蓋
4日目、
木曜日、
あたしはバカだ。
いや、
バァカだった。
もう、こんな便利な力は無いと開き直って、
筋肉痛や全身疲労を
現祓で回復すればよかったんだ。
それに気づいて、
それからはみるみる内に体力が回復していった。
そう、
肩の骨折も問題ない。
「治ってる…の?」
2人は驚いていた。
「肩が折れてたんだよ!?顔もあんなに傷だらけで、鼻も折れてた!なのに、治ったの!?」
2人はあのマンションにいて、
朝早速会いに行った。
「…あ、えーと…まあ、身体は丈夫な方なんです…。」
誤魔化せてるとは思えないが、
そう言うしかない。
またバァカやってしまった。
格好だけでも傷だらけを装えばよかったか。
また部屋に入れてもらって、
「こ、これ、ありがとうございました。」
彼女さんのスウェットを返した。
洗濯して、
ドライヤーで十分乾かした。
けど、
血が落ちきらなかった…。
でもとりあえず返さなきゃと思って持ってきたんだ。
「あ、いいのに別に。汚れてるし。」
…やっぱり、突き返されてしまった。
彼女さんはこちらへスウェットの入った袋を押し戻す。
「…やっぱり、そうですよね。じゃあ、せめてこれを。」
もう1つ、
クッキーを焼いた。
朝5時くらいから…。
…けど、手作りのクッキー…なんて、食べたくないかも…。
「あ、ああ、ありがとう。手作り…。」
彼氏さんは苦笑いで受け取ってくれた。
やっぱり嫌だよね!?
わかってた、わかってたけども!!
「なんか、すみません…。」
何もかもが裏目だ。
最悪のバァカだ。
「…あ、あの…。」
話を変えなければ、
あのことを切り出す。
「あなたを、彼氏さんをあの時あたしは尾行していました。」
「すると、二重尾行って言うんでしょうか?そのあたしが尾行されてまして…あんなことに。」
「お心当たり、ありませんでしょうか?」
正座をし、
もじもじしながら言う。
この姿も不気味だろうな。
すると彼氏さんが、
「…あの、君は何故僕を尾行したのかな?」
…気まずい。
…少し彼氏さんの顔をまじまじと見てしまったが、昨日と変わらず傷だらけ、
なのにあたしは無傷…これも気まずい。
あう…なんて言おうか。
「あなたの身体中に現との接触を示す黒い色が付いていたので、現を探す糸口になるかと思って尾行しました!」
なんて言えるわけがない。
ましてや彼女さんの前、
下手なことを言えば余計面倒な事になる。
かと言ってなんて言えばいいのか…。
「あ、えっと…それは…」
考えるしかない、
けど長考はダメだ、数秒で考えるしかない!
「あの、その、青葉の交差点の…」
「榊さんの関係者?」
彼女さんがセリフを覆うように返してきた。
これはチャンス。
顔を縦にぶんぶん振った。
もうその何とかさんの関係者って事にしよう!
そしたらそれがまた裏目に出た。
「なら出てって!!話すことなんて何も無い!!」
クッキーも投げつけられた。
ええっ!?
マジで!?
「あ、いや!その!あたしは…!!」
「もう放っておいてよ!!」
立ち上がる彼女さん、
それを抑える彼氏さん、
「ちょっと、ショーコ!落ち着け!」
「離して!!」
や、やばい、
やばい事になってしまった
取り乱す彼女さんに
彼氏さんがわかってほしいと言わんばかりに声を荒げる、
「ショーコ!この子が榊さんの関係者なら何でボコボコにされたんだ!?関係者なら尾行もされないし、ボコボコにもされない!」
そう言うと、
ショーコ?さんはおとなしくなって、
「君、本当のこと言ってよ、何で尾けた?」
彼氏さんとショーコさんはゆっくりまた座り直した。
確かに関係者ならあたしとあの黒ずくめの2人で協力して、彼氏さんをどうこうするはずなのはあたしでも理解できた。
こうなったら本当のことを言うしか無い。
理解されないかもしれないけど…
「…実、実は…」
…けど妖怪とか、現とか常とか、
…そんなこと真面目に言って通用するのか、
…自分自身ですら半信半疑なのに。
「…やっぱり言わなくていいよ。」
手のひらを見せて、
少し笑う彼氏さん。
「理由はどうあれ、尾行してたとは言え、まあ、君がそんなに悪い人には見えないし、」
「…まあ、どうでもいいよ。はは。」
七瀬自身にはもう、
退廃的な考え方しかなかった。
青葉を火の海に変えなければならない。
そう考えればケイトのした事や、何者か何て事はすぐにどうでもよくなる。
「…お邪魔しました。」
頭を下げ、
持ってきた荷物を持って帰ったケイト。
ドアが閉まり、
エレベーターを降りる。
「…ほんとのこと、言えなかった。」
何も言えず、
何も救えず、
ケイトは2人に蓋をした。




