火の手、伸びる
近田は
神と比村に乾いた唇でこう言った、
「今日の殺試合夢の出場者は9人、そのうちの4人が試合を終えている。」
頭によぎる先ほどの人間の断末魔、
あれともう一組が居たのか。
近田は
先程からしていた腕組みをほどき、
「それでだ、次の試合は比村だ。頑張れよ。」
と笑って比村の肩を叩く。
「はい、って、えっ?」
「え?でもお?でもない、行け。」
比村は顔を振って長い前髪を揺らす。
「いや、あの、受付とか…?」
「そういう事は気にしなくていい、こっちでやっとくから、任せとけ。」
高級な腕時計を睨み、
時間がないと急かす近田。
「胆を決めろ!観客席を降りて向かって左側に赤い扉があるから、そこに入って試合だ。行くぞ!ほら!」
次の試合を待ち、
少し落ち着きを取り戻している観客たち、
その隙間隙間を進んで行く3人。
先ほどよりは隙間の間隔が広いので、
歩きやすさが全然違う。
「そしてそのまま神が比村の次、そして最後は俺だ。」
ここで
歩きながら神は近田の言葉に疑問をぶつける。
「その順番って何なんですか?」
受付も何もしていないのに、
次は比村、
次は神だと、どこから出てくるのか?
そんなの、
近田の答えは簡単だ、
「俺が勝手に決めてるだけだよ。」
そしてケイト、
ケイトは現世に戻り
変化した猫叉に背負われ、揺れていた。
Seventh starとの戦いで負った火傷などの傷は治癒していたが、
左眼は真っ黒い包帯で顔ごと斜めにグルグル巻きにされている。
《傷は治しましたが、ケイト様の左眼が酷い。そして、右腕は未だに動かず。》
《猫叉殿、殿平殿、川上様にどうか宜しくお伝え下さい。》
酒呑童子に送り出された猫叉と殿平、
2人は
建物と建物の屋根を飛び
川上のいる清浄会総本山、
青葉台高校
に向かって急いでいる。
酒呑童子の出した、ケイトを救う答えとは、
川上を頼る事だった。
《確かに、刻を急ぐなら川上殿を頼る他あるまいニャ。》
ケイトを背負う猫叉の横には、
殿平の姿も。
鳥居をくぐる前に言っていた
酒呑童子の言葉が殿平には引っかかる。
《ケイト様をお救い下されば、私の首を差し出しても構わない、そうお伝え下さい。》
…何故だ?
何故あんな大妖怪が、
こんな娘如きに命を懸けることが出来る?
殿平は唇を噛み、
酒呑童子の心を量る。
確かに川上先生を頼る事は簡単だ。
だが、
それは妖怪にとって大きなリスクとなる。
現に、私に塒を知られている。
それでも、構わないというのか?
「猫叉ちゃん…ちょっと待って…」
「えっ、何で」
数百メートル先の、
丘の上にある青葉台高校から、
火の手が上がり、煙が…。
おかしい様子に
色々な焦りを感じる殿平。
《これは…》
猫叉も視認した。
そして止まる足。
目が点になり
殿平は戦慄しながら自分の腕を抱く。
「まっ、まさか…」
黒塗りの横に長い高級車が
高校の駐車場の片隅に停まる。
少しだけ空いた窓からタバコの煙が上がって、
《ジュリアンさんよ、学生さんにたっぷり勉強を教えてやらんとなあ》
中にどっしりと深くシートに沈む盛鬼と、
向き合ってきちんと座る猫紳士、
《天下の清浄会ですから、逆に勉強させられるかもしれませんよ?フフ。》
ルカ夫人の執事ジュリアン、
2つの姿が
そこにあった。
一週間はお互いに手を出さない約束を
川上とルカ夫人は交わしたはずだが…
街で次々と伸びる
戦いの火の手が、
今度は青葉台高校に上がってしまった。




