いばらのなみだ
《これは貴方の。》
《これは貴方の。》
僕らがエレベーターを降りて
かれこれ30分くらい経つだろうか。
無表情だが
可愛らしいお嬢さん、
見た目は10歳にも満たないような
2人に手を引かれ、
花園の中央、
ガーデンテーブルに鎮座させられた僕らは、
ひたすら小さなソフトクリームを食べさせられている。
《ミアリさん、もう少し巻いて。これではこの方が可哀想で、不公平ですわ。》
《ならメアリさんが巻いて。わたくしだけ巻き係な事こそが不公平ですわ。》
最初にこのソフトクリームが出てきた時、
近田は神と比村に
(最近買った玩具なんだろう、あのソフトクリームメーカー。)
と
耳打ちをしている。
「ミアリ様、メアリ様、僕はやはりチョコレート味が好みですね。」
近田は愛想を振り、
心にもない事を言う。
すると、
2人は柔らかな髪を振り回し、
《近田はチョコレート味が好きなのね》
《近田が好きならもっと作らなきゃね》
ますますソフトクリーム屋さんごっこに力を入れ始める。
「ちょ、ちょっと!近田さん!」
神がすかさずツッコミ。
正直、
ちいさなソフトクリームとは言え、
何本も食べられない。。
皆、
もう五本以上は食べさせられている、
それはまるで
トイレとお友達になるくらいに。
しかし、
近田は口を閉じろと、
口元に指をおいて、
「ミアリ様、メアリ様、こちらにもチョコレート味を頂けますか?」
《はいよろこんで〜》
《はいよろこんで〜》
「ちょっ!?ちょっと!近田さん!!」
…比村はソフトクリームも子供も好きなので、
…この空間を誰よりも楽しんでいる。
その頃、
いばらは窮地に立たされていた。
《…。》
無言を貫いてはいるが、
肩に負った銃創で
右腕が使えない。
そんな彼女へ
「でぇりゃああ!!」
「ははっ!!とぉりゃああああ!!!」
無慈悲に放たれるセブンスの格闘、打撃。
手刀を前に、
右拳を引き、
膝を落として見せる構えから繰り出される
その打撃1つ1つには
当たれば致命傷、
という雰囲気を感じるが、
なんとかいばらは、
すり足の高速移動で
刹那の回避を見せる。
回避できている分、
いばらに分があるように見えるが、
それは違った。
「…次は眉間。」
問題は、
わかばのスキル、必中である。
このスキル、
大量の妖力を消費するため、
連続で使用できない、
が、
妖力を自然回復させ、
呼吸を整え、
集中力を高めるには
十分な時間をセブンスの格闘が稼いでくる。
いばらももちろん、
わかばを殺らないと殺られる事はわかっている。
強制二択、
星の子を殺るか?
いばらはセブンスと対峙しながら考える。
女の方が危険だ。
何故かわからないが、
女の攻撃を回避することが出来ない。
さらに分からないのが、
いきなり頭を狙わず肩を狙ってきたこと。
もう一つある、
連続で攻撃を仕掛けてこないこと。
試した?
通じるかどうか。
だが、
それならいきなり頭を狙えばいい。
頭を狙えない理由があるのか?
そして、
連続で攻撃ができない理由が?
分からない事は確かにあるが、
この疑問、
自分に敵をしている訳ではない。
寧ろ、追い風。
ならば、
疑問を信じ、
すぐに殺るべきか。
しかし、
この小僧がそれを許さないだろう。
この二人組は
組んで間もない感じではなく、
お互いの役割を助け合うような二人組。
脆い女の、盾が小僧。
だと
そう思っていたが違う。
盾のようで槍、
まるで、戟。
攻めながら守り、突き払う。
そして、
女のような特殊能力がもしあったとしたら、
背中を見せるのはまずい。
小僧がここまで見せたのは、
ただ純粋な己の肉体を使った格闘術のみ。
「あんたぁやっぱりヤるねえ!!」
「わっちも燃えてきたぞぉお!!」
このままだと回避されるだけ、と判断、
セブンスは後方に跳び、
いばらから少し距離を置く。
「こりゃ、"ブラック"にならんきゃダメだなぁ!!」
そう言うと、
先ほどまでの煌めいた銀髪が見る見るうちに
黒髪へと変貌し、
巨大な妖力の波動を身体から発生させ、
周りの建物や人々を一瞬だけ
激しく振動させた。
いばらの二択に対する疑問はすぐさま消滅する、
何故なら、
「…っよっと!!」
その後、
向こう側から
すぐさまいばらの目の前に瞬間移動のように現れ、
拳を振り下ろしたのだ。
《…っ!!》
「…受け止めたか。」
背を手で抑え、
刀を横一文字に構えて
何とか受け止めたいばら。
「…ブラック インパクトォオオ!!!!!」
よく見るとセブンスの拳は
光を吸い込むような漆黒の色、
受け止めたそれが刀をメキメキと鳴らし、
《…!》
いばらの足元は建物の地面にめり込んで行く、
の、
瞬間、
激しい爆音と衝撃共に
最下層へ思い切りいばらが吹き飛んで埋もれる!!
拳を撃って数刻のラグがあり、
大衝撃が放たれた。
撃った直後に後方へ飛んで、
宙で後転して着地する黒髪のセブンス。
「ちょ!ちょっと!!せっかく必中で狙ってたのに!!」
銃口を下ろし、
構えを解くわかば。
「仕方ない、追うよ!」
セブンスとわかばは
待ち伏せを警戒しながらも
建物に大きく空いた大穴に飛び込む
《…。》
だが、
いばらは待ち伏せできるほどの
正常な状態ではなかった。
完全に身体のどこかの骨がたくさん折れていて、
鬼羅の向こう側、
鬼羅鬼羅も消え、
自分を覆う瓦礫すらどかす事もできず、
とめどなく
口から血が溢れてくる。
…コントロール出来なかった。
さっさとケリを付けなかった、
俥も、奴ら2人も、
倒せたはず。
なのに、モタモタした理由、
それは鬼羅鬼羅があまりに強すぎる力ゆえ、
コントロールできず、
少しの力を小出しする以外、
暴走を抑える方法は無かった。
後悔がいばらを包み込む。
敵は星の子だけでは無かった、
敵は己にもいたのだ。
《いばら…!!》
酒呑童子は勿論知っている、
この状況、
この事態、
だが未来堂から出られない、縛られた身。
セブンスとわかばが地面に着地し、
「わっちはあっちを探す、わかばは」
「…わかってる、こっちを探す。」
消えたわかばを探索するようだ。
身を潜めるか?
いや、いずれ見つかる。
動く?
いや、もう身体は動かない。
助け?
いや、それはもう、無い。望めない。
ケイトは行った、
父上は来れない、
兄上は…来るわけない。
いや、そうではない。
「…ぃいいばらちゃあああああん!!!!」
大穴の上から聞こえる希望の叫び!!
セブンスとわかばもそこを見上げる
「助けに来たよぉおおお!!!!」
ケイトは戻ってきた!!!
《…ば、ばか。》
いばらの頬が温かく濡れたのは言うまでもない。




