闇に踏み入れる代償
「ずずずー。」
カフェラテを頼み直して二時間くらいたった。
交差点をこうやって眺めてるのにも飽きたし、
何より…
「…。」
カフェラテ2つで二時間粘るあたしを見る店員さんたちの視線が痛い。
…というか、
…いばらちゃんの分、払わされた。
「やっぱり、暗い色の人に目星つけて尾行とかしたほうがいいのかな。」
黒は妖怪の色、
黒っぽい色、紫とか茶色とか…
その時だった。
「…えっ、あっ!!」
青信号で横断する人の群れ、
その中に見つけた!
身なりがボロボロ、
弱々しい黄緑、
何より決定的なのは、
身体中無数にある黒い斑点模様の色!
「きたーっ!」
って、
浮かれてる場合じゃない。
あの人の向こう側には現、妖怪がいる。
…あれ、けどいばらちゃんも黒だ。
…現じゃなくて常がいるかも?
それに、
また戦わなきゃならないかもしれないんだ。
覚悟、
覚悟しなくちゃ…よし。
会計をさっと済ませて店を出る。
「ごちそうさまでした!」
もたもたしてたら見逃してしまう!
急いで走って先ほどの群衆に飛び込んだ。
「…うう、人混み嫌い」
この街は村同士の合併で出来たといばらちゃんは言ってたけど、
そんなこと気付かないくらい街は都会で、
人もお昼休み前というのにたくさんいる。
行き交う人々の隙間をぬって
先ほどの男を探す
「あれ~わかんなくなっちゃったかも…」
…いや、冷静になれ、あたし!
あの人は黄緑だった!
黄緑の色はなかなかいなかった!
寂しげな、
淡い黄緑!
人を見ないで、
色を見る。
モヤっと、立ち上るあの黄緑…
「…あ、いた!!」
次の歩行者信号を待ち、
くたびれて肩を落とすあの男がいた。
すぐさま近寄り、
気付かれないように側に行く。
「…気付かれないように、気付かれないように。」
そう、
この男、
灰色頭に脅された男、
七瀬。
「…ああ、腹減った。バス賃で全財産消えちまったよ…はは。」
ズボンのポケットに手を入れ、
俯く。
「…ショーコ、今行くからな…。」
ケイトはついに災いと現、両方の糸口をつかむ。
だが、
その先にはかなり危険な雰囲気、
それに現段階で気づけるわけがない。
「20代後半くらいの、さえない、中肉中背…」
見逃してしまった時のために、
七瀬の特徴を頭に刷り込むケイト。
そして、
いつでも刀を出せるように、
右手を繰り返し握っては放した。
そうしている内に、
人混みは遠くなって、
周りのビル群は次第に減っていく。
気づくとこの道を自分を含む数人しか歩いていないことに気づく。
「なんだかんだで自分でもどこかわからないとこまで来てしまった…。」
青葉に住んで長いが、
広いので行ったことない場所なんかはざらにある。
その時だった、
七瀬は角を曲がり、
「…ここに来てどうするの?」
大きなマンションの前に立ち止まった。
みすぼらしい外見とは正反対の立派な高級マンション。
オートロックだろうな、
誰か知り合いの家に来たのかな、
ケイトは可能性を模索する。
更にその時だった。
《お嬢さん。》
肩を叩かれた。
手でポンポンなんかじゃない、
硬くて長い…鉄の棒で。
肩にめり込んだ。
稲妻に当たったらたぶんこんな感じなんだろうか?
カランカランと、それが地面に転がった。
気を失いかけたその右眼で鉄パイプを確認した。
《あの男、あれを尾けてたな?》
膝をつき、
なんとか意識を保とうとしたケイトに、
黒いスーツ、黒い手袋、
肩幅の広い男は七瀬を指差した。
あまりの痛みで、
寒くなってくる。
そして何より、
左腕の感覚がない。
間違いない。
経験はないけど完全に肩の骨が折れてる。
「うっ…ぐぐっ…はあはあ、ぐっ…」
泣き叫びたい!
泣いて謝って許してもらいたい!
けど、
ここであたしが泣き叫んだら、
あの人はそれに気づいて警戒、もしくは逃げてしまう。
《尾けてどうする?言え》
激しい痛みのせいで、
足が勝手に悶えてバタつく。
そんなもの存在しないけど、
本能的に痛みのない場所へ行こう行こうと足がしているのか?
今度は髪の毛を掴まれ、
激しく揺さぶられる
そのせいで更に痛む肩
《言え、ほら》
目の前が一瞬真っ暗になって、
またすぐ明るくなった
あ、顔を膝かなんかで蹴られた
温かいものが鼻と口から込み上げる
…!!
吐いてしまった。
血液とカフェラテが混ざったモノを。
《言え》
うつ伏せになることを許してもらえない。
そしてもう一回蹴られる。
鼻と頬骨から乾いた音が聞こえた。
手のひらを開いて見せ、
泣いて謝る
「うっあ…あたひは…何も…」
不意に失禁してしまった。
股が温い。
きっと、失禁。
《…汚いね。》
髪の毛を離され、
ようやくうつ伏せになれた。
自分の漏らした ソレ の真上に。
《お嬢さん、物見遊山で探偵ごっこはやめときな。》
黒男は去った。
あたしを許してくれた。
うつ伏せになったまま、
肩が折れて起き上がることはできない。
そのまま、
ぬるくて臭いまま、
最低なまま、
「うっ…ううっ…うっ…くっ」
泣けてきた。
身体もブルブルと震えだして止まらない。
怖かっ…
「ぶぇええええええっ…!!」
痛いし
悲しいし
怖いし
動く右手で道路を引っ掻く。
《私の刀、現祓を出して下さい。治癒が早まります。》
パーカーのポケットから酒呑童子の声が聞こえた。
けど、
涙が溢れ、
やるせなくてどうしようもなくて
目を閉じて泣いた。
少し泣くと、
身体がふわっと軽くなった。
軽くなった、
浮いたような、
引き起こされたような。
「君、大丈夫かい…?ひどい怪我だな」
目を開けた。
「うっ、うっ、あっ」
尾行していた男、
七瀬だった。




