動じず、
まばたきを忘れ、
集中する。
業への、集中を。
未来堂での修行は単純なものだった。
「はっ!はっ!」
酒呑童子の手拍子に合わせて、
現祓と妖力をひたすら同時に出し入れする。
《乱れています、集中して静まりなさい。》
妖力を纏いながらの座禅。
ロウソクの火が絶えるまでひたすら。
そして食事、
どろりとした無味無臭のあの粥を食べる。
「うえっ、まじい。」
チャンバラをしたり、
なんだりかんだりの実戦形式は全くない。
ただ、ひたすらに
妖力を高めた。
この修行には狙いがある、
それは、
妖力のコントロールだ。
妖力の出し入れをひたすら繰り返すことにより、妖力を体内の中での生成、発現がスムーズになる。
これにより、
不意な攻撃にも妖力で防御でき、
こないだのような重症になるようなアクシデントを避けたり、
妖力による咄嗟の攻撃を繰り出せるようになる。
座禅による、心の強化で妖力に落ち着きをもたせ、無駄な消費を抑えることができる。
これにより、
ただでさえ無尽蔵なケイトの妖力が更に底上げできるようになる。
そして、
あの粥、
あれは…
単なる酒呑童子の嫌がらせである。
「えっ、そうなの!?」
《はい、あの粥にはなんの意味もありません。》
なぜこの場でそんなカミングアウトをする。
《まあ、少なくとも今のケイト様にはね。》
…と、
…意味深な含みを忘れない。
その時だった。
《かかかかか》
後ろの人形が背中へ迫った。
けどそこは大丈夫、
集中している!
あえて目線で捉えず、
ノールックで現祓をそこへ伸ばした。
相変わらず手応えのない!
胸に刺さったが、
ビクともしない。
そしてその刀身を人形は手のひらで包み、
現祓をその身で抑えつけた!
「掴ん…離して!」
刀が抜けない、
操鬼の眼鏡レンズが光る
その隙を逃すわけがない
《ガラ空きだよ!》
正面で操る人形2人をケイトへ向かわせる!
しかし、
良い機会だったのはこちらも同じと、
酒呑童子が声を荒げた
《ケイト様!今です!》
準備はしていた、
業だ!
「はああああああ!!!!!」
ケイトのとっておき、
業とは、
ケイトの身体から湧き出る妖力を、
現祓に全て向かわせるというもの、
現祓の白い刀身は
透き通った蒼色に輝き、
《かっ》
刺された人形は
その妖力の凄まじさに爆砕する
刀が抜けた一連の流れで、
そのまま向かってきた2人の人形も
業で煌めいた現祓が一気に両断する
「はあ、はあ、はあ、」
眼鏡をずらし、
唖然として
口を閉じるのを忘れる操鬼。
人形はいくら斬られても行動を止めない、
なぜなら、
操鬼が妖力の糸で操作している以上、
身体がどうなろうが活動し続けられる。
だが、
ケイトは知らず知らずのうちに
その糸ごと両断、
爆砕した1体、そしてその2体が動かなくなったことに驚いたのだ。
「これで、人形は無くなった!」
肩で少し息をし、
笑顔を浮かべるケイト。
その表情に苛立ちを覚えた操鬼は、
両の手のひらをこちらに差し出す。
《人形が無くなった?それで勝ったつもりか?》
牙を見せ、
とうとう薄ら笑いを止めた。
《人間如きが…!》
操鬼の
その手のひらの前に人影がぼんやり浮かんでくる、
その影はどんどん輪郭を現し、
現実化していく。
《こんな人形、いくらでも増やせるわ!!!》
先ほどと同じような人形がまた現れた!
いや、
その人形、先ほどよりもひとまわり大きい。
「う、嘘でしょ」
そして何より先ほどと違うのは、
《ふははは!!!》
榊ファイナンス前の路地を
埋め尽くすほどの数、
裕に100体は超えている。
ぞわぞわと、
蠢き、
生きた、壁。
圧倒的、圧力。
この人形こそも糸と同じ、
操鬼の妖力でできており、
妖力の続く限りは量産し続けることができる。
《何がお望みだあ?》
《撲殺か?嬲殺か?》
《切刻殺かああああ?》
人形の軍隊が足音を鳴らし、
ケイトへ向かう
「三体でも、大変だったのに、何で」
目の前の圧倒的光景に、
折れそうな心、
とりあえず刀を構えるが、
そこに先ほどの気迫はない。
《ケイト様!》
そんなケイトへ酒呑童子が喝。
びっくりして
姿勢を正す。
《大丈夫、あなた様をあんな人形にやられるようには教育していませんよ、私は。》
《構えなさいませ、現祓を!》




