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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
壱の章 あにあつめ
19/127

修羅になる




…呼び鈴が鳴り、


「ちょっとどういうことか説明して!!」



怒号と共に出迎えられる七瀬とケイト。


「話は後で…!!今はとりあえず風呂に入れてあげてくれ!」



七瀬自身応急処置が先か迷ったが、

小便まみれでこのまま過ごすのはいくらなんでも女の子には可哀想過ぎる。


失神してくれたことも甲斐あって、

とりあえず風呂を優先させた。




…ショーコは仕方なく、


…七瀬は苦笑いをして

ケイトを風呂場へ連れて行った。






それから一時間ほどでケイトが痛みと共に目覚める。


「…あがああああっ!!!!」



全身痛くないところがないくらい痛い

特に肩、

肩がめちゃくちゃに痛い。



「ああ、堪えてくれ!堪えて!」


暴れるケイトを抑える七瀬とショーコ。




「説明して!何この子!?それにあんた今までどこ行ってたの!?」


説明が遅れたが、

やはり七瀬がやってきたのはショーコの家だ。



ショーコ、

七瀬の恋人、


サービス業の女の子。




「応急処置はしたよ、あとは病院に連れてけば何とかなると思うけど…」


「この子の怪我の説明はいいの!状況を説明して!!」



ジタバタを散々したあと、

ケイトはまた失神した。

失神、

いや、眠るような失神、



落ち着きを取り戻し、

2人はタバコに手を伸ばした。



「こんなとこで、獣医の勉強が役に立つとは思わなかったな…」


静かに立ち上る煙と煙。

そんなことはどうでもいいと、

眉のないショーコが睨む。



「あ、その、昨日の晩に、その、榊さんいるだろ?拉致られてさ…ははは。」


七瀬の言葉にショーコは心当たりがあった。


ショーコのお店を仕切る男、

榊。

死んでも忘れられない男。


「…はは、参ったよ。」



ショーコはそれを聞き、

スッピンの顔をさらに歪める


「…金は?」



七瀬の上着を掴み、揺さぶる


「お金!お金は!?どうしたの!?」



半狂乱気味に、

七瀬をひたすら揺さぶる


「答えて!答えてよ!!」



何も言わない七瀬。

その沈黙が答え。



「必死で…貯めたのに…汚い奴ら相手に、必死で…貯めたのに…」



取られた、全て。

2人で逃げるためのお金、全て。

財布はもちろん何もかも根こそぎで。

奴らからしたら当然だろう、

2人は逃げようとしたんだから。



七瀬は謝罪の言葉を言いかけたが、

そんな言葉は焼け石に水だし、

薄っぺらく聞こえるだろう。

喉元まで来たそれをグッと飲み込んだ。



耐え難い沈黙、

七瀬は口を開いてそれを解そうとした。


「…榊さんが、来るんだ。」



ショーコは完全に失意して

うな垂れ、

絨毯の毛並みをじっと見つめている。



「…仕事を、紹介してもらうんだ。」


「その仕事さ、結構でかい仕事で、」


「それを上手く出来れば、」


「俺たちさ、もうコソコソする必要、なくなるんだ。」




躊躇い、考え直しを繰り返しながら、

言葉を繋いでいく七瀬。



「それで変わる、俺たち。」



決心した。

どんな汚い仕事でも、

ショーコの為に何でもやると。


人が死んだり、

不幸になったり、

冷静に勘定すれば湧き起こりさえしない感情。




けど、

ショーコを不幸にしすぎた、悲しませすぎた。




笑ってくれるなら、

俺はどんな十字架も背負おう。


「もう、もうやだ…こんな生活…。」


涙で濡れ、

グズグズのショーコ。

湿った目元を手首で拭う。


「ショーコ。」



そっと抱き寄せ、

頭から包み込む七瀬。


その時見えていた、ケイトには。

右眼には。



どす黒い色が、

七瀬を同じく包み込んで行く所を。




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