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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
壱の章 あにあつめ
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戦慄の紅


夜明け前の朝、


スニーカーの底で歩道を踏みしめる度、

懐かしさが蘇ってきた。


お兄ちゃんがまだ学生で、

あたしが幼稚園児だった頃、

あたしを起こさないように朝早く出て行く。


けど、

まだ幼いあたしはそれに気づいて駄々をこねる。


仕方ないので

ついてくることを許された。



アルバイトの新聞配達。

あそこにこのスポーツ新聞を入れてきてとか、


ここで牛乳がもらえるから休憩するかとか、


この手伝いが、

幼心に楽しみの1つでもあった。




「なつかしー、この静寂。」




車通りもなく、

普段は規則正しく赤青黄色を表示する信号が、


今は黄色で点滅している。



何故点滅するのかお兄ちゃんに尋ねたら、


「信号だって休憩したいのさ。」


なんて、

今思えば少しクサいこと言ってたけど、

あの頃はなんだか妙に納得した。




このゴーストタウンさながらの街を

のんびり歩いていたら、


正面、向こうから誰かが走ってくるのがわかった。



ジョギングしてる人だろうか?


ここで、

何気なく、

意識するまでもなく、

何故か右眼でその人を見ると、


眩しくはないが、

淡い、

広がりのある紅色の光を放っている。



「え、まさか(うつつ)!?」



ちょっと待って、

まだ心の準備ができていない。

以前もキッカケはいきなりだったけど、


神社に行って、

酒呑童子に会って、

いばらちゃんに背中を押されて、

それからようやく戦ったんだ。


このどれかで覚悟みたいなものが生まれてた気がする。


けど今は違う、

いきなりすぎる。



どんどんこちらに向かってくる紅。

逃げようか?

けど昨日の小人とは違う、


凄まじさ?

威圧感?

そういう、なんて言ったらいいかわからない感覚がある。


逃げられないような、感覚。



膝がいうことを聞かない。

完全に恐怖している。




とうとうすぐそばまで来た。


相手は自分より小さい、

きゃしゃな、

真っ黒なパーカー、

フードをかぶる、紅い…


《…♫》


…紅い少女。


ロックバンドでも聴いているのか、

付けているイヤホンから音が漏れている。

少女は顔を上げ、フードをまくった瞬間、


全身を針が通り抜けるような感覚、

戦慄?

言葉が適当なら多分戦慄、


瞳も紅い、

それに睨まれた。



「あ、う、あ…」


声が出ない。

紅い少女はイヤホンを乱暴に外す。


《…♫ …♫ …♫》


あたしと少女の空間に音が溢れる

そして少女は口を開いた。



《Estás o hermana de la espada japonesa.(刀の妹か。)》



…えっ、なんて?




《El ambiente es similar. Atmósfera de la espada japonesa es siempre azul.(やはりな、雰囲気が蒼いのは刀と同じだ。)》


何を言ってるかさっぱりわからない。

けど、二言目には笑顔を見せた。


あ、

もしかして敵意はないのかな?



少女は辺りを見回し、


《espada japonesa fue a dónde?(刀はどこにいる?)》



うわ、何言ってるか本当にわからない。

英語、ではなさそう。

けどアジアっぽくもない。


顔立ちから言葉までヨーロッパ的な…印象。



「は、はろぉ…ははは…」



もう、

なんというか、耐えきれなくなってついつい出てしまった。

万国共通の、ありきたりな挨拶。


すると少女はため息を吐いて、



《…馬鹿面、こんな奴にスペイン語は無理か》


《刀の妹なんだろう?刀はどこだ?》



ば、ばかづらって言われた…!

確かに、

賢い顔ではないのは承知してます誰よりも!


けど、

面と向かってそんな事言わなくても…

それに日本語話せるなら最初から話してほしい!いきなりスペイン語話せる日本人の方が圧倒的に少な…


…って、


刀の妹?

もしかして

お兄ちゃん?

お兄ちゃんのあだ名が 刀 なの?


《そうだ、お前の兄、刀、それは何処にいる?》



…なんで分かるの?


妹だって…。




《分かる。雰囲気が蒼だ。》




この時ようやく気付いた。


…わかった。



「同業者、の方ですか?」



少女は腕を組み、

くっと顎を引きうなづいた。



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