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3日目
全身を筋肉痛と疲労が襲い、
何もせず家に1日居てしまった。
動けない。
布団から、出られない。
目が覚めては、
また数分後に眠り、
あと4つも現の魂を集めなきゃならないのに、
何もできなかった。
…何故なら、
…酒呑童子との、業の修行があったからだ。
《ほほほ!素直に!邪念を取り払いなさい!!》
《違います!それでは妖力をコントロールできません!!》
《あなた様はバァカなのですか!?》
どうやら、
神社の中は時間の流れが遅いようで、
向こうの1週間が、
こっちの1日らしい。
そう、
その、修行、
まるまる向こうで1週間やらされたのだ。
妖力って何?
という状態から、
おかげさまで何とか妖力とはまあ、だいたいこういうものだ、くらいまでにはなりました。
…というより、
…1週間も バァカ みたいにあんなことばかりやってたら誰だってそれくらいにはなれるようになる気がする。
…あぁ!ムカつく!!
…酒呑童子のバカのあのイントネーション!!
…バァカ!ってなんで小さいァを間に入れんだ!?
《バァカ!!》
頭から離れない、
バァカというあのイントネーション。
気づけばもう夕方、
帰ってきた朝方よりかは身体がマシだ。
お腹も空いたので何か食べようか。
重い身体をゆっくり起こして、
台所へダラダラ向かう。
「…何か、しょっぱいものを食べたい。」
ついつい出た独り言。
何故なら、
向こうで食べていたのは、
《おかゆです。》
おかゆ…
「おかゆ、のみ?」
《のみ。》
いばらちゃんまで…
3人で囲う食卓。
境内の隅に酒呑童子の生活スペースがあった。
俗に言う、離れってやつ。
そこは5畳くらいしかない狭い部屋で、
畳張りの、ちゃぶ台があるだけ。
なんてことない貧乏な和室だが、
ひときわ目を引くのは、
まん丸な黒い大きな石。
ボーリングの球のような、その石はまさしく、
「集魂石…?」
自分が持ってる手のひら大とは違う、
ここから人のプライバシーを覗き見ていたのか。
…ああ、話を戻そう。
…あのバァカみたいなおかゆの話だ。
「何にも、味がない。」
無味無臭、
ほんとに何もない。
《いいえ、この味の向こう側には甘みや塩辛さがありますよ。わかりませんか?》
わからない、
むしろわかりたくない!
残そうとしたら残そうとしたで、
《最後まで食べなければこの部屋を出ることは許しませんよ?》
口はほほほと笑っていたが、
目がマジで…
仕方なく木のスプーンですくって、
すする…。
「…ああ!思い出すだけで嫌な気持ちになる!」
頭をかき乱し、
大声をあげてしまった。
《この粥は、我々にとって特別な粥なのです。そう、我々が我々であるための…》
適当にあったカレーメシに水を注ぐ。
そして電子レンジへ。
「明日は本当に現を探さなきゃ、あの人に会いに行こう。」
ケイトは七瀬とショーコの心配をしていた。
七瀬、
名も知らぬ青年が、
闇にどんどんハマってしまっている。
「人間が現になることもある、か。」
現の最大の特徴、それは人が現に転生できることだ。
悪意や邪気、
悲しみや怒りが時として人を変えてしまう。
常には無い、力。
《人はなあ、容易い。》
同じ夜、
青葉の高級クラブに七瀬をハメた榊の姿。
《どんな人間も、心の隙を突けば…あとは転がっていくだけ。》
膝の上にクラブのナンバーワンを乗せ、
はだけた胸の谷間に
太い人差し指を滑り込ませていく。
「榊さん、あっ、いけません…」
取り巻き達は床に座り、
榊の講釈とセクハラをただ聞いて見つめる。
店内の愚行を咎めるものなど誰もいない。
《あと一押し、しておこうか、七瀬。》
ナンバーワンの顎をもたげて、
榊は無理やりに
相手を喰ってしまうかのような激しいキスをして、
高らかに笑った。




